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第百二十七話 怒らせると怖い人


「ファーガソン、馬車までおんぶして」

「突然どうしたリエン?」


 なんだか機嫌が悪そうだと思ったら今度はおんぶして、か。


「別に……理由が無いと駄目?」

「そんなことはない。リエンがして欲しいならいつでもOKだ」


 腰を降ろすとリエンが背中に飛び乗ってくる。相変わらず鳥の羽根みたいに軽いな。


「ちょ、リエン!? たいした距離じゃないでしょ――――」

「セリーナはどうする?」


「……私は抱っこで」   


 セリーナが胸に飛び込んでくる。こんな細いのにあの動きが出来るんだから不思議だ。


「ふふ……ファーガソンの背中は温かいな」

「ファーガソンさまの腕の中も温かいですよ」


 俺は二人に挟まれて一番温かいよ。


「ファーガソン、着いたら起こしてくれ」

「……着いたぞ」

「そこは遠回りをするとか気を遣う場面ではないのか?」

 

 むう……やはりリエンはご機嫌斜めな様子。


 

「ああっ!? 二人ともズルい!! ファーギー私も肩車!!」

「ちょっと待ちなさい、私も肩車してもらうつもりだったのに!!」


 俺たちを見つけたチハヤとリュゼが競うように駆け寄ってくる。


「焦らなくてもリュゼも一緒に肩車出来るから大丈夫だ」

「さっすがファーギー」

「頼もしいな、ファーガソン」


 リエンをおんぶしながら、セリーナを抱きながらチハヤとリュゼが乗りやすいようにしゃがみ込むと、ちょこんと両肩に座る二人。


『…………』『…………』


 気付けば魔族の双子が羨ましそうにこちらを見上げている。


「お前たちも乗るか? 自分で登ってもらうことになるが?」


 双子はこくこくと頷くと、俺の足からよじ登って腕にしがみついた。そこまでして乗る価値があるのだろうか?


 なんだかこうしていると、大木になったような気がするな。


「あの……私もよろしいでしょうか、ご主人さま?」

「構わないが場所はあまり残っていないぞ?」

「構いません」


 リリアが頭の上に乗る。たしかにそこは空いているが……。


「ファーガソンさま、お嬢様を守るために私も乗らせていただきます」


 ネージュまでやって来たのか……。


「構わないが爪を立てるなよ?」

「牙は?」

「それも駄目だ」

「そんな無茶な!?」


 服をボロボロにされると困るんでな。許せ。


「そもそもの話、もう乗る場所がない」

「くっ……ならば顔面に!!」


 待てネージュ、無茶をするな――――


「あの……皆さん遊んでないで手伝ってくださいね? それとも……夕食は無しにしましょうか」


 ファティアの言葉はいつも通り優しいのだが、なぜか背筋が冷えた。


「「「「ごめんなさい」」」」


 皆一斉にお手伝いに走り出す。ふう……助かったよファティア。


「ファーガソンさん?」

「すまん、すぐに手伝うよ!!」


 ファティアは怒らせるとヤバいな。災害級の魔物並みの迫力がある。




「ファーガソンさん、一応可能な限り火は通してみましたが、これ以上は無理ですので後はよろしくお願いします」

「あ、ああ、ありがとうファティア」


 俺の作ったこしが強すぎるメン。火が通ったことで美味しそうな匂いはするんだが……あまり見た目は変わってないな。


「ふむ……とりあえず食ってみるか」


 ――――ジャララ――――


 待て、なんか変な音がする。メンというよりは金属音に近い。


 果たして……食えるんだろうか? 自分で作っておきながらなんだが、食べ物が放つオーラではない。むしろ武器なんだと言われた方がしっくりくる。


「これで叩かれたら痛いだろうな……」

「何ブツブツ言ってるのファーギー? 早く食べないと冷めちゃうよ?」


 そうだった!? せめて温かい作りたてのうちに食べなければ本当に食べられなくなってしまう。

 

 ――――ガリッ――――


 くうっ、なんだこの歯ごたえは……嚙みちぎろうとする俺の歯が悲鳴を上げてやがる……。


 だがな、俺は腹が減っているんだ。空腹の所に激しい運動をしたからな。


 ――――ガリッ、ガリッ、ガリッ、ボリンッ――――


 絶対にヤキソバを食っている音じゃないが、味は美味いな……。これで不味かったら心が折れていたところだが……アリだな。ガリ堅ヤキソバ。



「ええ……アレを食べちゃうんだ……へえ……」


 ドン引きの表情のチハヤ。食べろと言ったのはお前なんだが?


「ファーガソンさん……食べちゃったんですね……」

「あはは、もしいつか食べ物が無くなったら剣も食べられるかもしれませんね」 


 ファティアとリリアからも呆れられている。これで美味かったと言ったら変人だと思われるからやめておくか。



「ファーガソンさん、これエルフの皆さんに届けていただけませんか? さっき私たちに浄化の魔法をかけてくださったのでお礼をと思いまして」


 ファティアが大盛りのヤキソバを差し出す。


「なるほど、そういうことなら届けよう」


 浄化の魔法は生活魔法の一種だが人族で使えるものは稀だ。対してエルフならほとんど全員が使える魔法として知られている。汗や臭い、汚れを浄化してくれるので、入浴したようなさっぱりした気分になる。服を着たまま身体だけではなく着ているもの丸ごと浄化できるので、洗濯の手間を省けるため冒険者や旅をする商人からは憧れの魔法として人気が高い。


 人族で使えるなら仕事は選びたい放題。エルフが亜人種の中でも特別扱いされるのも、こういった背景があるのだ。


 もちろん、俺は使えない。仲間の中で使えるのはリエンだけだが、適性が無いらしく、使うにはそれなりの魔力が必要になってしまうこともあり、お湯を生成して入浴する方を好んでいる。


 風呂に入れるとしても、旅の途中では服の洗濯は大変なので、浄化は非常に有難い。生地を痛めることもないしな。


「……なぜ私を見たのですか?」

「何でもないんだネージュ」



「ファーガソン、私も行こう」

「当然私もお供します」


 リエンとセリーナが同行を申し出る。


「構わないがヤキソバを届けるだけだぞ?」

「ファーガソン、それはいくらなんでも考えが甘すぎる」

「リエンの言う通りです。ファーガソンさまはもう少し自覚してください」


 よくわからないが、そこまで言うのなら一緒に行くか。

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