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第百二十九話 俺の勘だ


「なあリエン、一つ聞いて良いか?」

「何でも聞いてくれ」


 アルディナの言葉にリエンが応える。


「その……索敵魔法なんだが……本来結界が展開されている森の中では使えないはずなんだ」

「そうだな」


「お前はなぜ使えているんだ?」


 アルディナ個人にリエンに思うところはないだろうが、国を守る立場からすれば無視できない。使えないはずのものが使えてしまえているのだから大いに問題がある。


「理由は二つある」

「……二つ?」


「一つは本来機能しているはずの結界が破壊、もしくは機能を制限されているからだ。先ほども話したが、おそらくはエルフを拉致しようとしている連中の仕業であることはほぼ間違いない」


「くっ……やはりそうなのか」


 苦渋の表情を浮かべるアルディナ。国を守って来たはずの心の拠り所が無効化されたとなれば穏やかではいられないだろう。


「もう一つは――――」

「う、うむ……」


「私が魔法の天才だからだ」

「……そ、そうか」


 まるで昼は明るい夜は暗いとでもいうように至極当然のように言い切るリエンにアルディナが絶句する。


「ファーガソンさま、さすがリエンといったところでしょうか」

「はは、そうだな」


 会ってまだ日が浅いセリーナもだいぶ馴染んできたようだ。



「結界も魔法の一つの応用にすぎない。魔法というのは皆が考えているような神秘的なものではなく、理路整然とした理屈で構成されているものなのだ。その仕組みがわかってしまえば出来ないことなどほとんどないと言っていい」


 興が乗ったのか頼んでもいないのに魔法の講義を始めるリエン。他の者が言えば大言壮語だと鼻で笑われるだろうが、リエンが言うと説得力が違う。


「そうだな……例えば火の魔法があるだろう? 理屈さえわかっていれば温度を調整して凍らせる炎だって可能だ。応用すれば指定した対象だけを燃やすことだって出来る。今使っている索敵魔法も私が改良を加えて使いやすくしたオリジナル魔法だからな」


 ふふんと胸を張るリエン。


 リエンの索敵魔法はオリジナル魔法だったのか……道理で便利すぎると思ったんだ。あんなものがあったら、戦争の概念が変わってしまう。


「なるほど……お前が天才だという意味がわかった」


 これにはアルディナも苦笑いするしかない。


「理解してもらえたようで嬉しいよ。でもねアルディナ、一番大事なことは謙虚であることだと思ってる。自分が天才であることに慢心した瞬間に足をすくわれる、常にそう思っているよ」


「謙虚で努力する天才か……これは恐ろしいな。だがリエン、我らエルフは魔法を女神さまから授かった侵してはならない神聖なものだと信じている。探究心は素晴らしくその技量は賞賛されるべきものではあるが、人の身をわきまえず行きすぎることは女神の怒りを買う可能性があることを心の隅に留めていて欲しい。これは苦言ではなく友としての言葉だと思ってくれ」


「そう……だな。ありがとうアルディナ。たしかにそうかもしれない。わかった、常に忘れないようにする」

「ああ、特に長老連中は頭が固い。万一会うようなことがあれば注意してくれ」


 意図して言ったわけではもちろんないが、家族、国や故郷を失ったリエンがどんな思いでアルディナの言葉を聞いていたのか。想像することも出来ない。


「リエン、大丈夫だ関係ない」

「ファーガソン……だが……」

「大丈夫だ。俺にはわかる」 

「どうして?」


「俺の勘だ」


 俺は魔法も使えないし女神さまの言葉を聞いたこともない。


 だが、もしリエンが怒りを買ったのであれば俺とは出会っていない、そう思うのだ。


「ふ……ふふふ、そうか……勘か。アハハハ」


 面白いことを言ったはずじゃないんだが、なぜか笑い始めるリエン。


「ありがとうファーガソン。私もそう思うことにする」

「それがいい。まあ間違っていたらその罰は俺が受けるさ」


 少しでもリエンの気が軽くなるなら安いものだ。


「その心配はいらない」

「そうか」


「ああ、私の勘だ」



◇◇◇



「エルフを拉致した連中だが……今、本隊に合流したようだ」

 

 相手の状況を探っていたリエンがつぶやく。


 くそ、間に合わなかったか。あと少しだったんだが……。



「森の中の移動スピードから考えても明らかに素人ではないな。訓練された手練れの可能性が高い。しかも人質を取られた状態で六十人が相手ではあまりに多勢に無勢……だが応援が来るまで待っていては逃げられてしまう」


「大丈夫だ」


 ギリリと歯を食いしばり焦るアルディナの肩に手を置く。


「ファーガソン……」

「数は問題じゃない。考えるべきは囚われているエルフの身の安全をどうやって確保するかだ」


 死ななければ最悪チハヤが治せるが……。


「リエン、魔法で気付かれずに接近できませんか?」

「もちろん出来るよセリーナ。完全には無理だけど、相当見つかりにくくはなる」


 ここにいるメンバーは達人ばかりだ。魔法無しでも気配を消して接近することは出来る。魔法の補助があればまず気付かれることはないだろう。


「頼む、リエン」

「了解」


『ミラーメイズ』


 リエンの認識阻害魔法が発動する。


「さすがに声を出したらバレるから、会話するときは私の身体に触れればお互いに念話で話せる」


 そんなことも出来るのか。 


 

『アルディナ、聞こえるか?』

『おお、聞こえるぞ、これが念話か……便利なものだな』

『セリーナはどうだ?』

『私にも聞こえています』


『私には全員の念話が聞こえている。わざわざ名前を言わなくても勝手に繋げてあげるから安心して』


 リエンが会話に割って入る。なるほど、これは便利だな。強いて言えば欠点はリエンから離れられないことくらいだが、今はそれで十分だ。


『アルディナ、まずはエルフの囚われている場所へ接近する。お前は仲間の救出、無理なら安全確保を最優先してくれ。他の連中は俺たちが相手をする』

『わかった。お前たちなら安心して任せられる。頼んだ』

 

 いきなり知らない人族が助けに行くより、アルディナが行った方が話が早いし安心するだろう。


 それにしても……せっかくエルフと人族が共に歩んで行ける可能性が見えているのに、同じ人族として絶対に許せん。


『セリーナ、背後は頼んだ』

『任せてください。ファーガソンさま以外に後れを取ることなどありません』


 頼もしい返事が返ってくる。


『リエン、お前は悪いがアルディナのサポートを頼む。俺たちは自分で何とでもなる。万が一にでもエルフに被害を出したくない』

『わかってる。相手が誰だろうと指一本触れさせない』



 念話でもリエンの怒りが伝わってくる。いや、念話だからこそ伝わるのか……。

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