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第百六話 バール出発


「それでは皆さま、出発しましょう!!」


 アリスターさんの号令で隊商は一斉に移動を開始する。


 アリスターさんの隊商が五十名、同行する商人や旅人、各種ギルドの職員などが同じく百名ほど、そして護衛の冒険者が我々を入れて三十名弱、そこにリュゼと護衛騎士団が加わったことで、総勢200名を超す大集団だ。さらに正式に同行しているわけではないものの、数が多い方が安全だということで、ここバールで勝手に付いてくる人々も新たに加わる。中々壮観だな。


「皆さまお気を付けて」

「セリーナちゃん、また来てね!!」

「セリーナお姉ちゃん、旦那さま、旅のご無事をお祈りしています」


 七歳の子に旦那さまと呼ばれるのは何とも言えない気分になるが、次いつ会えるかわからないし、この世の中、常に死の危険と隣り合わせだ。どうか無事に、元気でいて欲しいと心から願わずにはいられない。


「世話になった。旅の土産を持ってまた来る。それまで元気でな!!



『ファーガソンさま、とうとう七歳の子に手を出したらしいですよ』

『さすが白銀級ともなると年齢はただの数字ということかしら?』

『もしかして私にもワンチャンあるかしら?』


 相変わらず周囲の冒険者たちの視線が集まってくる。おかしいな……初日から慣れるどころかなんとなく距離を感じる。



「ファーガソン、今夜は野営なのだろう?」

「ああ、小さな村はあるらしいが、日中に移動できる距離に我々のような大所帯が泊まれるような町は無いからな」


 俺も知ったようなことを言っているが、当然初めての土地なのであくまでギルドで集めた情報を元に話をしている。


 このバールまではまだダフードの勢力圏、つまり厳密にはまだ街から出ていないともいえる。ここから先が本当の意味での旅のスタートだと言っていい。


「リエン、私までシシリーに乗せてもらって良いのですか?」 


 セリーナがシシリーの背中で揺られながら申し訳なさそうに尋ねる。


「もちろんだ。シシリーもセリーナを乗せられるのが嬉しいようだしな」


『シシリーセリーナスキ』

「わあ、ありがとうございますシシリー。後で美味しいお肉あげますね」


 シシリーの奴、女の子に優しくするとお肉を貰えることを学習したらしい。中々やるな。


「ファーガソンは乗らなくて良いのか?」

「ああ、ここからしばらく行くと街道が狭くなって死角が増える場所になるらしい。魔物はドラコとシシリーのおかげで近寄っては来ないだろうが、山賊や盗賊が潜伏していないとも限らない」


 大所帯はたしかに比較的安全ではあるが、襲われないというわけではない。むしろ賊にとってみればお宝の山が移動しているようなものだ。とにかく何をするのにも目立つので、たとえ質が悪くとも多めに護衛を雇って武力を誇示し、抑止力を効かせることが重要になる。


 それでも死ぬか生きるかの状況に追い込まれている連中には役には立たないが。


「そうか……まあ、賊風情が束になってかかってこようが我々が負けるとは到底思えんがな」


 リエンがそう言って苦笑いする。


「まあその通りなんだが、隊商には子どもを含めて非戦闘員も大勢いるからな。敵を倒すことよりもどんな状況でも怪我人を出さないようにすることの方が難しいんだよ」


 不意を突かれて先手を取られれば受け身にならざるを得ない。全員が馬車に乗っているのなら良いが、そうではない以上油断は禁物だ。


「なるほど……たしかにいきなり矢を射かけられたら防ぎきれない可能性はあるな。わかった、私も引き続き索敵を続けよう」


 表情を引き締めるリエン。正直なところ、彼女の索敵魔法があれば全員寝ていても良いくらいなのだが、彼女一人に負担させるわけにはいかない。


「索敵の魔法? リエンはそんなものまで使えるのか……」


 セリーナが前に座っているリエンを興味深そうに見つめる。


「敵の数や種類までわかるんだぞ? 敵にしてみれば知らないうちに丸裸にされているようなものだ」

「うわあ……それはたしかにそうですね……」


 セリーナがうへえと顔をしかめる。


「おいおい、前にも言ったが、索敵の魔法は万能じゃない。対索敵魔法は戦術の基本だ。もっとも……この国では存在自体がほとんど知られていないようだから、対策されている可能性は低いが」  

 

 レイダースのスレイは索敵の魔法を使っていたようだが、相手が使えるとは思っていなかったようだ。やはり過信や油断は怖いな。


「セリーナ、お前は背後を頼む」

「任せてください」


 シシリーの背中の上からなら、かなり視点が高く遠くまで見渡すことが出来る。後ろを向いたままで移動できるしな。



   

「……何も起こりませんでしたね」


 まもなく今夜野営をする地点へと差し掛かろうとしたところでセリーナがようやく表情を緩める。


「だろうな。この近辺の盗賊団は俺が一掃したから可能性は低いだろう」

 

 通常、盗賊団は縄張り意識が強い。つまりあの大規模盗賊団の縄張り近くに他の盗賊団が出没する可能性はほとんどない。



「……そうでもなさそうだぞ二人とも」


 リエンの言葉に瞬時に反応し、臨戦態勢に入るセリーナ。


「敵か? そのような気配は感じないが……」

「いや……敵じゃない。だが、もっと厄介かもしれないな……」


 気になる言い方だ。リエンは何を感知したんだ?



「大変です、ファーガソン殿!!」


 前方にいたアリスターさんが駆け寄ってくる。いつも冷静沈着な彼がここまで慌てているのは珍しい。リエンが言っていたことと関係がありそうだ。


「どうした?」

「見てもらった方が早いかと」

「リエン、セリーナ、ちょっと見てくるからここを頼む」



「こ、これは一体……」


 前方に広がっていたのは、想像もしていない光景だった。


 数百……いや、千人近くいるだろうか? 野営地にはすでに先客があふれていて入ることが出来ないほど。


 一瞬軍が移動しているのかと思ったが、明らかに多くは民間人だ。



「困りましたね……この辺りで野営できそうな場所はありませんし」

「とにかく判断するのは行ってみてからだ」

「そうですね」


 旅にトラブルはつきものだが、これはさすがに予想していなかったな。

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