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第百話 神聖魔法 そして覚醒


「チハヤを連れて来たぞ、リエン」

「わかってる。そう来ると思って準備は終わってるよ」


 おお、この研ぎ澄まされたナイフのようなリエンの雰囲気……レイダースと対峙した時に近い。


 つまり本気だということだ。



「良いか? 今からチハヤの身体を使って魔法を使うが、相当高位の古代魔法だから負担が凄いと思う。かなり痛いかもしれないが気をしっかり持て」


 リエンがチハヤに説明する。いきなり連れて来られてそんなことを言われてもチハヤも困ってしまうだろうが……


「うえええ……何で私がそんな目に……でも、うん、わかった」


 泣きべそをかいているチハヤだが、マルコさん、セリーナ、そしてアニタさん。目の前で苦しんでいる人を見捨てることは出来ない優しい子だ。すぐに状況を察して引き受けてくれた。


「セリーナとマルコさんも部屋に残るのなら覚悟して」

「わ、わかった」

「もちろん」


 同じ部屋にいる以上、ただでは済まない。俺は何度も経験しているが、リエンの本気の魔法はヤバい。魔力が物理的な質量を持って身体と精神に干渉してくるのだ。ましてや今回はチハヤという化け物レベルの魔力を力業で行使しようとしているのだ、その結果どうなってしまうのかは、俺たちはもちろん、リエン本人にもわからないし保証できないということなのだろう。



「同期完了、それではこれより詠唱を開始する――――」


 チハヤの身体との同調を終えたリエンがいよいよ魔法の構築を始める。


 彼女が一度集中し始めると、明らかに部屋の中の空気が変わり始めた。まだ何も始まっていない段階でこれだ。その渦中にいるリエンとチハヤの負担は相当なものになっているはずだ。


 パキパキパキ……バリバリバリ


 空中に火花や電撃のようなものが飛び交い時折激しく光が爆発する。おそらくは魔法の発動を阻害する要因を力づくで破壊しているのだと思われる。そのために消費される魔力量は凄まじく、あまりに濃密で膨大なため魔力を感じることが出来ない俺ですらはっきりと知覚できるほど。


 リエンの額から汗が噴き出す。


 ただでさえ相性の良くない属性の魔法を使う上に、チハヤの魔力を経由して発動するという離れ業だ。さすがのリエンでも成功するかは五分五分だと言っていた。



『全てを癒す女神の息吹よ 煌めく聖なる炎よ 神聖なる癒しの光よ 我に宿りて悲嘆に満ちたこの世界に希望の光を 終わりなき時の流れの中で、生命は再び緑を取り戻す 天命の道しるべ、輝光となりて病魔を撃ち払え――――』


 立て続けに詠唱を続けるリエンの顔色が悪い。


 チハヤの顔が痛みで歪む。見ているしか出来ない自分が歯がゆい。



 ゴゴゴゴゴゴゴ………


 莫大な魔力の渦が徐々に形を成し、上昇気流を生み出してゆく。


「くっ……」

「しっかり掴まっていてくださいマルコ」


 そのプレッシャーに吹き飛ばされないようにお互いを支え合うセリーナとマルコ。


「リュゼ、ファティア、リリア、俺にしっかり掴まっているんだぞ」

 

 先ほどから言葉すら発することが出来なくなっている三人が無言で頷くのを確認してから、しっかりと魔力風に飛ばされないように抱きしめる。


「来るぞ!!」


 間違いない、この爆発的な魔力の高まりと同時に急激に集束してゆく感覚……


 ――――魔法が発動する!!!



『今、全てを癒し導け――――聖癒のオリフラム!!!!!!』


 リエンが絶叫すると同時に魔法が発動する。



 最初に天が割れて光が満ちた。


 もはやここがどこなのかもわからない。上も下も、時間の流れさえ感じられない。


 もしかしたら……死んだらこんな感じなのかもしれないとぼんやり考える。


 苦しくはない。何という温かさだ。あまりの慈愛に自然と目から涙があふれ出してくる。




 どのくらい時間がたったのだろう。


 再び部屋に静寂が戻った時、あれほど満ちていた光は消え去っていた。



「……魔法は……成功した。アニタさんは治っているはずだ」


 リエンが満足げに微笑む。


「リエン!!」「チハヤ!!」


 崩れ落ちるリエンとチハヤを受け止める。




「……あら? 私……どうして……?」


 先ほどまで意識すらなかったアニタさんが目を開いた。半分以上銀結晶化していた身体も元通りになっている。


「アニタッ!!! わかるか、私がわかるか?」

「ええ……わかりますよ、あはは、マルコ。なんで泣いたりしているんです?」 


「うわああああん、アニタさん!!!」

「ええ!? セリーナちゃん? うわあ……大きくなったのね。こんなに綺麗に……ふふふ、なんでセリーナちゃんまで泣いているの?」



「……良かったわね」

「本当に良かったです……」

「不覚にももらい泣きしてしまいます」


 リュゼとファティア、リリアも泣いている。


「お疲れ様、リエン、チハヤ。お前たちはよくやったよ……本当によくやってくれた」


 考えてみればリエンにもチハヤにも直接関係ない話だ。強引に巻き込んだ挙句ここまでさせてしまったのは間違いなく俺のせいだ。


「……そんな顔するなファーガソン、私は好きでやっただけだからな」

「リエン……ありがとう」


「…………」

「どうしたチハヤ? 具合でも悪いのか?」


「ううん……そうじゃなくて……」


 何かあったのだろうか。自分の手をじっと見つめるチハヤ。


「なんかね、魔法を覚えたかもしれない」


「……へ?」

「魔法を……覚えた?」


「うん、たぶん今の魔法使えると思う」


 とても嬉しそうなチハヤだが……素直に良かったねとは言えない。あまりにも常識外れ過ぎて理解が追いつかないのだ。


「リエン、そんなことあり得るのか?」

「うーむ、あり得ない……と言いたいところだが、チハヤは存在そのものが勇者と同じで規格外だからな、神聖魔法との相性が異常に良かったから魔法を覚えられたのかもしれないが……」


 神聖魔法との相性が良い? 


「なあリエン……それってまさか……」

「うむ、チハヤが『聖女』かもしれないと言いたいのだろう?」


 声を潜めるリエン。


 百年以上空位だった聖女が発見されたとなれば大変なことになる。自由に旅をすることも難しくなってしまうかもしれない。


「ああ、だとしても何も変わらないさ。チハヤはチハヤ。それで良い」

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