第八十三話 花霞【紅】
「ぐああぁぁぁぁ……っ!!」
「シルグレ!!」
炎に包まれたシルグレが、膝をつき、苦しそうに声を上げた。
「ひぃゃあっはっはっはっは!!! ザマぁねぇな、バケモンがぁっ!」
「派手な商人」は、シルグレを指さして腹を抱えて笑ってる。
くそっ……あいつ……!
「全獣の丸焼き肉も、案外金になるかもなぁっ! こんがりおいしく焼けてくれよぉ? くくっ……ぁははははっ!!」
……でも……今なら、きっと油断してる。
オレが…………オレが、やらなきゃ……!
「ぐああぁぁぁぁ…………ッハッハッハッ!!」
「……あ?」
「え? ……あっ」
「派手な商人」を睨みつけて、そっとナイフを抜いたオレの視界の外から、突然シルグレの笑い声がした。
指さしたままの姿で口を開けて固まった「派手な商人」の視線に合わせて、シルグレを見る。
シルグレは相変わらず炎に包まれていて……でも、さっきと何かが違う……。
「この程度で、オレを仕留めたつもりか? お前、ホントに”おちゃめ”なやつだな」
また、「おちゃめ」って言ってる。
あれも気に入ってるのかな……?
……そうじゃなくて。
なんだろう……何が違っ…………!?
「オォォォッ!!」
シルグレが片膝をついたまま、下から斬るようにして斜めに大剣を振り上げると、身体を包んでいた炎が一瞬でかき消えた。
まだ、ゆらゆら残る小さな炎が大剣を照らして、刀身を染めてる。
花が舞っているみたいで綺麗だ。
あれ?
「あ……錆がなくなってる……」
錆だらけだった大剣は、鏡みたいに傷ひとつない綺麗な刀身に変わっていて、シルグレの立派な尻尾を映してる。
「えッ!? なんか、反応地味だな!」
シルグレが、さっきの体勢のまま、オレに向き直って吠えた。
「えっ? あ、ごめんっ」
「もっと驚くだろ、フツー! 『んなっ!? 何だ、あれは!?』とか、『どうなってるの!?』とか、『一体、何者なんだぁ!』とかぁ!」
「な……何なんだ、ありゃぁ……。何がどうなってやがる…………あいつ……何者だ……!」
「あ! ほら! ああいう反応だよ! あれが正解だろ!」
動揺した様子の「派手な商人」を後ろ手に指さして、シルグレが吠え続ける。
「ごめんってば。その……なんだか、ちょっと見とれちゃってて……」
オレの言葉に、急に静かになったシルグレが、「派手な商人」に向き直って大剣を構えた。
横顔は、すこし微笑ってるように見える。
「ふふんっ……それも、悪くはないな。いい答えだ」
それにしても……。
シルグレの構える大剣は、さっきまでとは、まるで別の剣みたいだ。
あんなに大きくなければ、「勇者様が持つ剣だ」って言われても納得しちゃうかも。
「……それ、もしかして魔法を吸収したの?」
「ん? ちがうぞ? なんだそれ」
え?
「え……だって、さっきまであんなに錆だらけだったのに、魔法を受けた途端キレイになったんだよ?」
「ああ……ふっ、魔法は関係ない。こいつはな……使い手の『正義の心』が昂った時に真の姿を現すのさっ!」
「え? ……うーん……と、よくわかんないけど……すごい」
「……え? そんな反応!? 『何それ! 激熱ぅ!』とか、そういうのじゃないのか!?」
激熱?
