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第百二十二話 ドラゴンブレス焼き


「チハヤさん、ヤキソバこんな感じで大丈夫ですか?」

「うん、良い感じだよファティア」


 手際よくヤキソバを焼いていたファティアの脇からチハヤがOKサインを出す。


「さっそく試食してみましょうか」


 リリアが自分とチハヤの分を皿によそう。まずはヤキソバを知る二人で試食するらしい。く……早く食べたい。



「うん……良いね、ちょっと違うけど……うん、これは何かと問われたら間違いなく焼きそばだよ」

「うんうん……そうですね……やはり醤油が無いのが致命的ですし麺も急造だから食感も違いますけど、限りなく焼きそばに近いナニカにはなってますね。うう……なんか懐かしさで泣きそう」


 なぜかリリアが泣いている。そんなに美味しいのだろうか?



「お二人とも、そろそろ皆さま我慢の限界のようですよ?」


 夢中で黙々と食べていた二人だったが、ファティアの言葉で我に返ったようだ。


「本来の目的をすっかり忘れていたわ」

「ですね……」


「それでは皆さま、さっそくご試食どうぞ」


 ファティアが出来上がったヤキソバを皿に取り分け配り始める。作る時間が無くてメンの量が少ないため、一人一口ずつしかない。それでも食べられないよりはずっとマシだが。



「こ……これは……美味い!!」


 強火でダイナミックに炒められた肉と野菜はもちろん美味いのだが、リリアンソースがよく絡んだメンの斬新な食感と美味さは衝撃的だ。肉、野菜、メンがソースによって一体化して旨味が何倍にも引き立てられている。


 これはいくらでも食べられる奴……だが、悲しいかな一口分しかないのだ。空になった皿を恨めしく眺めるしかない。


「これは素晴らしいですよ!! 安くて簡単でしかもとびきり美味しい!! 間違いなく町の名物料理になりますよ!!」


 町長が感激しながら叫ぶ。俺も同感だ。これは間違いなく成功するだろう。


「町長、我がフランドル商会が全面的にバックアップしますのでご安心を」

「おお、ありがとうございます。フランドル商会の協力があれば成功間違いなしですな」


 リリアが町長とガッチリ握手をする。


 ヤキソバなる料理、調理は早くて実に簡単なのだが、リリアンソースが無ければ現時点では料理としては完成しない。その意味では当分の間は、ヴァレノールとフランドル商会の独占的な商品として売り出すことが出来る。近い将来、真似をされることがあっても、やはり元祖や発祥の地というのは強いブランド力を持っている。人気が出れば本場の本物を食べてみたくなるのが人情だからな。


「ファティアさん、私にメン作りを教えてくれ!!」

「はわわっ!? お、教えますから!! 抱きつかないでください!?」


 必死に縋りつくリンダに慌てふためくファティアだが、彼女の力では引きはがせない。


 一方のサッリは、調理方法を几帳面にメモしている。本当に似た者同士で正反対の姉妹だな。


 だが楽しみだな……いつかまたこの町に戻ってきた時、二人が作ったヤキソバが食べられるかもしれない。

 


「ところでこの料理の名前なんですが、『ドラゴンブレス焼き』にしようと思っています。いかがでしょう?」


 町長が今この場で即興的に考えたらしい。


「まあたしかにドラコのブレスで作ったから嘘ではないね」

「なかなか良いセンスをお持ちですね、町長」


 チハヤとリリアの反応も上々だし、名前のインパクトがすごいから覚えやすいし、食べてみたいと思う良い名前だと思う。


「俺も賛成だ」

「ファーガソン様も賛成ということでしたら、これで決まりですね」


 町の人々も概ね賛成のようだ。『ドラゴンブレス焼き』が近い将来この町の名物となって人が集まってくれれば、もっと町の規模も大きくなってゆくだろう。楽しみが増えたな。



「ねえファティア、今夜はヤキソバ作ってくれるんでしょ? っていうか作って!! あれだけじゃ全然物足りないの」


 リュゼはすっかりヤキソバが気に入ったようだ。正直俺も同じことを思っていたので言ってくれてありがたい。


「ヤキソバ美味いにゃあ……もっと食べたいにゃあ……」


 独りでブツブツうわ言を吐いている黒豹獣人がファティアに縋りつく。いかん……ヤキソバ食べたさでネージュが壊れかけている。


「あはは、もちろんですよ。移動中に皆さんでメン作りやってみましょう」


「やった!! やってみたかったのよね、メン作り」

「にゃああ!! たくさん作るにゃああ!! 食べ切れないくらい作るにゃあ!!」


 ファティアの提案に皆大盛り上がりだ。


『マギカ、ボク気に入っちゃったよ、ヤキソバ』

『奇遇ね、私も一番の大好物になったわマキシム』

  

 どうやらヤキソバは魔族の口にも合うようだ。


 元々魔族は魔力を吸収して活動エネルギーを得ることが出来るため、魔素濃度が高い魔王国では三食食事をする必要は無いらしいが、そこは別腹、食事をしないというわけではないらしい。やはり食事という生物としての嗜好は捨てきれないのだろう。


 当然ながら魔素の薄い人族の国では食事をしなければ動けなくなってしまうので、双子も人族の料理に慣れてゆく必要がある。口に合うか少し心配していたが今のところ問題が無さそうなのは好材料だな。


「マギカとマキシムも一緒に作りましょうね」

『良いんですか?』

「もちろんですよマギカ。マキシムはどうします?」

『も、もちろん作るよ、ぜひ参加させて!!』

「はい、皆で作りましょう」


 こうやって皆で作れるところもヤキソバの良いところだな。何と言っても楽しそうだ。


「ファティア、俺も参加しても良いかな?」

「ファーガソンさんは当然参加です」


 そう言い切ってから笑うファティア。


 今夜の夕食が楽しみになって来たよ。

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