第八十九話 始まり
「…………何を……言ってるの……?」
ネリダと同じように横顔を照らされたリィザが、困惑の表情を浮かべる。
外からは、同じく異変に気付いた兵団員や住民たちの騒ぎの声が聞こえてきていた。
「覚醒した『勇者』が『八つの魔獣』を倒し『魔王』の復活を阻止する――長い間、繰り返されてきた王国の歴史。……不思議に思ったことはない? 『魔王』って何なのかしら? どうして、そんなことを繰り返しているの? 魔獣が現れるから勇者が覚醒するのか、勇者が覚醒するから魔獣が現れるのか――そもそも、『勇者』も『魔獣』も『魔王』もいない間にも、なぜ、魔物だけは常に存在するのだと思う?」
「……さっきから、何を言って……! 魔王……って……。だって……あたしたちは、まだ魔獣を四体しか倒してない。……だから……? ……ちがう……決して時間はかかってない。今までの例を見たって、こんなことは……!」
「過去なんて、関係ないの。これまでとは違うんだもの。……きっと、今頃あっちでも、さぞ戸惑っているんでしょうね」
目を細め、リィザから南の空へと視線を移したネリダが微笑った。
「どういうこと!? 一体、何を隠してるのっ!? あれに関係してるの!? 答えてッ!!」
「さあ……どうかしら?」
「ふざけ…ッ…!」
「でも……これだけは言える。私はあなたたちの味方。あなたたちの力になって、魔王を倒す。約束するわ」
「……それを信用しろって言うの……!?」
「ええ」
しばらく無言で向き合った後、リィザが鋭い視線を外す。
同時に、リィザを包み始めていた覚醒者の光も、徐々に消えていった。
「ふふ……。本当に、エミリアにそっくりね。怒りっぽいんだから」
「……別に信用したわけじゃない。でも……どういう訳か、嘘じゃない気はする……」
「ええ。あなたには分かる。――それがベオトーブの血だもの」
視線を戻したリィザが不機嫌そうにネリダを睨み、小さくため息をついた。
「また、そうやって……。どうせ聞いても、はぐらかすんでしょ? もういいわ。……だけどもし……あたしの思い違いで、あなたがあたしを騙していたなら……その時は容赦しない」
「ええ。その時は、いつでも、どこからでも刺せばいいわ。もちろん、そんな日は来ないし、もし来ても、簡単に刺されてはあげないけれど」
「……今すぐ殺したい気分よ」
「ふふっ、酷いわ。……きっと私は役に立つわ。だって、私は…」
ネリダが微笑みながらそう言いかけたところで、マヘリアの部屋から突然、大きな音が響いた。
家具が倒れ、壊れるような、まるで室内で格闘しているかのような音である。
はっとしてリィザが見ると、すごい勢いで扉を開けたマヘリアが飛び出してきた。
「……あっ! リィリィ! あ…あれ、見た!? 私も、さっきまで窓から見てたんだけど……痛たた……」
駆け寄りながら、脇腹やら、膝やらをさすっている。
「ぶつけたの?」
「あ、うん。ちょっと慌ててぶつけちゃって」
「壊したの?」
「え…っ? ……ぶ…ぶつけた拍子に、ちょっと倒しちゃったけど、壊れてはないんじゃないかな」
「倒しただけ?」
「う…うん」
「ホントに?」
「ちょっと……乗っかっちゃって……もしかしたら、椅子……とか、テーブルとか、ちょっとだけいろいろ外れちゃったり……お…折れちゃったりしてるかも……しれないけど……」
「……プ…ッ」
耳を倒して落ち着かない様子のマヘリアに、堪え切れずリィザが噴き出す。
「後で弁償しようね。それより……」
「リィリィ?」
歩み寄ったリィザが、ゆっくりと腕を回しマヘリアを抱き締めた。
「……おかえり、マー」
「え? あ…うん、ただいま。……え?」
「いいの。こっちの話」
「ふふ。私に対しても、せめてその半分の優しさでも分けて頂きたいですわ」
口調を戻したネリダをひと睨みしたリィザが、再びマヘリアの胸元に顔をうずめていると、
「ここにいたのか! おい、見たか、アレ! ありゃ、一体……って、何で抱き合ってんだ?」
食事中だったのか、食べかけの骨付き肉を片手にクロヴィスが駆け込んできた。すこし後から、ランスも息を切らした様子で到着する。
「私も、外のあれにびっくりして出てきたんだけど――そしたらリィリィとネリダさんがいて。なんだかよくわからないけど、こんな感じに」
「なんだそりゃ」
「クロには、わからないだろうね」
「ああっ? なんだよっ」
「別にぃ?」
マヘリアの変化に気付かないクロヴィスに、リィザが勝利の悪い笑みを浮かべていると、リィザと抱き合ったままのマヘリアが、きょろきょろとあたりを見回しながら続ける。
「あれ? カティアは? クロ、知らない?」
「いや、オレは見てねぇ。部屋じゃねぇのか?」
「部屋にいたら、さっきの音でびっくりして出てきそうだけど」
「もぉぉ、リィリィ~……っ」
「音って、何の話だ?」
「別にぃ?」
「お前…っ」
「あ……たぶん、あれだな」
ご機嫌な様子で抱きついたままのリィザに、クロヴィスが食ってかかろうとするのをマヘリアがたしなめる中、息を整えていたランスが何か思い至った様子で声を上げた。
「新しい本を見つけてたからな。夢中になってて、気付かないのかもしれない」
リィザとマヘリアが「あー」と同時に納得の声をあげると、ひとりピンとこない様子のクロヴィスが、「ちょっと、呼んでくる」と部屋に向かったランスを見送る。
「本……って。さっきの、あの光だぞ? 気付かねぇ、なんてことあんのか?」
「クロには、わからないだろうね」
「お前、ホント何なんだよっ」
「さぁ? 何かしら」
「まぁ。エリザベッタ様ったら。ふふふっ」
「今のネリダさん? 似てるー」
最後にはネリダの真似までしてみせたリィザに、ますますいきり立つクロヴィスだったが、その時、屋外からケンケンが駆ける足音が近づいてきた。
「魔王誕生」なんて聞いたのに、のんびりしてる場合かっ(´゜∞゜` )うぉぅ
って、話なんですけど、リィザにとってはマヘリア第一なので…w(´=∞=` )
魔王の件についても、話すべきか迷ってる段階なので、あんな感じになっております ”(´・∞・` )まず抱え込むタイプなんですねぇ
そして、何だか佳境感が Σ(´・∞・` )
何気に本作、キリのいい話数が節目になっていたりします(´・∞・` )なんかスゴイ
いえ……すべて狙い通りです(`・∞・´ )うそです