「え…っと……そういえば、その剣って名前とかあるの?」
「急だな。名前……考えたことない……が……名前か。……いいな! なにがいいと思うっ?」
「えっ、オレ?」
「ああ! さっきも、いい案、出してくれたしな!」
えぇ……。急に言われてもなぁ。
でも、ごまかすためとはいえ、話振ったのオレだし……。
「じゃあ……。……さっき、刀身に炎のかけらが反射してすごく綺麗で……。まるで、剣の中で花が舞ってるみたいだったんだ。……だから……『花霞』……なんて、どう……かな……?」
「て……」
「……?」
「……ててて天才だ…ッ!!」
「えっ!? ……そ…そうかな……?」
「お、おい……! 聞いたか、今の!? ここに天才がいるぞ…ッ!! ……こ…これが天才の力…………圧倒的だ…………」
「なんかヤダ」
「派手な商人」のほうにまで呼びかけたり、オレを呆然と眺めたり、忙しく動いた後、刀身をくるくる返しながら目を細めてる。
「……『花霞【紅】』……! ……良い……!』
なんか足されてるけど、もういいや。気に入ったみたいだし。
「すっかり余裕かましやがって……! ……はんっ! だが、おかげで詠唱の時間は、たっぷりもらった! 今度こそ死ねぇぇっ!」
あ! なんでだろう、忘れてた……!!
「商人」がそれぞれ突き出した杖の先に、魔法陣が浮かび上がった。
さっきのよりも大きい。
「懲りない奴らだな……何度やっても同じだ。……吠えろ! 『花が……違うか。……うーん」
大剣を構えて駆けだそうとしてたシルグレが、急に足を止めた。
首をひねって、何か考え事してるみたいだけど――
「シ……シルグレ! あぶないっ! 魔法、魔法……!」
「……は…っ! これだ……!」
一瞬、口を開けて空を見上げたシルグレが、目をつむって静かに構え直す。
さっきより大きな炎の渦が、シルグレを飲み込もうとした瞬間――
「……舞え。……『花霞』……」
え……? なんかシルグレ、声かっこよくなってない……?
大剣を高く、切っ先を下に構えたシルグレが、くるりと回る。
大きな音を立ててぶつかった炎の渦の先端が、花びらが散るみたいに舞って消えて――
その流れのまま、シルグレは、大剣を振りながら進み始めた。
一振り、一振り、振るごとに――だんだん速く、鋭く。
でも……力強いだけじゃない、流れるような動き。
やっぱり、シルグレが戦う姿は綺麗だ。
「うわ…っ!」
「……ひっ!」
振った刀身が、また見えなくなるほど速くなった頃には、シルグレは一気に距離を詰めていた。
横に大きく振りかぶったシルグレの前には、杖を持った「商人」が二人。
「疾ッ!」
シルグレが鋭い声といっしょに大剣を振り抜くと、二人の身体はポッキリ折れたみたいに二つに離れて、地面に落ちた。
「おばけ」でも見たみたいな顔で、シルグレを見上げた顔のまま。
「血の雨が降る」なんて言うけど、そういうのはなくて。
ただ、水の入ったバケツを倒した時みたいに、倒れた身体の断面から、血がこぼれ出てる――そんな感じ。
「……か…っ…! …………ひ…っ!」
腰を抜かした「派手な商人」が、転がってる「商人」とシルグレとに、視線を行ったり来たりさせてる。
脚を動かしてるけど、力が入ってないのか、ただ何度も地面を滑らせてるだけだ。
「ま…待て…ッ! ……まま待てって……! はなっ、話を……話を聞いてくれ……ッ!!」
転がった二人と同じ顔でシルグレを見上げる「派手な商人」が、腕を大きく振り回しながら大声を上げてる。
「レーーイっ! こいつ、話があるらしいが、どうする?」
シルグレが、オレのほうを振り返って声を上げた。
「……話……?」
レイ自身は中二病じゃないんですけど、中二的ネーミングセンスがあったようです ”(´・∞・`*)
シルグレの大剣は両刃設定だったんですけど、便宜上、何度も「刀身」記述したこともあって、「片刃で想像してる方が多いかも(´・∞・` )」ということで、名前を「和」にしてみました ”(´・∞・` )




