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第百三十一話 本当の力


「貴様、それでも軍人か!! 男なら剣で勝負しろ!!」

「ふん、それで挑発しているつもりですか? 生憎だが帝国では結果のみが正義であり貴ばれるのですよ」


 挑発して隙を伺うつもりだろうが、さすがヤーコブはわかっているな。戦場において戦士の誇りなど邪魔なだけだ。


「帝国だと? ククク……」

「なにが可笑しいのです?」 


「いや、貴様らのようなクズ、おそらく帝国だろうと思っていたからその通りで可笑しくてな」


 やれやれ、この女、この状況でまだ軽口が叩けるとは……じつにゾクゾクするな。期待以上だ。


「貴様!! 帝国を愚弄にするとは……万死に値しますよ!!」


 ヤーコブの気配が変わる。コイツ本気で殺す気か。


 まったく……勝手に身元を明かすだけでもペナルティだが、青すぎるな。こういうところは若さと愛国心教育の弊害だな。

 


「ヤーコブ落ち着け、殺すなと言ったはずだが?」

「も、申し訳ございません。よ、よし、女を取り囲め、疲れて動けなくなるまで追いつめろ!! おい、聞いているのか?」


 ヤーコブの指示にも反応が無い。


 気付けば周囲に立っているのは俺たちだけ。 ん? そういえば他の連中は一体何をしているんだ。

 

 見渡せば倒れている兵士の姿が――――


 しまった……たしか反応は四人だったはず――――



 ガカカカカカカッ!!!!!

 


「チッ」


 派手な閃光に辺り一帯が真っ白になって視界が奪われる。


「ウガアアっ!?」


 続いて悲鳴が。そうか、この女剣士は時間稼ぎの囮だったのか。狙いは最初から仲間が囚われている馬車だったんだろう。まあ多勢に無勢、当然の判断だ。

 

「馬車が狙われたのですか? マズい、捕虜のエルフが!?」

「!? よそ見するなヤーコブ!!」


 ――――ザシュ――――


 一瞬の隙を女剣士は見逃さなかった。物言わぬ骸となって地に伏せるヤーコブ。黒い触手も同時に霧散してゆく。


 チッ……死んだか。戦闘中に隙を見せるからだ馬鹿が!!



「次は貴様だ!!」


 血の付いた剣をこちらに向ける女剣士……か。実に絵になる。俺は帝国軍人ゆえ軟弱な女神信仰など持っていないが、この女が戦の女神イラーナの化身であるならば、案外悪くないかもしれないと思ってしまう。


 良い、実に良い。興奮でおかしくなってしまいそうだ。


 抑えろ、冷静になれ、うっかり殺してしまっては元も子もない。    



「安心しろ殺しはしない」

「ほほう、ずいぶんと紳士なんだな。だが貴様は自分の命の心配をした方がいいぞ?」


 相変わらず威勢は良いが、ヤーコブとの戦いでかなり消耗しているはず。ここへ駆け付けるために全力で走って来た以上体力はすでに限界だろう。無駄に口数が多いのは少しでも回復するための時間稼ぎといったところか。



「女、名は何という?」

「貴様のような外道に名乗る名は無い」


 ぞくぞくするな、たまらん。


「ならば直接身体に聞くしかないようだな」

「前言撤回する……やはり貴様は変態紳士だ!!」


 くはっ! これ以上はマズい……正気が保てなくなる。


 もう少しやり取りを楽しみたいところだが……これ以上時間稼ぎに付き合ってエルフを連れ去られると面倒だ。さっさとケリをつけるか。



「死にたくなければ降伏しろ、お前ひとりで戦うつもりか?」

「何……?」


 なるほど……すでに味方はいないというわけか。


 一体いつの間に……? そうか、隠れている仲間がやったのか。囮をさらに囮にするとは……少々油断が過ぎたか。


 まあ良い、どうせ監視も兼ねて閣下に押し付けられた使い捨ての雑兵どもだ。この先のことを考えればむしろ身軽になって良かったかもしれん。



「馬車の方からも増援は無し……か。そうなるとこれで四対一か。フハハハハ、もしかして有利になったと勘違いしてしまったかな?」

「……どういう意味だ?」


 ふふ、怪訝そうな表情もそそるな。


「どういう意味もない。俺は他の全員が束になったよりも強い――――『ネクロコンダクター』女を足止めしろ、ヤーコブはこっちに来い」

 

 死んでいた兵士たちが起き上がり女剣士を取り囲む。


「なっ!? 死体が動き出した……だと?」


 フフフ、この能力があったから俺は戦場で無敵だったのだ。敵味方関係なく素材はいくらでもあるからな!!


「ヤーコブ、全員殺せ」


 ヤーコブの触手が無力化されて地面に転がっている兵士たちの心臓を貫く。ふふふ、これでさらに戦力が強化されたぞ。


「なっ!? 仲間を殺すとは……この外道が!!!」


 万一捕虜にでもなったら面倒だからな。それに無力化された時点で死んだも同然。ならば死んで役に立って見せることこそ帝国軍人の本懐。


 さて、疲れ知らずの死体兵相手にどこまで頑張れるかな? 



「チッ……死体を操るのが貴様の能力か!! 本当に下種の極みだな」


 ふふふ、残念だが俺の本当の能力はこんな人形使いみたいなものではない。



 見せてやろう――――これが本当の俺の力だ!!


『ダークネスイーター』


「なっ!? 死体を……喰っている……だと!? 何がしたいんだ貴様は」


 ふふふ、何をしているのか想像もできないだろうな。


 ヤーコブの死体を喰らうことで奴の異能を我が物に出来る。それが『ダークネスイーター』俺の本当の力だ。


 優秀な副官を失ったことは痛いがシャドーバインドは以前から欲しかったから結果オーライだ。『ネクロコンダクター』も戦場のどさくさで胸糞悪い上司から奪ったものだしな。ククク。



「女、死にたくなければ降伏しろ、死ぬことのない兵士相手に戦い続けるつもりか?」

 

 触手を投入すればすぐにカタが付くんだが……隠れている仲間がいる以上、下手に動くのは悪手。切り札は残しておくべきだろう。 


「断る。貴様を斬ればそれで済む話だ」


 良いな。実に良い。本当に期待を裏切らない女だ。



 だが……気になるのは隠れている仲間の方だ。


 この俺に気付かれることなくこれだけの数の兵士を無力化してのけたのだ。考えたくはないがこの女剣士並みの手練れと考えた方が良いだろうな。



 ――――ゾクッ――――


 全身を激しい悪寒が貫く。


 視界が半分にズレて意識が暗転する。


 まさか……殺られた……のか? 

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