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第十一話 ファーガソン草むしりをする & 奮発して高い店へ行く 


「うーむ、何やら大事になってないか……?」


 依頼を受けたのは良いが、まさかギルドまで迎えの馬車が来るとは……。


「申し訳ございませんが、到着まで目隠しをさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わない」


 執事風の壮年男が、申し訳なさそうに確認してくる。普通なら見た目で騙されるだろうが、相当な手練れだ。


 それにしても目隠しとは……場所を知られたくないのか……? となると依頼人は間違いなく貴族。それもかなりの身分だろう。たかが草むしり要員の冒険者相手にご苦労なことだな。


 まあ、あえて教えてやる必要も無いが、俺に目隠しなど意味は無い。音や光、あらゆる情報で視覚に頼らずとも位置を把握することなど容易いからだ。


 なるほど……繁華街を抜けて、俺たちが泊っている白亜亭のそばを通り過ぎたな。やはり高級住宅街へ入ってゆくようだ。 次第に住宅の数も少なくなってきたのがわかる。来たことはないが、貴族の邸宅が立ち並ぶエリアなのだろう。



「お疲れ様でした。もう目隠しを外していただいて大丈夫です」


 ここがどの辺りにあるのか、把握は出来ているが、この景色だけを見たら街の外に出たのかと勘違いしそうだな。背の高い森に囲まれているので、周囲に確認できる街の手掛かりは見当たらない。


 乗ってきた馬車の格、案内された敷地の広さ、下手すると領主クラス、あるいはそれに次ぐようなレベルかもしれない。


 

 であれば必要以上に警戒する必要は無さそうだが、これだけ高額な報酬となると、おそらく口止め料が含まれているのが普通だ。内部で見たこと、知り得たことは絶対に口外しないという誓約書は書かされるだろうな。報酬さえもらえるのなら喜んで書くが。



 しかし……とんでもない広さだな。まさか……このとんでもなく広大な庭の草を俺一人で全部むしらされるのか?


 だが俺を舐めるなよ? 常人には無理かもしれないが、たとえどんな広い庭だろうが雑草一本残さずむしりとってやるさ。魔物の大群を殲滅するのに比べたらなんてことない作業だからな。




「ファーガソン様、マリアさまがお待ちです。こちらへどうぞ」


 なるほど……マリアさまとやらが依頼人か。使用人ではなくわざわざ冒険者に依頼する理由……厄介な魔物が住み着いた? それとも屋敷で流行り病で人手が居ない? まあ、考えても仕方ない。すぐにわかることだしな。



「まあ、ようこそいらっしゃいましたファーガソン様。私がこの屋敷の主人、マリアですわ」


挿絵(By みてみん)


「白銀級の冒険者のファーガソンです。依頼を受けてまいりました」


 ブロンドに碧い瞳か……典型的な貴族だな。歳は俺と同じかやや上かもしれない……令嬢というよりはマダムといった貫禄がある。


「ふふ、まさか白銀級のお方がいらしてくださるなんて……しかも若くてハンサムですわね……」

「いえ、こちらこそこんな割の良い依頼をありがとうございます。時間も無いのでさっそく仕事に入りたいのですが」


「あら、お元気なのですね。それは頼もしいですわ! それならさっそくお願いしようかしら?」


 妖艶に微笑むマリア様。



「あの……ここはマリアさまの寝室では?」


 雑草どころか草一本生えていないんだが。


「ええ、ファーガソン様にはこの部屋で『草むしり』を頑張っていただきたく……」



 なるほどね……草むしりは隠語だったのか。

  


◇◇◇



「ファーガソン様、素晴らしい仕事ぶりでしたわ……またお願いしても?」

「ハハハ、この街に滞在している間でしたら喜んで」


 百万シリカの報酬のはずが、なぜか二百万に増えている件……。


 まあ喜んでもらえたのなら何より。勉強にもなったし、結果オーライだな。



◇◇◇



「ファーギー、魔道具は?」

「安心しろ、このとおりバッチリだ」

「わあい!! ありがとう!!」


 これでお風呂に入れると大喜びしているチハヤ。そこまで喜んでくれると俺も嬉しいよ。


「えええっ!? これ……温度調整機能までついてるじゃないですか!? よく手に入りましたね、めちゃくちゃ高かったんじゃ……?」


 ファティアの方は、喜んでいるというよりビビっている。たしかに市場に出したなら百万シリカ以上の値札を付けても余裕で売れるだろうからな。


「ふふ、そうだろう? ギルドマスターにお願いして譲ってもらったんだ」


「ほえ~!? あの氷のエリンがよく協力してくれましたね? さすがファーガソンの旦那だあ!!」


 サムの話だと、エリンは全冒険者から恐れられている冷酷無比なギルドマスターとして有名らしい。


 それにしても氷のエリンか……中身は炎のように情熱的なんだがな。



「今日は盗賊団の報奨金が入ったからな。今夜はみんなで美味いもの食おう。サム、お前にもご馳走するから店の方、頼むぞ。高くても気にしなくていい」


 なんたって草むしりの金もあるし。


「ありがとうございます。ファーガソンさん!!」

「ふふ、楽しみ」

「ご馳走様です旦那!!」



「それで、今夜はどんな店に行くつもりなんだ?」

「へい、せっかくなんで普段は高くて行けない店にしようかと」


 普段は行けない店か。それは楽しみだな。



「これから行く『琥珀館』は貴族や豪商がお忍びで通う名店なんでさあ。完全個室なんで密談や密会、接待なんかにも使われるんですよ」

「そうなのか? サム、よくそんな店に予約が取れたな?」

「へへ、実は腐れ縁の幼馴染がその店で働いているんですよ。旦那の話をしたら喜んで部屋を用意してくれやした」

「サム、グッジョブだ。ところで肝心の料理は美味いのか?」

「さあ? なんせ高いんで入ったことすらありやせん」 

 

 料理は安いからマズいとは限らないように、高いから美味いわけではない。若干不安はあるが、貴族相手の店だ。変なものは出さないだろう。

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