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第百三十二話 後始末


「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」


 全身から脂汗と冷や汗が噴き出す。


 歴戦の猛者であるこの俺が……震えが止まらない……だと!?


 姿は確認できなかったが……地獄のような戦場ですらあんな殺気は知らんぞ。


 ぶるり――――


 思い出すだけで背筋が冷える。



「ふう……」

 

 ようやく呼吸が落ち着いてきたか。


 しかし危なかった……身代わりに発動する転移石が無ければあの一撃で間違いなく真っ二つにされていたな。


 一度しか使えない切り札を失ってしまったのは痛いが、命には代えられない。


 それにしても――――


 王国の主力は北部戦線に集中していると聞いていたが……あの女剣士といい、よもや在野にあれほどの強者がいるとは……王国攻略は半ば達成したものと楽観的だったが、少し認識を改めた方が良いかもしれんな。



 さて……どうやって帝国に戻ったものかな。


 それ以前にここは一体何処なのか、まずはそこからか。


 金も食料も無し。依頼を受けて路銀を稼ぐか……適当なヤツを殺して奪うか……。


 だがそれよりも今の問題はあの上官だな……部下を失った上にエルフを手に入れる任務にも失敗したとあっては理由に関係なく厳罰は免れまい。降格処分ならまだ相当マシ……気分屋の奴のことだ、場合によってはすべての責任を負わされて消される可能性もある……か。


 まったく厄介なことになったものだ。


 


 だが……待てよ、この際計画を前倒しにするか……?


 どうせこのままでは身の破滅が待ってるだけだ。

 

 ふふふ、そうだ、そうしよう。




 まずは手始めに――――



 ――――中将閣下を喰うか。


 俺自身がもっと強く、もっと上に登り詰めるために!!!



◇◇◇



「ファーガソンさま!!」


挿絵(By みてみん)


 セリーナが駆け寄ってくる。あの敵将が中々隙を見せなかったせいでセリーナには負担をかけてしまったが、息一つ上がっていないとはさすがだな。鍛え方が違うのもあるが、無駄な動きが一つもないからだろう。


 筋肉を極力使わず相手の攻撃の力を利用した回転の動き……力技に頼りがちな俺にとっても実に勉強になる。剣技に関しては間違いなく天才の部類だな。それも努力する天才だ。おまけに俺とは違って魔法も使えるからな。


 末恐ろしいとはきっとセリーナのような人間のことをいうのだろう。

 

「死体が無い……? まさか……あの敵将逃げたのですか?」

「ああ、手ごたえはあったんだが……何かの魔道具かもしれん。もしくはあのヤーコブとやらが使っていたようなおぞましい異能の類かもしれないが……」


 出来れば殺さずに捕らえて情報を取りたかったが、俺の直感がここで殺さないとヤバいと訴えて来た。それだけに逃がしたのは痛恨だったが、帝国が持つ力の……その源泉の一端が知れたことは大きい。知らずに戦っていたら致命的となった可能性もある。


「リエン、奴は近くにいるか?」

「いや、検知出来る範囲には居ないな。悔しいが逃げられたと見て良いだろう」


挿絵(By みてみん)


 帝国が相手だからな……リエンにとっての悔しさは俺の比ではないだろう。


「すまん、逃げられたのは俺の作戦ミスだ」

「いや、ファーガソンのせいではない。私もあの時はベストだと思ったのだからな。なるほど……これを使ったのか……身代わり系の魔道具……か」


 落ちていた石のようなものを拾い上げて眺めるリエン。真っ二つになったソレは明らかに人工的なものに見える。


「身代わり系の魔道具? そんなものがあるのか」

「ああ、ただし現在作れる者はいないと思う。おそらくは遺跡からの発掘品か旧家所蔵の家宝クラスだろう」


 それほど貴重なモノであれば多用は出来ないか。そこだけは救いだな。


 魔道具コレクターのエリンだったら持っているかもしれないから今度会ったら聞いてみるか。



「あの……助けてくださりありがとうございます」

「あ、ありがとうございました!!」


 救出された若いエルフ――――とは言っても見た目で年齢はわからないが、何となく若い気がする――――の女性二人が頭を下げる。


「私からもエルフを代表して礼を言おう。ありがとうファーガソン、リエン、セリーナ」


挿絵(By みてみん)


 アルディナも深く頭を下げる。


「まずは無事で良かったな」


 敵将は逃がしてしまったが、本来の目的はエルフを無事救出すること。最低限の結果は出せたと考えよう。足りなかった部分は次に活かしてゆくしかない。




「遅くなりました隊長」


挿絵(By みてみん)


 ティアが率いる応援部隊が到着する。


「ご苦労だったなティア。こちらはすべて片付いたから二人を里へ送り届けてくれ」

「わかりました。ですがファーガソンさまの顔色が優れない様子。ここは私が治療を――――」


「「「必要ない」」」

「え~、そうですか~?」


 アルディナ、セリーナ、リエンが声を揃えて否定するとティアが不満そうに口を尖らせる。


 たしかに治療は不要だが俺の意見は聞かなくて良いのか?




「ではまた!! ファーガソンさま、治療が必要な時はいつでも言ってくださいね~!!」

「わかった、ありがとうティア」

 

 保護されたエルフを連れてティアが引き揚げてゆく。


「ファーガソン、治療魔法なら私も使えるからな?」


 いやしかし、リエンは治療魔法苦手だろう?


「チハヤがいるのですから不要ですファーガソンさま」


 それはセリーナの言う通りなんだが居ない時とかあるだろう?


「ファーガソン、治療なら私も出来る。遠慮せずに言え」


 アルディナまでどうした?


「「かすり傷一つ負って無いので結構」」


 リエン、セリーナ、それは俺の台詞だ。


 うーむ、そんなに弱っているように見えるのか? 俺。





「さて問題は後始末だが……」


 帝国兵と荷馬車をどうにかしないければならない。


「死体の後始末と馬車は我々ミスリール側で処分しよう。表沙汰にすると面倒なことになりそうだからな。礼というわけではないが積荷や資産になりそうなものは好きに持って行ってくれ。我らエルフには無用なモノだ」 

「合理的な判断に感謝する。我々もここで見たこと、知ったことは仲間以外には知らせないことにする」


 やっていることはともかく帝国も一応変装したり偽装はしている。表沙汰にすれば国際問題となり、下手をすれば帝国と王国、そしてミスリールの開戦の口実にされかねない。


 現状帝国と王国は良好とは言えないまでも交易はあるし正式な手続きをすれば入国も制限されることはない。両国に暮らす大多数の人々にとっても、平和であること、現状維持というのが一番良いのは間違いないのだから。

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