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第百七話 予期せぬ脅威


「ファーガソン殿……これは……」


 アリスターさんが絶句する。


「ああ、避難民だな……しかもろくな準備もせずに逃げ出してきたという感じだ」


 野営場にあふれている人々は大半が着の身着のままの姿で不安そうに身を寄せ合っている。中には明らかに怪我をしている人もいるようだ。寝かせられている人は重傷なのかもしれない。


「しかし避難民だとして一体どこから? この辺りに戦場はありませんし強力な魔物が出現したという情報も入っていませんが……」


 アリスターさんの疑問はもっともだ。これだけの人々が逃げて来ているとなると、付近の村ではあるまい。となると――――


「ここから一番近い町となるとヴァレノールだろう? おそらくはそこから来た可能性が一番高い」


 ヴァレノールは次の目的地だ。考えたくはないが、何か危機的な状況が起こったのかもしれない。



「あんたたち!! この先へは行けないぞ」


 俺たちよりも先に出発した冒険者パーティのリーダーと思しき男がこちらへやってくる。


「そのようだな。何があった?」 

「俺たちも詳しくはわからんが、どうやらヴァレノールが魔物の大群に襲われたらしい」


「魔物の大群っ!! それは本当ですか?」

「ああ、直接町から逃げてきた奴に聞いたから間違いない。あんた商人だろ? ついてなかったな」

「いえ……もしかしたらツイていたのかもしれません」

  

 アリスターさんがこちらをチラリと見ながら男に答える。


 なるほど、俺を待たずにもし予定通り出発していたら……ということか。


「アリスターさん、ヴァレノールが襲われたということは、ここも安全とは言えない。至急対策を話し合う必要がある」

「……そうですね。一旦戻りましょう」



「――――というわけです。町を襲った魔物がそのまま残っているのか、それとも周辺の都市に雪崩れ込むのか今の段階ではわからない。魔物の数や種類も不明です」


 アリスターさんの話を聞いて同行している人々に不安が広がる。


「大丈夫だ。ここには我が騎士団と白銀級の冒険者パーティがいる」


 リュゼの護衛騎士団トラスが声を張り上げると、ようやく人々も少しずつ冷静さを取り戻してゆく。


「ファーガソン殿はどう行動すべきだと思われますか?」


 アリスターさんも判断を迷っているようだ。引き返すべきか、それとも――――



「俺がヴァレノールへ行く」

「え?」


「ヴァレノールを襲った魔物がこちらへ向かっている可能性もある。俺が先行して脅威を排除してくるから、その間に皆は避難民の手当てと食事をして欲しい。必要な経費は俺が負担する」


「……わかりました。たしかにそれが現状最も理にかなっているかもしれません。食料や医薬品はお気になさらず、困った時はお互い様ですから」


 アリスターさんならそう言うと思っていたが、さすがに負担が大きすぎる。 


「アリスター殿、費用は全額我々が負担するとのお嬢さまからの伝言だ」

「我がフランドル商会の物資もいくらか持ってきておりますので提供しましょう」


 トラスとリリアが支援を申し出てくれた。公爵家とフランドル商会が支援してくれるなら何とかなりそうだな。


「ファティア、悪いが食事頼んでも良いか?」

「お任せください!!」


 ファティアが腕をまくる。


「リエン、怪我人の治療なんだが……」

「わかっている。私に任せておけ。その前にチハヤ!!」


「なあにリエン?」

「出発前にお前に覚えてもらいたい魔法がある」

「え? 出発? 今?」

「時間が無い。こっちへ」


 昨日アニタさんを治療した際にチハヤが覚えた神聖魔法。どうやらリエンはチハヤなら神聖魔法を使うことで覚えられると確信しているようだ。


「リエン、まさかチハヤを連れて行けというのか?」

「もちろんだ。生き残っている人がいるかもしれない」


 町が魔物の大群に襲われたのなら、想像を絶する惨状になっている可能性が高い。


 たしかにリエンの言う通りだが、あまりにも危険……いや、もし聖女の力に目覚めたのなら……うーむ……


「ファーギー、私、行くよ」


 チハヤの瞳に迷いや不安の色は見えない。


「わかった。チハヤ、悪いが一緒に来てくれ」

「うん」


「そうと決まれば急ぐぞ」


 リエンがチハヤを連れて姿を消す。おそらくは聖女絡みの魔法だろうから人前で迂闊に使うわけにはいかないのだろう。




「ファーガソンさま、本当に二人だけで行かれるのですか?」

「ああ、セリーナにはここにいる人々や仲間たちを守ってもらいたい」

「で、ですが……」

「お前がここに居てくれるから俺は後ろを気にせず戦えるんだ」

 

 ここには出来るだけ戦力を残しておきたい。守るべき人数が多すぎる。


「ファーガソンさまがそうおっしゃるのでしたら……わかりましたここはお任せください」 


「アリスターさん、すまないが少しの間ここを離れる」

「先程の冒険者パーティに護衛の依頼をしましたのでファーガソン殿の代わりになるとは思いませんが少しは安心してもらえるのでは? くれぐれもお気を付けて」



「リエン、索敵の状況はどうだ?」

「……複数の魔物が接近中だ。早いな……飛行タイプか? 数は……十匹……来るぞ!!」



『うわああっ!? な、なんだアレ!?』


 人々が空を指して騒ぎ出す。


 バババババババババババババババ


 耳を抑えたくなるような爆音。


 これは――――羽音だ。


 大きな黒い飛行物体が編隊飛行のように上空を飛んでいる。


「ファーガソン殿、アレは一体?」

「……ネクロビートルだ」


 黒光りするボディに六本の脚を持つ怪物だ。こちらへ降りてくる様子はないが……マズい、あの方向にはバールがある。



『……凍てつく大地の息吹よ、我が呼び声に応えて結晶となれ。銀世界を統べる冷酷の意志、永遠の氷河の如く敵を覆い尽くせ。氷結の魔弾よ、疾く敵を穿て!』


 いち早くリエンが詠唱を完成させる。


『氷結の魔弾、フロストバレット!!!」


 リエンが両手を前に突き出すと、凝縮された冷気が無数の氷の弾丸となり発射される。


 氷の刃は、目標に高速で到達し、その硬い表皮を凍結させながら貫通。


 十匹のネクロビートルは、叫び声を上げる間も無く、絶命して大地へと叩きつけられた。

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