第一話 白銀級冒険者 ファーガソン
「こんにちは、ダフードへ行きたいんだが、ソロで入れる依頼はあるかな?」
「こんにちは、ダフードですね。冒険者証をお預かりしてもよろしいですか?」
「ああ、頼む」
「ファーガソン様ですね、等級は――――」
受付で可愛らしいお姉さんに冒険者証を渡すとピシリと動きが止まる。
ああ……またか。まあ、いつものことだが、こう毎回だと少々面倒くさい。
「う、嘘っ!? 白銀級!? し、失礼いたしました!! す、すぐにギルドマスターを――――」
「ああ、いいから!! 普通に依頼を紹介してくれればそれでいいから、落ち着け」
冒険者としての最高位白銀級、自分で言うのもなんだが国に数人いるかいないかのかなりレアな存在だ。世界各国の冒険者ギルドでVIP待遇を得られるし、出入国の制限もない。ギルドと提携している店では割り引きも受けられるし有難いんだが、こういう地方の小さな街のギルドだといちいち大騒ぎになるのは正直疲れる。かといって、身分偽装はバレたら大罪だからな。
その程度のことで冒険者としての身分をはく奪されるのは割に合わないから多少の不便は我慢するしかない。
別に頂点を目指していたわけじゃない。食べていければそれでいいと今でも思っているんだが、旅を続けているうちに、いつの間にか実績が積みあがってこんなことに……。
「も、申し訳ございませんでした。白銀級の方にお会いするのが初めてだったものですから……」
「気にするな、それより依頼を調べてくれないか?」
「は、はいっ、で、ですが、白銀級の冒険者様に見合うような依頼はそうそうないかと……」
申し訳なさそうな表情を浮かべる受付嬢。まあそうだろうな。大きな町でも白銀級限定の依頼なんてそうそうない。というか逆にあったらヤバい。
「ああ、そういうのは求めていないから大丈夫。移動するついでだから、護衛でも荷物運びでも何でも構わないんだ」
俺たち冒険者はいつ動けなくなるかわからないからな。休みたいときに休めるように動けるときにはなるべく仕事を受けるようにしている。
「白銀級の方が護衛や荷物運びですか……? わ、わかりました、少々お待ちください――――あ、丁度明後日ダフードへ出発予定の隊商の護衛にまだ空きがありますね……報酬は道中食事付きで、二万五千シリカです。準備金が前払いで五千シリカで残りはダフード到着後となりますがいかがでしょう?」
ふむ……二万五千か。護衛の依頼としてはやや安いが、食事付きなら悪くないか。わざわざ食事付きにするところに依頼人のこだわりを感じる。
「じゃあ、それでお願いするよ」
「かしこまりました……それでは登録完了しましたので、明後日の夜明けにギルドまでお越しください。これが前金の五千シリカになります。他にご質問やご用件はございますか?」
「ああ、この街は初めて来たんだが、美味い店を案内をしてもらいたいんだ」
「かしこまりました。すぐに詳しいものに案内させますので、あちらのテーブルでお待ちください。あ、ご存じかとは思いますが、ファーガソン様はギルドでの飲食は無料ですので遠慮なくご利用くださいね」
ギルドの奥へと消えてゆく受付のお姉さん。
当たり前だが、ギルドの職員に案内を頼めるのは白銀級のVIP待遇のおかげだ。ギルド内スペースの飲食無料もその一つ。もっとも、ギルドに併設している料理や飲み物は大抵外れが多いので、そこまで利用することはないんだが……果たしてここはどうかな。
「シトラ水を頼む。出来れば果実アリで」
「すいません旦那、シトラ水は果実ナシでしたら」
「ああ、構わない。それで頼む」
どの街でもシトラ水は外れが無い。水の質でかなり左右されるから、シトラ水を飲めば、その街の料理が期待できるか大体見当がつく。
「シトラ水お待たせしました」
うむ……普通だな。これ以上ないほど普通だ。一気に流し込むと乾いた喉に爽やかな酸味と柑橘系の香りが広がる。
シトラ水を飲むと胃がすっきりとして食欲増進効果があるんだよな。ああ……腹が減ってきた。
「お待たせいたしました、ファーガソン様」
適当に串焼きでもオーダーしようかとメニューを眺めていたら、準備が出来たようだ。
「えっと……もしかして、キミが案内をしてくれるのかな?」
先ほどまで受付で対応してくれていたお姉さんが、私服に着替えて立っている。ギルドの制服もセンスが良くて個人的には好きなんだが、華やかで品のある私服もなかなか……。
「はい、こう見えて私、このギルドで一番この街のグルメには詳しいんですよ」
そう言ってお姉さんは意味深なウインクをした。