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第十三話 早朝の呼び出し 


「ではあっしはこれで失礼しやす。皆さま、おやすみなさい」


「ご苦労、サム」

「ありがとうございました、サムさん」

「本当に助かった。明日からも頼む」


 サムと別れて宿へ戻る。それにしてもチハヤの順応性の高さはたいしたものだな。


「そういえば、チハヤは異世界から来たのにこの国の言葉を普通に理解しているな?」


 隣国ですら言葉が通じない地域があるのに、まさか異世界でも偶然同じ言葉を話していたとでも言うのだろうか? そんな奇跡のような偶然があるとは思えない……となるとやはりチハヤは勇者のように何らかの使命を帯びて送り込まれた? いや……考え過ぎだな。


 仮にそうだとしても何も変わらない。助けが必要なら使命があろうがなかろうが俺はいつだって力になるつもりなのだからな。


「うん、きっと転移特典の言語理解だと思う。小説で読んだから間違いない」


 駄目だ……急に何を言っているのかわからなくなった。向こうの世界にしかないモノや概念はただの音にしか聞こえない。冒険者の勘だが、深追いすると怪我をしそうだからあえてツッコまないが。


 だがこれで言葉が通じなかったら、かなり不便で悲惨な状況だっただろうからお互いにとって幸運だったと思えばいい。



「でもね、向こうの世界とこちらの世界である程度共通しているものは名前もそのまんまでわかりやすいんだけど、中には紛らわしいものもあるよ」

「ほう、例えば?」

「シトラ水。てっきりシトラってレモンみたいなものだと思っていたのに……まさか、あんな凶悪な見た目だったなんて……さっき市場で見て膝から崩れ落ちそうになった……」


 どうやらチハヤの世界にはシトラは無いらしい。言われてみればたしかに凶悪と言えなくもないが、見慣れてしまっているので、気にしたことも無かったな。シトラには飲み水を綺麗にしてくれる効果があるから、なくてはならない果物だし、そのまま食べるわけでもないしな。



◇◇◇



 翌日、早朝からギルドに呼び出しを受ける。


 チハヤとファティアには、今日もサムと朝市に行ってもらい。俺は宿でパンとスープだけ食べてからギルドへ向かった。



「早朝に悪いねファーガソン。実は盗賊団の本拠地が判明してね。最悪なことにこのダフードからそう遠くないところにある」


 たしかにそれは由々しき事態だ。街が直接襲われることは無くとも、先日のように盗賊団が動き出せば物資の流通や交易に大きな影響が出てしまう。中長期的にこのダフードの経済に大きなダメージを与え続けることになるだろう。


「でもそれだけではないんだろう?」


 その報告だけなら、早朝から俺を呼び出した理由にならない。


「ふふ、わかっているじゃないか。さあ奥の部屋へ」


 違う……そういう意味で言ったわけじゃ……



◇◇◇



「実はね、盗賊団と繋がっている有力者が複数いるらしい。これまでの手際の良さを考えると、ギルド内部にも内通者がいる可能性も考えないといけない。じつに嘆かわしいことだけれども。そこでだ、ファーガソン、キミの力を借りたい」


「なるほど……大規模に討伐隊を動かせば敵に察知されて空振りに終わる可能性がある――――ということだな?」


「察しが良くて助かる。とはいえ、キミはこの辺りの地理に詳しくないだろう? 案内人を付けるから盗賊団の本拠地を潰して有力者と繋がっている証拠を手に入れてくれないか?」


 うーむ、簡単に言ってくれるが、実際かなりの仕事量だな。しかも有力者が絡んでいるとなると、下手をすれば責任問題にもなりかねない。


「盗賊団の人数は?」

「あくまで参考程度だが、およそ五百から千」


 え……? ちょっとした規模の街と同規模の戦力なんだが……?


「俺一人でやるには……ちょっと多すぎないか?」

「キミなら出来ると思ったんだけど? これまでの依頼未達成ゼロ、信頼と実績の白銀級冒険者殿?」


 当然のように言い放つエリン。はは、ずいぶんと高く買ってくれているものだな。だがまあ……悪い気はしない。


 

「まあ、出来るな」


 

「ふふ、だと思った。報酬は前金で五百万シリカ。成功報酬は千五百万、それに加えて、盗賊団との繋がりが判明した人間の財産没収の二割をキミの取り分でどうだ? まあ財産のほうは算定だけでも相当時間がかかるから後日口座に振り込むことになるが」


 条件が破格すぎる気がするが、そもそも単独で盗賊団を潰せという依頼自体がおかしいからな。没収財産の方はボーナスみたいなものだから今は考えても仕方ない。



「わかった。その条件で引き受けよう」

「キミなら引き受けてくれると思っていたが、もし駄目なら私の身体で支払わなければならないところだった」


 それは……エルフジョークなのか? 反応に困るな。 


「なんだファーガソン、その不満そうな顔は? 仕方ない奴だな、安心しろ特別に私も付けてやろう」


 結局そうなるんだな……。



◇◇◇



「それで? 出発はいつになる?」

「急で悪いけど今夜、日が沈んだら出発で。必要な物資はこちらで用意しておくから、キミはギルドに来てくれればそれでいい。順調に行けば、明日中には戻って来れるだろう」


 

 

 

「――――というわけだ。留守中のことはサムに頼んであるし、何かトラブルがあれば冒険者ギルドへ行くようにしてくれ。あと、これは緊急用の魔道具だ。護身用に使えるから身につけておくといい」


「わふぁった……いってらはい」


 朝市で買って来た串焼きを口いっぱいに頬張りながら手を振るチハヤ。危ないから食べるか喋るかどちらかにした方が良いと思うぞ。

 

 しかし自分のことよりも、留守中の二人の方が心配だとは……俺ってこんなに心配性だったか?


 いやいや、何が起こるかわからない以上、用心するのは当然のことだ。


 つまり……俺にも守るものが出来たってことだよな。



「ファーガソンさんなら大丈夫だと思いますが、無理だけはしないでくださいね?」


 心配してくれるだけで嬉しいよファティア。


「二千万シリカってすごい額だね。家が建つんじゃない?」


 チハヤは……相変わらずよくわからないが、彼女なりに励ましてくれているのだろう……たぶん。ちなみに家はもっと安いぞ。二千万の家だと貴族しか買えない……やはりチハヤは貴族か。



「大丈夫だ心配は要らない。万が一にも盗賊風情に遅れは取らないからな。今夜は戻れないが、明日の夜はみんなで祝勝会をしよう」


「はい!! 無事の御帰還をお祈りしています」

「わーい、盗賊のお宝ゲットだぜ!!」


 すまんなチハヤ。盗賊のお宝は盗品だからギルド預かりになるんだよ。

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