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第百二十話 ファーガソン危機一髪


 翌日、俺たちは避難民と共にヴァレノールへと到着した。


 町の住人たちは、想像していたほどの被害が出ていなかったことに安堵し、さっそく片付けや復興の準備に取り掛かっている。



「町長のリンカーンです。この度は町の危機を救ってくださったばかりでなく、避難民の保護、食事の手配から手当まで、何から何まで大変感謝しております」


 町長を始めとした町の責任者たちが並んで俺たちを出迎える。


 まあ、そうでなくともリュゼ一行がいるので同じ光景が見られただろうが、形式だけのものではなく心からの歓迎というのは気持ちが良いものだ。


「町がこんな状態ですのでたいしたおもてなしも出来ず心苦しいのですが……」


「俺たちのことは居ないものだと思って気にしないでくれ。町長は町の復旧に全力で取り組んでほしい。もちろん俺たちも手伝わせてもらうよ」


 力仕事なら慣れたものだ。 


 翌日には出発する予定なので、日が落ちるギリギリまで汗を流す。


 夜はリュゼたちと一緒に町長の屋敷に部屋が用意されていた。



「ふう……久しぶりに一人部屋か」 


 小さい屋敷なので大きな部屋が無い。以前は当たり前だった一人部屋だが今では新鮮な感動すらある。自由に両手両足が伸ばせるというのはこんな感覚だったな……。


 ベッドに身体を投げ出すと同時に部屋のドアを叩く音がする。


「ファーガソン様、町長が少しお話があるそうなのですが……お疲れのところ申し訳ございません」


 メイドさんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、構わない。案内してくれ」



「おお、ファーガソン様、お疲れのところ誠に申し訳ない」

「いや、この程度で疲れるような鍛え方はしていないから気にするな」

「いやいや、さすが白銀級冒険者様は違いますな」


 そういう町長も率先して力仕事をやっていた。ネクロビートルに襲われたときも町に残って指揮を執っていたと聞いている。身体も締まっているし、今でも鍛錬を積んでいるのだろう。


「私の家は代々騎士の家だったのです。残念ながら子に恵まれなかったのですが、子どもは欲しかったもので身寄りのない姉妹を引き取りまして、まあ私は本当の娘だと思ってますが」

「それは素晴らしい」


「二人とも子どもは好きなようで母親になりたいという気持ちは強いのですが、何と言いますか男というものにまったく興味が無くてですね、良い縁があればと思っていたのですが……」

「ふむ、何かあったのか?」


「実は娘たちがファーガソン様にぞっこんでして。おそらくどこかで戦う姿を見ていたのでしょう。これまで男というものに全く興味を示さなかった二人がと驚きました」


 なるほど……いつものパターンか。


 俺が一人旅をしているときは日常茶飯事だった。仲間と行動するようになってからは初めてだが。


 力になってやりたいが、リンダとサッリの先約があるからな。


「リンダとサッリというのですが、とても気立ての良い真っすぐな娘たちです。もしファーガソン様のお情けをいただけましたら――――」

「何っ!?」

「な、何かございましたか?」

「いや、何でもない。わかった。喜んで引き受けよう」


「本当ですか!! ありがとうございます!!」




「……お前たち、町長の養女だったんだな?」


「あれ? 言ってなかったか?」

「言ってないよお姉ちゃん。それどころじゃなかったでしょ」


 呆れ顔で姉を見る妹のサッリ。


「でもまあ探す手間が省けたよ。住んでいるところ聞いてなかったからな」

「悪い悪い、どうせ来たらここに泊ると思ってたからな。そんなことより早くファーガソンしようぜ!!」


 相変わらず脱ぎっぷりが良いな。


「もう……お姉ちゃんったら回復魔法使うの私なんだからあまり無茶しないでね?」

「わかってるよ」


 サッリも静かに服を脱いで綺麗にたたんでいる。脱ぎっぱなし、投げっぱなしのリンダとは正反対だな。


「リンダは全力ファーガソン、サッリは中級ファーガソンで良かったんだよな?」


 正直に言えば、未だに中級ファーガソンがよくわからない。だが、誰にも聞けないからどうしたものか。


「あ……そのことなんですけど、やっぱり私も全力ファーガソンでお願いします」


 恥ずかしそうに頬を染めるサッリ。


 ふう……ありがたい。助かったぞ。


「よし、二人とも自分の家なら安心だな」

「「お、お手柔らかに」」


 ドンドンドン


『ファーガソンさま、いらっしゃいますか? セリーナです』


 まずい……セリーナが来たのか。


『あの……誰ですか?』

『俺の婚約者だ。見つかったら排除される。息を殺して気配を消せ』

『ひぃっ!?』


 別に悪いことをしているわけじゃないんだが、俺はともかく二人がどうなるかわからない。


 ベッドの下に三人で滑り込んで必死に気配を消す。


 ドンドンドン


『おかしいですね……部屋にいると聞いたのですが……』


 諦めて帰ってくれることを必死に祈る。


『入りますよ? 失礼します』


 セリーナが部屋に入ってくる。


 マズいぞ。セリーナほどの戦士であれば気配察知は並ではない。


 部屋の外からならともかく、部屋の中では気付かれる可能性は相当高くなる。 


 リンダとサッリはさすがに鍛えられているから中々のレベルで気配を消せていると思うが、セリーナに通用するかどうかは自信が持てない。


 バレたら俺が出て行って落とし物を探していたとでも言って誤魔化すしか……。


 

「あれ? おかしいですね。入れ違いになったのでしょうか……」


 頼む……早く出て行ってくれ。


『ふぁ、ふぁっくっしゅん!!』


 うわああああ!? リンダがくしゃみを……終わった……絶対にバレた。


「やっぱりいないみたいですね……」


 え? 気付いていない……なぜだ?


 理由はわからないが、セリーナは俺たちの存在に気付かず部屋を出て行った。


「た、助かった……のか?」


 部屋に残された俺たちは大きく息を吐き出し脱力するしかなかった。






「まったく……世話が焼けるんだから」


 リエンが遠隔で隠蔽の魔法を使っていたことをファーガソンたちは知る由もない。

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