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第百一話 バールで乾杯!!


「ねえ!! セリーナちゃん、なんで婚約者がいるって教えてくれなかったの?」

「あ、アニタさん、別に隠していたわけでは……聞かれなかったので」


「はあ……てっきりセリーナちゃん男に興味がないのかと心配していたんだけどようやく納得したわ。こんなにイケメンの婚約者がいるのなら他の男なんてその辺の石ころにしか見えないわよね。しかも白銀級なんですって? 強くて稼ぎが良いなんてどんだけ優良物件なのよ~。うんうん、セリーナちゃんともお似合いだし良かったわね~、本当に良かった」


 すっかり元気になったアニタさんも参加しての夕食会。マルコはまだ早いと必死に止めたんだが、どうやら魔法の効果はリハビリ要らずらしい。さしものセリーナもその勢いにタジタジになっている。


「神聖魔法というのはすごいんだなリエン」

「伝説の聖女は死んだ者すら蘇らせたらしいから、この程度当然」


 マジか……おそらくは誇張されて伝わっているだけだとは思うが、これだけのものを見せられてしまうともしかしたら……という気になってしまうな。



 夕食会の会場は、マルコ一押しの『樽タル』という庶民的な雰囲気の食事処。


 店名にある通り、大小さまざまな樽がテーブルやイスとして使われていて、店自体も大きな樽をイメージした印象的な外観をしている。


 まだ夕食には早い時間帯にもかかわらずすでに満席。オーナーと友人関係のマルコが特別に個室を融通してくれたのは幸運だった。


「この町の名産として名高い酒『バール』は、やはりこの町で飲むのが一番美味いんですよ」


 この店のオーナーであるドルジさんが人好きのする笑顔で誇らしそうに語る。 


 バールは近年輸出もされているが、どうしても輸送している間に劣化してしまうんだとか。ダフードでバールを飲むのは観光客や事情を知らない余所者だけというくらい変わってしまうのだから、ましてや他の街ではもはや別物になってしまうのかもしれない。


「よーし、今夜は久しぶりに浴びるように飲むわよ~!!!」

「勘弁してくれアニタ……まだ病み上がりなんだぞ」


 奥さんが心配で仕方が無いのだろう。その様子に皆が頬を緩める。


「馬鹿言わないで。人生で一番身体の調子が良いくらいよ」


 神聖魔法によって、奇病だけでなくありとあらゆる不調が消え去ったのだ。たしかに肌艶も良いし、生気がみなぎっている感じがする。




「ねえ……ファーガソン、私たちはお酒飲めないんだけど?」


 リュゼ、チハヤ、ファティア、リリアの未成年組が不満そうにこちらを見る。たしかにのけ者にしたら可哀想だ。


「ドルジさん、未成年でも飲めるものはあるか?」

「大丈夫ですよ。お子さまでも飲んでいただける『バルライト』がありますから」


 ほほう、それは有り難いな。俺たち大人だけが楽しんだのではやはり心苦しい。



「お待たせしました~!! 生バールです!!」


「「「「おおおおおっ!!!」」」


 大人組から歓声が上がる。


 原料は大陸で一般的な酒ギールと同じらしいのだが、見た目が全然違う。ギールは濁った赤褐色だが、バールは透き通った黄金色でなんといっても泡立ちがすごい。なんというか神々しさを感じる。


「こちらがバルライトになります~」


「「「「わああ!! 美味しそう!!」」」」


 これには未成年組も大喜びだ。


 お子さま向けのバルライトは、バールと間違えて飲まないようにピンク色に色付けされている。なんとも不思議な飲み物だな。



「それではアニタの回復とセリーナとの再会、皆さまの旅の無事と成功を願って――――豊穣の女神グレナに献杯!!」


「「「豊穣の女神グレナに献杯!!」」」 


 マルコが乾杯の音頭をとると、皆が一斉にグラスを天に掲げて女神に感謝をささげる。



「今夜は私の奢りだ。遠慮せず存分に飲んで食べてくれ」


 稼いだ報酬はほとんど使わずにいたというセリーナの貯金額は相当なものらしい。育ててくれたマルコやアニタさんへの感謝の気持ち。そのアニタさんを助けるために尽力してくれたパーティメンバーへの気持ちなんだと言われてしまえば受け入れるしかない。


「ありがとうセリーナ!!」

「よっ!! 太っ腹!!」

「うう……あのセリーナちゃんが立派になって……」 


 


「くうっ、これは美味い!! クリーミーな泡と苦みの効いたクリアなバールの喉越しはたまらないな!!」


 今まで飲んできたどの酒とも違う。これはマズいな……口当たりが良すぎていくらでも飲めてしまいそうだ。


 この酒を飲むためだけにこの町へやってくる人間が多いと聞いた時は少々大袈裟だなと思ったが、これなら納得するしかない。他の街でも飲めるようになったら最高だろうな。



「ワイルドボアの串焼きです。下味は付けてありますが、お好みでガラムを付けるとバールと相性が良くて美味しいですよ」


 お姉さんが運んできてくれたのは、一口大に切ったワイルドボアの肉を串に刺して焼いただけのシンプルな料理。脂の焦げた匂いが食欲をそそる。ここでもガラムか……。最近よく見かけるようになったな。


「むうっ!? たしかにバールと合う!!」


 辛いのはあまり得意ではないので控えめに付けてみたのだが、これがまたバールの苦みと調和して美味さが引き立つ。


「ふふ、ガラムを王国に持ち込んだのは我がフランドル商会なんですよ、ご主人さま」


 リリアが自慢げに胸を張る。


「そうだったのか、近い将来金の卵になりそうだな」

「はい、輸入ルートは完全に押さえておりますので、独り勝ちです」


 まだ全国規模にはなっていないが、それも時間の問題だろうな。なんというか一度味わうと病みつきになる。



「どうですか、バールは?」


 アニタさんが新しいグラスを手渡してくれる。


「美味いな、酒自体も美味いんだが、何より料理との相性が抜群だ」

「ふふ、そうでしょう? バールはどんな食べ物とでも相性抜群なんですよ。食欲増進効果があるから食べて、また飲みたくなるから飲んでまた食べて……まさに幸せの連鎖なの」


 アニタさんが紅い顔で大きなグラスに入ったバールを飲み干す。


 その飲みっぷりを見ていると不思議と幸せな気持ちになるし、食も進む。うむ、たしかに幸せの連鎖だな。


「……ファーガソンさん、セリーナちゃんは本当に良い子だから幸せにしてやってね……あの子は世界一幸せになる資格があるんだから!! あんなに頑張ったんだから……」


 豪快に笑っていたと思ったら、今度は号泣し始めるアニタさん。


「ああ、絶対に幸せにすると約束する」

「よく言ったわ!! さすが良い男は違うわね。さあ飲んで!! 浴びるように飲んで!! ついでに私の娘ももらってくれないかしら?」


「アニタさん!! 私たち明日仕事だからな!! それにマロンちゃんはまだ七歳だから!!」


 セリーナがアニタさんに激しくツッコミを入れる。


「あはは、冗談だって。わかってるわよ。ファーガソンさん、ゆっくり楽しんでくださいね」


 そうか……そんなに小さい子どもがいたんだな。助かって本当に良かった。

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