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第百五話 幼き天才


「んんん!! これは……寒天ゼリーに近いかも!! 美味しい」


 皆が食べるのを躊躇する中、最初に口にしたのはチハヤだ。


 やはり透明なお菓子に抵抗が無いということが大きいのだろう。


 カンテンゼリーが何なのか見当もつかないが、何となく美味しそうなのは伝わる。


「よし、食べてみるか」


 チハヤが食べたことで皆も一斉に食べ始める。


「おおう……見た目と違って結構弾力があるんだな……うむ、ほんのりとしたクセのない甘さが良いな!!」


 これまでに食べたことのない食感だが、悪くないどころか思ったよりも好きかもしれない。それにこの甘さはクセになる。もっと食べたくなる丁度よい甘さなんだよな。

 

「こんなお菓子、私も食べたことないわ」


 リュゼも美味しそうに食べている。大抵の美食を経験しているであろう彼女が食べたことがないのならば、世間に知られていないお菓子なのかもしれない。


「悔しいです……どんな材料で作られているのかまったくわかりません」


 ファティアがため息を漏らす。その割には楽しそうだがな。


「私もですよファティアさん。こんなに素晴らしいモノを我が商会が知らずに過ごしていたなんて……大失態です」


 リリアは本気で悔しそうだな。ダフードから目と鼻の距離にあるこの町にあるお菓子を知りませんでしたとなればたしかに大失態には違いない。 



「ふふふ、ファティアさんもリリアさんもそんなに落ち込まなくて良いのよ? だって実はこのお菓子、娘が作ったの」 


「「「ええええっ!!!」」」


 これには俺も驚いた。たしかアニタさんの娘マロンちゃんは七歳だと言っていなかったか? 他に娘がいなければの話だが。


「なるほど……マロンちゃんならあり得るかも……」

「そうなのかセリーナ?」

「はい、マロンちゃんって生まれた時から普通じゃないというか……妙に大人っぽくて……天才って言うんでしょうか、大人顔負けなところがありましたから……」


 セリーナが知っていた当時のマロンちゃんはもっと幼かったはずだが……それはたしかに天才なのかもしれんな。


「マロンは苦しむアニタの姿を見て、自分にも何か出来るんじゃないかって、病気を治すためにずっと研究を続けていたんですよ。その研究の過程で産まれた副産物がこのクリスタルケーキというわけなんです。皆さんにも好評なようなら、この町の新たな名物として売り出そうかなと考えています」


 そうだったのか……それを知ってから食べるとなんというか一層美味しく感じるな。


「すごい……マロンちゃんに弟子入りした方が……」


 やめておけファティア。マロンちゃんは料理人じゃないし、まだ七歳だ。



「パパ、ママ!!」


 元気よく部屋に飛び込んで来たのは、アニタさんに良く似たマロンブラウンの髪を馬の尻尾のように後ろで束ねた少女。アニタさんに抱き着いて離れない。七歳と言えばまだまだ母親に甘えたい盛りだ。ずっと甘えることすら出来なかったんだからこれから思う存分甘えて欲しい。


「おお、マロン来たか。皆さまにご挨拶して」


 その様子を微笑ましく見つめるマルコの視線も優しい。これが父親の顔なんだな。



「皆さま、ママを助けてくれて本当にありがとうございました。こんなケーキくらいでしか御礼が出来ませんがたくさん作ったので良かったら持って行ってくださいね」


 ぺこりとお辞儀する少女。


 これは……たしかにタダモノじゃない。若干幼さを感じる喋り方も、わざとそうやっているようにすら感じてしまう。


「あ、あの……マロンちゃん、もし良かったら……作り方を教えてください!!」


 七歳児に土下座するファティア。


 さすが料理に関してはプライドを捨てることを躊躇わない。

 

「良いですよ。料理にはあまり興味が無いですし、ママの命の恩人ですから。アレンジするなり好きに使ってもらって構いません」

「えええっ!! 良いんですか!! ありがとうございます、ありがとうございます!!」


 なんという器の大きさ。神々しくすら見えてきた。


「ほうほう……なるほど……ジュレルートの根っこを……はああ!! それはすごいです!!」


 一生懸命メモを取るファティアとレシピを教えるマロンちゃん。なんともシュールな絵面だな。

 



「それで……貴方がファーガソンさまですか?」

「うむ、そうだが」


 トコトコ近寄ってきて興味深そうに見上げてくるマロンちゃん。


「あの、抱っこしてもらっても?」

「ああ、構わないぞ」


 ふわりと抱き上げ抱っこしてあげる。ついでに大人気の肩車も追加してあげるとマロンちゃんは大喜びだ。


「ふふ、良かったですねマロンちゃん。ファーガソンさまもケーキどうぞ」


 セリーナが口にケーキを運んでくれる。


「うん……決めた。私、ファーガソンさまのお嫁さんになる」

「ぶふぉっ!!?」


 しまった……不意打ちを喰らってクリスタルケーキ噴き出してしまった。ああ、勿体ない。


「ま、マロンちゃん? そういう大事なことはもっと大きくなってから――――」

「何で? だってセリーナお姉ちゃんだって七歳の時にファーガソンさまの婚約者になったんですよね?」

「む……それはそうだが……」


 セリーナ、お前からも何か言ってくれ。


「マロンちゃんなら歓迎する。大人になっても気持ちが変わっていなければいらっしゃい」

「うん、ありがとうセリーナお姉ちゃん!!」


 どうやら止める気は無さそうだ。


「ふふ、まあまあファーガソンさま、小さい子どもが言うことですから~」


 アニタさんがにこにこしながら背中を叩いてくる。


「そんな……まだマロンは七歳なんだぞ!? 早すぎるだろ」

「マルコ……まだまだずっと先の話よ? それにどこの馬の骨だかわからない冒険者連れて来られることを考えてごらんなさい」

「む……それはたしかに。うん……冷静に考えたら最高の相手なような気がしてきた!!」


 ま、まあ、両親とセリーナがそれで良いなら……アニタさんの言うとおりまだまだ先の話だしな。



「あはは、お子さまにも大人気だね、ファーギー」


「素直に喜んでいいのかわからないがな、それよりどんだけ食べるんだチハヤ?」


 さっきからクリスタルケーキをモリモリ食べ続けているが、大丈夫なのだろうか? そんなに大食いではなかったはずだが。


「んん? なんでかな……甘いものを食べると力が湧いてくる……みたいな?」

「これは興味深い……たしかにチハヤの魔力量の上限が増えてる……」


 甘いものを食べると魔力が増える? 回復するならまだわかるが……


 そんな話聞いたことが無いが……他でもないリエンが言うのなら嘘ではあるまい。


「チハヤが神聖魔法に覚醒したのと関係があるかもしれない。あくまで可能性だが」



 チハヤに関しては規格外のことが多すぎる。やはりチハヤは聖女なんだろうか? 

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