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第百九話 魔王と魔族


「魔王の先兵? ずいぶん物騒な名前だね」


 チハヤはそう言いながらもあまり怖がってはいないようだ。


「ネクロビートルが『魔王の先兵』と呼ばれているのは、魔王軍が襲ってくる前には必ず現れたと言われているからその名が付いたと聞いたことがあるな」


 俺は魔王軍と戦ったことが無いからイマイチ実感はないんだが、人々にとっては恐怖と絶望の象徴だからな……ネクロビートルが出たらすべてを捨ててでも逃げろというのも納得できる話だ。


「ねえファーギー、今更なんだけど魔王と魔王軍って何?」


 そうだったな……あまりにも順応性が高いせいでチハヤが何も知らないことをつい忘れてしまいそうになる。この世界の歴史や文化を全く知らないということがどんな感じなのか全く想像が出来ない。彼女が知っているのは、この世界に来てわすか数週間の間に実際に見て聴いたことが全てなんだよな。


「うーむ、どこから説明したものか……。魔王というのは文字通り魔族の王だ」

「魔族?」

「魔族というのはこの世界に存在する種族の一つで、生まれつき強力な身体能力を持っているが、魔素濃度の高い土地にしか住めないせいで、長らく魔大陸と呼ばれる荒れ果てた辺境にひっそりと暮らしていた」


「なるほど、昔は人間と住み分けが出来ていたんだね」

「そうだ。しかし、始祖と呼ばれる初代魔王が魔素濃度が低い土地を改良できる方法を発見したことで事態は急変した。寒く土地が瘦せ、ろくな作物も育たない辺境から脱出して温かく豊かな土地を望む気持ちは理解できるだろう?」

「そうだね」


「魔王は強力な魔王軍を率いて南下し、人間の住む王国を攻め滅ぼし王国の版図を拡大、新たに都を建設し魔都とした。だが、土地改良には問題があったんだ。魔素濃度が高い土地には作物が育たないことが判明した。そこで魔族は人間に作物を作らせ、間接的に支配する方法を考え出したわけだが……」


「人間側が反発したんだね?」

「その通りだ。だが魔族は圧倒的な力の差を見せつけ見せしめとして反発した国を皆殺しにするなど恐怖での支配を一層強化した。人間は魔族に支配される家畜同然の存在として生きるしか道はないかと思われたが……ある時、女神によってこの世界へやって来たと語る青年によって人類に希望が生まれたんだ」

「なるほど、それが勇者ってことか」


 さすがチハヤ。理解が早い。


「その初代勇者によって始祖は倒され、人類は魔族の支配から解放されたんだが、魔族という種族は定期的に強大な力を持つ者を輩出し、新たな魔王が誕生する。人間が窮地に陥るとそのたびに新たな勇者がやってくる。何度か同じことが繰り返された後、そのことは女神の加護として広く認識されることとなったわけだ」


「ふーん、それで今回も魔王は勇者が倒したってことなんだよね?」

「そうだ。今代の魔王が倒れ、魔王軍は崩壊した。だから今回の件とは関係ないだろうな」


 気にならないわけではないが、ここから魔大陸は離れすぎているし、そもそもこんなところに魔王軍がいるはずもない。


「じゃあ結局、なんでネクロビートルが大量発生したかわからないってことだね?」

「まあ、そういうことだ。現場を見れば何かわかるかもしれないが……おっと、また湧いてきたぞ」


「ドラコ、焼き払って!!」

『はい、まま!!』


 ゴオオオオオオオオッ!!!!


 ……冷静に見ているとドラコのブレスヤバいな。


 ネクロビートルの甲殻はとても硬くて軽いので防具などにも利用されている。剣で倒そうと思ったら、甲殻の隙間を狙うのが基本だ。そうしないと武器が欠けたり折れたりしかねないからな。


 それなのにドラコのブレスは文字通り跡形もなく灰にしている……一体どれほどの高温で焼けばそんあことが可能なんだろう。味方で良かったとあらためて思う。



「それにしてもネクロビートルが焼けた匂い……ちょっと旨そう――――痛てええ!?」

「ファーギー……本気で怒るよ?」


 チハヤに思い切りつねられた……すまん。



「でもさ、ちょっと不思議なんだけど、なんで魔族を滅ぼさないの?」


 おいおい、ずいぶんと物騒なことを言うな。


「たしかに魔王の脅威はあるが、全ての王が魔王となって人間に対して攻撃を仕掛けてくるわけじゃないからな。もしそうなら、常に勇者が必要になるだろ?」

「それもそうだね」


「実際にここ百年ほどは穏健派の王が続いていて、魔大陸でしか産出しない宝石や鉱物と引き換えに食糧を売るという関係性が出来ていた。もう一つは、魔族の国があることで強力な魔物が人間の領域へ南下してくることに対する防波堤のような役割を果たしているということだな」

「そうか……トータルで考えると魔族が居てくれた方がメリットが大きいわけだね。どうせピンチになったら勇者が来るわけだし」


 身もふたもない話だがその通りだ。


「まあ魔族という潜在的な脅威が存在することで間接的な人間同士の平和が保たれているという政治的な思惑もある。帝国のようにそれを台無しにする例外もあるがな」

「ああ、わかる~!! 宇宙人の脅威に対して団結する人類ってヤツだね」


 ……たまにチハヤが何を言っているのかわからなくなる。


「まあそんなところだ。それにな、仮に滅ぼそうと思っても難しいだろうな……」

「どうして?」

「なぜか勇者は魔大陸には入れないんだそうだ。おそらく女神の枷があるんだろうな」

「へえ~面白いんだね」


 話をしている間に町が見えてきた。


 さあ害虫退治と行くか!!

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