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第百三十話 帝国のクライゼルド


『遅いぞクライゼルド』


『ハッ、申し訳ございません軍議中だったもので』

『言い訳は聞きたくない。それよりお前に至急動いてもらいたい件があってな』


 言い訳も何もお前の命令で動いていたんだが? それにしても至急の案件か……作戦開始前のこのタイミングで呼びつけるのだから余程のことが起こったのか?

 

『ハッ、何事でございますか? 中将閣下』

『陛下がエルフをご所望だ。ミスリールへ行って何匹か捕まえて来い。可能な限り迅速にな』

『……ハッ、かしこまりました』

 

『うむ、お前の働きには期待しているぞ。成功した暁には、お前を少将に推薦するつもりだ』

『ありがたき幸せ』



 くそ、思い出しただけで腹が立つ。何が迅速だ。自分がライバルを出し抜いて陛下に良い顔をしたいだけだろうが!!


 なんでこの俺がこんなどうでも良い任務ではるばるこんな辺境くんだりまで出向かなければならんのだ。


 出世しか頭にない色ボケ爺が!!


 



 まあ……それを言ったらこの俺も似たようなものか。


 感情に流されては碌な結果にならん。今は任務を完遂することだけを考えよう。


 我慢するのもこれが最後だしな……この任務に成功すれば俺はもっと上に行ける。それまでの辛抱だ。ふふふ……ハハハハハ!!




「クライゼルド大佐、お喜びください。無事エルフを二匹確保しました」

「ヤーコブ、私の亜人嫌いを知っているだろう? 二度とその話はするな、不愉快だ」


 ふん、さすが欲深い閣下だ。ご苦労なことに高価な結界破壊の魔道具まで用意する周到さ。こんな任務成功して当然だ。誰か適当な奴にやらせれば良かったのに。この任務のために準備を重ねて来た作戦から外された身になってほしいものだ。


「はっ、も、申し訳ありません!」


 まあ、どうせあの中将殿が手柄を独り占めするからこれで陛下の覚えが良くなるとも思えんが、これも昇進のため。いつか利用できるネタになるかもしれん。今回だけは甘んじて受け入れるしかない……か。


 それにしても……絶対に口には出来んが陛下の悪趣味にも困ったものだ。亜人などという汚らわしい連中は一刻も早く根絶やしにしてこの世界から抹殺しなければいけないというのに。美食を味わい尽くすとゲテモノに走るというが……陛下の悪趣味も似たようなものかもしれんな。


 本当はこの鬱陶しい森に火を放って王国とミスリールの同盟関係にヒビを入れるのも面白いのだが……ここは()()手を付けるなと厳命されているからな。勝手に行動して無駄に問題を起こすわけにもいくまい。


 忌々しいが、それはまた別の機会に楽しませてもらうとしよう。



「ヤーコブ、それはそうと誰にも気付かれなかっただろうな?」

「はい、連中結界の力を過信していたのか拍子抜けするほど無防備でした」


 ふん、未開な亜人らしい。時代の変化についてゆけない種族は滅ぶのみ。せいぜい愛玩動物として陛下を楽しませるくらいしか存在価値はない。長寿が取り柄らしいがこうなると単なる老害でしかないな。



「ならば行くぞ。可能な限り『迅速』にという閣下の命令だからな」

「はっ、すぐに出発の準備をいたします」


 ミスリール大森林……外から眺めているだけで吐き気を催す。こんな場所には一秒たりとも長居はしたくない。


 せっかくここまで足を延ばしたのだから、本来であれば王都にも立ち寄って情報収集すべきところなのだが……その重要性をあの俗物に言っても伝わらんだろうな。


 

「大佐、生体反応です。ものすごい速度で接近してきます。いかがいたしましょうか?」  

「数は?」

「全部で四、おそらくエルフの追っ手かと思われますが……」


 ふむ、さすがに結界を破壊されればいかな愚かな亜人どもでも気付くか。このまま逃げても良いが向こうから来てくれたのなら手厚く歓迎してやらんとな。ふふん、土産が増えて困ることはない。そうだ……一匹は俺専用にするのも悪くない。じわじわと痛めつけ苦しませてストレス解消を兼ねて殺すのも楽しそうではあるな。


「よし、森から飛び出してきたところを狙え。貴重なエルフだ間違っても殺すなよ?」

「はっ!」


 ふふ、まさかこちらが接近に気付いて待ち構えているとは想像もしていないだろうな。一部の人間にしか使えない魔法などという不完全で時代遅れなものは不要だ。これからは洗練された最先端の魔道具の時代なのだよ。


 ここ数年で帝国の対魔法研究は飛躍的に進んでいる。まだ量産できる段階ではないが、魔法使いをある程度無力化出来る魔道具が最前線の部隊には配備され始めているからな。


 それに……帝国には他国にはない()()がある。


 もはや大陸統一は野望ではなく実現可能な段階まで来ている。単に時間が必要なだけでな。


「来ます……3.2.1……え……? 反応が……き、消えた!?」

「落ち着け、おそらく認識阻害の魔法か何かだろう。ヤーコブやれ!!」

「はっ」


『影縫縛』(シャドーバインド)


 ヤーコブの影から無数の黒い触手が伸びてゆく。相変わらず悪趣味で下品極まりない能力だが……使い道が多いという意味では優秀な能力だ。


 認識阻害は文字通り認識を阻害させるだけで存在が消えて無くなるわけではない。そこに居るとわかっているならば数打てば当たる。



 ――――ザッシュ!!――――


 誰もいないはずの空間で黒い触手が切り払われてボトボトと地面に落ちる。ふん、やはり居たか。



「なんて気色の悪い……思わず斬ってしまいました……」


 姿を現したのはブロンドの髪をなびかせて凛と立つ一人の女剣士。そのまま舞うように次々と黒い触手を斬り払ってゆく。


 ん? エルフじゃないのか? 人間……しかも……なんと美しい……。


 まるでこの吐き気を催すような場所にひっそりと咲いた一輪の花のようではないか。



 欲しい――――


 是非とも手に入れたい!!




「ヤーコブ、絶対に逃がすな」

「はっ、お任せください」


 ヤーコブの触手は斬られても無尽蔵に出てくる。本体であるヤーコブ自身がやられない限り。つまりどんなにあの女剣士が強かろうが持久戦に持ち込めば問題なく捕らえられる。 


 ――――ザシュ!、ザシュ!、ザシュ!――――


 女剣士の斬撃の速度が更に上がる。なんという美しい……惚れ惚れとする剣技の極みだな。


「斬っても斬ってもきりがありませんね……」

「くっ……なんだこの女は!?」


 女剣士とヤーコブの距離がじりじりと狭まっている。


 ほほう……あのヤーコブが押され始めているとはな。あの女、間違いなく相当な手練れ。ふふ、まずます気に入った。強い女を屈服させることが俺にとって無上の喜びだからな。久し振りに気分が高揚してきた。

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