七人目
「誰かを想った純粋な願いも、時を経るごとに、別の誰かにとっての呪いへと変わってしまうもの。でも同時に、時を経たことでそれが再び誰かを……延いては自分自身をも救うものに変わるなんて――不思議なものですね」
レイの去った後、どこに隠れていたのか、ネリダが姿を現して言った。
「なにそれ。……出てこないで、そのまま帰ればよかったのに」
「まぁ……酷いですわ。そのようなことを仰っ…」
「あなたも、普段通り話してくれて構わない。むしろ、そうして。信用してもらいたいならね」
「ふふ……どちらも私ですのに」
「隠し事をしてる人は信用できないの」
リィザの鋭い視線に、下唇をなぞるようにして口元に手を添えたネリダが微笑う。
「エリザベッタ様の周りは、皆さん、素直な方たちばかりですものね。でも……隠し事をしているからといって、それが悪意を基にしているとは限りませんわ」
「わかってるつもりよ。でも、あなたは得体が知れない。その得体の知れない相手に、『信用できるようになるために、せめてこっちの都合に合わせてくれ』って言ってるつもりなんだけど」
「それは失礼致しました。御尤も、ですわ。……ふふ、そんなに嫌がらなくてもいいのに。酷いわ」
自身の体を抱くようにしてフリフリと体を左右に揺らしながら、すねた様な仕草を見せるネリダであったが、その表情は楽し気で――リィザは諦めたように大きなため息をついた。
「はぁ……。そもそも、何しについてきたの? あなたの部屋は、こっちじゃないでしょ」
「ふふ、つれないのね。――そろそろ始まるから、よ。どのみち集まることになる。まとまっていたほうがいいわ」
「また訳のわからないことを……」
「すぐに分るわ」
姿を現して以来、微笑みの表情を崩さないネリダと、呆れた表情ながら探るような視線を向けるリィザ。
しばらく無言で視線を合わせていた二人だったが、リィザが、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、父様と母様のこと……知ってる口ぶりだったけど。どういう知り合いなの?」
「私も、一緒に旅をしたのよ? 短い間だったけれど」
「あたしたちの時みたいに、討伐依頼でもしたってわけ?」
「いいえ。魔獣も一緒に倒したわ。シャクドーでも戦ったのよ?」
「シャクドー……って。あり得ない……」
十六年前の「シャクドーの戦い」における「隻眼」の勇者一行は、記録上、エミリア、サイラス、シルグレ、ベッカ、の四人ということになっている。
「あの時は、アリシアもメリッサも抜けてしまったから、私が手伝うことになったの。本当は、最後まで見ているだけのつもりだったのよ?」
アリシアは、マヘリアを授かってしばらく後、すでに離脱していた。
そして、メリッサもまた、当時「シャクドーの戦い」を前に離脱している。
「離脱していたメリッサおば様が、その時のことを知らなかった可能性はあるけど……チェスナット先生からも、そんな話は聞いたことがない。……違う。メリッサおば様だって”梟”からの情報で知ることはできたはず」
「内緒にしてもらったもの。口が堅いわ、あの子たち。もっとも……『私』のことに気付いたのはエミリアぐらいなものだったから、他の子たちは、『精霊教会からの応援人員』程度の認識だったんじゃないかしら」
「……たしかに、王国が選定したメンバー以外は非正規人員扱いだけど……。シルグレのおじ様の例だってある。シャクドーで戦った功績があれば…」
「だから言ったでしょう? 内緒にしてもらったの」
「なぜ? 後ろ暗いことでもあるの?」
「恥ずかしがり屋なの」
「……真面目に答…」
「ふふふ。本当に冗談の通じない子。……存在を知られると面倒な相手がいるの。たくさんの人にも迷惑をかけるわ」
「………………」
相手に察しがついたのか、リィザが考え込むような仕草をみせた時、突如、暗くなり始めていた窓の外に、視界を奪うほどの白い閃光が走った。
「うっ…………今のは……!?」
廊下を走りバルコニーに出ると、はるか南東の方角に光の柱が立っているのが見える。
「あれは……何……? 教会都市……いえ……もっと南……?」
「始まったわ」
歩きながらゆっくりと後に続いたネリダが、バルコニーのリィザの横に立つ。
「あれは何…‥!? 何を知ってるの!?」
閃光は収まったものの、光の柱からはいまだ強い光が放たれている。
しばらく、光の柱を眺めた後、となりに立つリィザへと向き直ったネリダが、光に横顔を照らして微笑った。
「魔王が誕生したのよ」
実は「ベッカの場合」14章5節にて、「サイラスたち三人を見送って」とあるんです \(´・∞・` )
お話のメインである、シルグレとベッカ。
その他、サイラスやエミリアにはセリフがあったんですが(「…行こう?サイラス――」の部分がエミリアです)、残りのセリフのない1人がネリダだったんですー ”(´・∞・` )当時はイゾルテと名乗ってました




