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第百二十四話 ミスリールヘイヴン


 ――――ミスリールヘイヴン――――


 おとぎ話で有名なのでその名前だけは王国民なら誰でも知っているが、深い森の中にあるため実際に訪れたことのある人は少ない。そのため、セリーナのように実在しない架空の町だと思っている人もそれなりにいる。


「まあ、王国内にあるが、実際は王国の領土じゃないからな。古の契約があるから開発も出来ないし兵士が通過する際は事前の通告が必要になる」


 ミスリール大森林を治めるのはエルフの女王。森全体がミスリールという国となっており、木一本勝手に切ることは許されていない。ドワーフや獣人などの亜人も暮らしていて、人族ももちろんいるが、数はそれほど多くない。基本的に大半が謎のベールに包まれている国だ。


 ミスリールヘイヴンは、そんなエルフたちが人族との交流のために作ったいわば窓口のような町。逆に言えば、それ以外の場所に入って来るなという意思表示でもある。



「エルフの治める国か。もしかしてエリンたちはこの森の出身なのだろうか?」

「その可能性は高いだろうな。どうやら王族らしいが、なにやら訳ありみたいで何も教えてはくれなかったが」


 リエンがそう思うのも無理はない。現在この大陸でエルフが治めている国と言えばこのミスリール以外に無いからだ。他にもあるのかもしれないが、少なくとも知られてはいない。


「エリンというのはダフードのギルドマスターだったあのめちゃくちゃ綺麗な人ですよね?」

「ああ、もう一人商業ギルドマスターで姉のフリンもいるがな」


 セリーナも一度会っただけでおそらく話もしていないだろうによく覚えていたな。まああれほどの美貌、一度見たら忘れられないか。


「だがなセリーナ、お前も負けないぐらい綺麗だぞ?」

「ふぁ!? な、何をいきなりっ!? ふ、不意打ち禁止です!!」


 顔を真っ赤にして剣を抜くセリーナ。なぜ怒るんだ……。


「……私はどうなんだ?」


 リエンがジッとこちらを見つめている。


「もちろんリエンも綺麗だよ」

「ふふ、もう少し捻りが欲しいところだがまあ良いだろう」


 なぜかフードを深く被り直すリエン。表情は見えないが喜んでいる感じは伝わってくるからこれで良かったのだろう。


「エリンは私の恩人でもある。また会いたいものだな」


 リエンが小さく呟く。彼女にとっては最初にこの国で知り合った一人。今の名前と身分もエリンから貰ったわけで、間違いなく恩人だろう。


「そうだな、王都でまた会えると良い」

 

 離れてはいるが、向かう先は同じ。お互い無事ならば必ず再会できるはずだ。



 

 日が落ちて外はすでに真っ暗のはずだが、森の中は明るいというのは変な感じだ。


 やはり神聖な森ということもあって、今のところ特に魔物に襲われるということもなく商隊一行は滞りなく進む。


「次はファーガソンさんの番ですよ」

「わかった。すぐ行く」


 馬車の中では、メン作りが行われていて、俺たちも交代しながら馬車に入って手伝っている。


「おお……ずいぶんたくさん作ったんだな……」


 クオリティの差はかなりあるが、量はもう十分じゃないかと思うほどある。


「ふふ、皆さん呑み込みが早くて、見てください、これなんて見事でしょう?」

 

 ファティアが見せてくれたメンは、たしかに均一でファティアが作ったものと遜色が無いように見える。


「すごいな、これは誰が作ったんだ?」


「ふふん、私よ、ファーガソン」


 リュゼが誇らしげに胸を張る。というか、いつもこっちの馬車に居て良いんだろうか……?


 まあ、トラスが何も言ってこないところを見ると諦めているんだろうな。実際、こっちの馬車の方が安全ということもあるんだろうが。


「リュゼが作ったのか!! これはすごいな……」

「そうでしょう? これはファーガソンに食べてもらうから楽しみにしていてね」


『ファーガソンさん、これボクが作ったんだけど』

『私も作ったのですファーガソンさん』


 魔族の双子か……。


「お、おう……中々個性的なメン……だな?」


 平べったいメンか。間違って潰してしまったわけじゃないんだよな?


「大丈夫だよファーギー、きし麺とかフェットチーネみたいなものだし。こういうのもアリだから」


 なるほど……メンというのは結構自由度が高いのか。


「お前は何を作っているんだネージュ?」


 鼻歌交じりにコネコネしているネージュ。自慢の尻尾と丸い耳がピコピコ動いているから上機嫌なのだとわかる。


「にゃっ? チハヤが好きに作って良いって言うから捻じってみたのです」

「ほう……これは面白いな。食感が変わればまた味わいも変わるかもしれない。こっちは?」

「それは失敗作にゃあ……」


 黒い毛が粉で真っ白になった手で恥ずかしそうにメンを隠すネージュ。獣人はあまり手先が器用じゃないと聞くがネージュもそうなのかな。


『きゃっ、きゃっ!!』


 離れたところでドラコが何か作っているが……アレは見なかったことにしよう。



「ファーギーにはこしが強い麺を作ってもらいたいの」

「こし?」

「麺の歯ごたえとか粘りの強さのこと。力がいるからファーギーお願い」

「わかった、やってみよう」


 

「ふん、ふんっ!!」


 ファティアに教わりながらメンの生地を伸ばしたり捻じったりを続ける。


 たしかにこれはかなりの重労働だが――――実に楽しい。


 何といえば良いのか、無心になれてストレスが発散されてゆくような……。



「出来たぞチハヤ」


 渾身の力で練り込んだ最強のこしを持ったメンだ。やり遂げた達成感とほどよい疲労感がたまらないな。


「……え? これ何?」


 チハヤの表情が固まる。


「ん? 何ってメンだが」


「あの~ご主人さま? 色も変だし麺というよりは太い針金みたいなんですけど……うわっ、カッチカチですよこれ……」


 リリアの言うようにたしかに色がおかしい気がする。

  

「うーん……食べられるのかな……コレ?」


 チハヤまで呆れた顔でつんつんメンを触っている。


「……もしかしてやり過ぎたか?」

「うん」

「はい」


 どうやら夢中になりすぎてやりすぎてしまったらしい。


「ちゃんと全部食べるんだよファーギー」

「残しちゃ駄目ですからね?」


 チハヤとリリアが声を揃える。


「……わかった」


 ま、まあ食えるだろう。材料は食べれるものなんだし。


「ちょっとファーギーどこ行くの?」

「ん? 終わったから警護に戻るんだが……」


「駄目だよ、もう一回作り直し」

「頑張ってくださいね、ご主人さま」


「……もう一回作るのか?」

「うん♡」

「はい♡」


 可愛く言われても……な。


 仕方がない今度こそ失敗しないようにしないとな。


 気合を入れ直すファーガソンであった。

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