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第百十六話 たとえ世界中を敵に回したとしても

 

 ドラコは悠々と空を飛び続ける。すでに日が落ちて周囲は真っ暗だが、ドラコは夜目が利くらしくもはや邪魔をしてくるような存在もいないので順調そのものだ。


 皆、腹は減っているのだが、夜営地に戻ればファティアの美味しい料理が待っている。あと少しの我慢だ。



「それで、この先マキシムとマギカはどうしたい? 魔族の国に帰りたいなら協力はするが」


 出来るかどうかは別にして、可能な限り本人たちの望むようにしてあげたい。


『うーん、別にそこまで帰りたいってのはないね。チハヤのおかげで魔素が薄い中でも普通に行動できるようになったし。それにあの国は年中寒くて食べ物がマズいんだよね……』 

『私も帰りたくはありません。帰ったとしてもすでに帝国の手に落ちている可能性が高いですし』


 それもそうか。

  

「二人がそれで良いなら俺たちと一緒に来ればいい。離れたくなるまでな」


 知り合いもいない遠い異国の地に魔族とはいえ子ども二人を置いてゆくわけにはいかない。


『え? じゃあずっと一緒に居ても良いの?』

『はいはい!! 私もずっと一緒が良い!!』


「良かったね二人とも」


 チハヤはすでに十年来の友人のように打ち解けている。凄まじいコミュ力だ。


「ところで二人は勇者を知ってる?」


 チハヤが双子にたずねる。


 そうだったな。チハヤの旅の目的の一つは勇者に会うことだ。もしかしたらチハヤと同じ世界からやってきたのかもしれない存在。


『知っているけど見たことは無いよ。僕たちは前線には出ていなかったから』

『直接見たものの話では黒髪に黒い瞳だったって聞きましたけれど……』


 勇者は魔族領には入れないからな。本国に居たマキシムたちが会うことは無かっただろう。


「黒目黒髪かあ……あのね、もし勇者が私の知り合いだったらどうする?」


 さすがのチハヤも少し緊張しているようだ。マキシムとマギカにとっては自分の家族を殺された相手なわけだからな。


『別に気にしないけど? 父上や側近連中ははっきり言って狂っていたし。止めてくれて感謝すらしているよ』

『そうですね、私も父上とほとんど会話した記憶が無いですし、せっかく平和に暮らしていた魔族と人族の関係を壊した張本人ですし……それより何よりも……母上を殺した最低の奴ですから』


 温和で優しいマギカの瞳に怒りの火が灯る。


「魔王は自分の妻を殺したのか?」


『はい……母上は侵略戦争に反対していたのです。国内の穏健派をまとめて何とか思い留まらせようと最後まで諦めずに戦って……』

「そうだったのか……すまない、辛いことを思い出させたな」

『良いんです。だからもし勇者がチハヤさまのお知り合いだったとしても、私たちは決して恨むことはありませんので安心してください』


「ありがとう、マキシム、マギカ」

 

 勇者のことは魔族の二人を仲間に加えることの最大の懸念だったが、何とかなりそうだな。


「それからチハヤ」

「なあにファーギー?」


「神聖魔法の件なんだが、ここから先、可能な限り人前で使うことは避けて欲しい」

「ええ~? なんで? めちゃくちゃ役に立つ魔法なのに……」


 その通りだ。だからこそ使うことは慎重にならなければならない。


「お前に話すべきかどうか迷っていたんだが、やはり話しておくべきだろう。聖女のことは知っているか?」

「うーん、言葉は知っているけど、この世界の聖女のことは知らない」


 そうだろうな。勇者のことも知らなかったチハヤが知っているはずはない。


「聖女は勇者のように異世界からやってくる場合もあるが、この世界で生まれて力に目覚めるケースがある。神聖魔法を使い奇跡と癒しを世界にもたらす存在として勇者以上に崇められているんだが……」


「そうなんだ。じゃあ私が神聖魔法を使ったらダメって言うのは聖女だと思われてしまうからってこと?」

「ああ、その通りだ。思われてしまうというより、神聖魔法を使えることが聖女の条件だから、そういう意味でチハヤは間違いなく聖女だな」

「ふーん。でも別に悪いことはないんじゃないの? 尊敬されているんだよね?」


 そう……だな。むしろそれが問題ではあるんだが。


「魔王を倒したらお役御免で好きなことをして暮らせる勇者と違って、聖女に認定されたら神殿に保護されて死ぬまで働かされてることになる。聖女の有用性はお前自身が良く知っているだろう?」

「うええっ!? それじゃあ奴隷みたいなものじゃん!! そんなの嫌だ」


 勇者と違って捕まえるのは簡単だからな。攻撃魔法は使えないし。


「安心しろ。チハヤを捕まえようとする奴は俺が潰す。だが、出来ればそんな力に頼らなければならない方が良いに決まっているからな。それで魔法を使うタイミングと場所には注意して欲しいと言ったんだ」

「なるほど……正体がバレたらいけないってことだね? ふふ、主人公は辛いね」


 シュジンコウ? また異世界の言葉か。


「まあ、あくまでも出来る範囲で構わない。必要な時は使ってくれ。後始末は俺が何とかする」

「うん、わかったよファーギー」


 チハヤが躊躇ったことで万一命が失われてしまったら……彼女自身が一番傷付き後悔することになる。それは駄目だ。


『ふわあ……まさかチハヤさまが伝説の聖女さまだったなんて……素敵です』

  

 マギカは完全にチハヤに心酔している。命を助けてもらったことも大きいだろうが、やはり女の子は「聖女」に憧れるものだからな。たとえ魔族であってもそれは変わらないということか。


 ちなみに歴代の聖女の中には魔族もいると聞いたことがある。


「にゃはは、マギカ、私のことはお姉ちゃんと呼んでも良いんだよ?」

『ち、チハヤお姉ちゃん?』

「きゃああ、かわいい!! ぎゅ~!!」



 チハヤは優しくて責任感が強い子だ。


 頼まれたらきっと応えてしまうだろう。そうなったら普通の生活はもう送れなくなる。


 だから守ってやらないとな。


 チハヤが普通の女の子でいられるように――――



 たとえ世界中を敵に回したとしても必ず。

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