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サザンクロスの花をキミに  作者: 黒舌チャウ
御守り

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第八十一話  シルグレ

「うわっ……!?」



 突然、目の前の視界が開けたと思ったら、瓦礫につまづいて身体が浮いた。



「おお……っと!」



 背中のほうから声がして、そうかと思えば、オレの身体は宙に浮かんだままになっていた。



「なんだ……こども……? 村の子か?」



 若い男の人みたいな声。


 誰だろう。


 聞いたことのない声だけど……でも、無事な人がいた。

 この人に頼んで、家までいっしょに行ってもら…………。


 え……さっきオレ、魔物を殺そうと飛びかかって…………周りに人なんか、だれも……。


 

「おい、坊主。いきなり危ないだろ」



 宙に浮いた身体が、くるりと右に回る。



「オレは今、鼻が利かないんだ。あやうく斬り…」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

「なっ、何だあぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」



 目の前には大きな狼がいた。


 でっかいくちを開けて、大きな声で叫んでる。


 オレも狼に背中をつままれて、宙ぶらりんのまま叫んでいた。



「う……っ、わぁぁぁっ!! はな…っ、離せ……! くそぉ…っ!!」


「何なんだ、急に……! 危ないだろ!? そんな(もん)、振り回すんじゃない!」



 ナイフを振り回す手首を掴まれて、その拍子に、狼の顔が近づいた。


 

 ……畜生……()られる……。



「ふう……。まったく……すこしは落ち着け」



 くそ……! ()られてたまるか!



「あっ! こら! 暴れるなって! 何なんだ、まったく!」


「よくも……! よくも、兄ちゃんを! ……お前だけでも!!」


「あぁっ? 何だ、そういうことか……! ……おい! オレは魔物じゃない! よく見ろ!」


「………………」


「……どうだ。ようやく分かっ…」

「だまされるか! どっからどう見ても魔物じゃないか!!」


「あば…っ、暴れるなって! お前、失礼だぞ! オレは魔物じゃない! 獣人だ!」


「……獣人……?」


「……ああ。オレは、戦士シル…」

「うそだ! 獣人は人の姿をしてるんだ! お前みたいのとは違う!」


「だから暴れるなって! ホントに失礼な奴だな! 獣人でも、オレは『全獣』だ! こういうもんなんだ! 大体、魔物がしゃべるもんかっ!」


「………………」



 ……あんまり詳しくはないけど、たしかに「しゃべる」魔物なんて聞いたことない。



「それに、オレが魔物なら、とっくにお前を殺してるぞ。違うか?」



 ……それは……そうだけど……。



「やれやれ……。旅の途中で、妙なニオイを嗅ぎつけてな。……来てみたら、これだ。せめて弔いだけでもしてやろうと思って、朝から亡骸を運んでたんだ。今も、この家の住人が他にいないか探してたんだが……」



 さっき見かけた、人の形をした黒い物に視線がいった。

 家の脇の地面に並べて置いてあるけど、乱暴な感じはしない。


 

「……ガスマンさん()は二人暮らしだから、もう他にはいないと思う……」


「そうか……助かる。すっかり焼け崩れてるから、探すのが大変だったんだ」


「魔物が……火をつけたの……?」


「それはないだろう。……大方、混乱の中で火が付いたか……ここ以外でも焼け落ちた家があったし、そこから飛び火でもしたんじゃないか?」


「……他に助かった人は……?」


「……いや、朝から村中(むらじゅう)見て回ってるが、生き残りに会ったのは坊主が初めてだ」



 ……じゃあ……母ちゃんと父ちゃんも……。



「……ひ…っ……う……うぅっ……」


「お……おい……。……まぁ……無理もないか‥…」



 宙ぶらりんのまま泣いてる間、大きな狼はオレを見ないようにしてくれたみたいだった。




「そろそろ……下ろすぞ? 暴れるなよ?」


「……うん」



 しばらく泣いて落ち着いた頃、オレはゆっくりと地面に下ろされた。


 

「坊主、名前は?」


「レイ……」


「レイか。オレは、戦士シルグレだ」



 改めて、大きな狼シルグレを見ると、ちゃんと服を着てる。

 服からは皮鎧のようなものが、のぞいていた。



「戦士?」


「ああ。勇敢なる森の狩人だ!」


「………………」



 ……うーん……。



「……やっぱり変か?」


「えっ?」


「いや、最初は『勇敢なる森の賢者』だったんだけどな? ほら、なんか知勇兼備って感じがするだろ? でも、オレ賢いわけじゃないからな。『賢者』はさすがに言い過ぎかぁって思って、かといって『勇者』はマズいし、だったらいっそ『戦士』でいいかと思ったんだけど、あんまりにもそのまんまだからさぁ。……まぁ、狼だし、『狩人』かぁ……で、落ち着いたんだが……やっぱり出てるのか? 妥協の響き」



シルグレは一気にまくし立てて、あんまり何言ってるかはわからなかった。



「よく……わからないけど……変、ではない……と思う」


「そうか? ……いや……実はオレ自身、密かに感じてはいたんだ……。何かが違う……ずっと感じてきた違和感に、気付かないフリをしてきた……。……だが、それでいいのか? 偽りの気持ちを体現した名乗りに、いったいどれほどの価値がある……」


 

 シルグレが、目をつむったり、拳を握りしめたり、両腕を広げながら斜め前に一歩踏み出したりしながら、ずっと何か言ってる。



「――そう思わないか?」



 両手を空に突き上げたシルグレが、振り返りながら言った。



 ……あ……もう途中から聞いてなかった……。



「え……と、じゃあ……ひとつ気になったところがあるんだけど……」


「おおっ、何でも言ってくれ」


「う、うん……『勇敢なる』のとこなんだけど……勇敢って、気持ちの問題って感じがするってゆーか……強いこととはすこし違う気がするんだ」


「ほぅ……ふむ?」


「だから、もっと『強さ』を強調した言葉にしてみたらどうかな?」


「なるほど……『最強の森のかりゅ……恥ずかしいな。『天下無そ……無いな。『究極・轟雷獣神』……これだ…ッ!」


「『森』とかは、入れなくていいの?」


「……いや、ダメだ! 『森』は絶対入れなきゃダメなんだ! ……『究極! 森の轟雷獣神』……どうだ…っ!?」


「……なんか……『森』だけ浮いてる感じがする。『森』をもっとカッコよくするのは? 『呪われし森』とか『罪深き陰森』とか」


「『森』はオレの故郷のことだからな。 普通の森だぞ?」



 急に落ち着いて言われても……。


 『罪深き陰森』とか言った自分が恥ずかしい……。



「じゃあ……『勇猛なる森の狩人』でいいんじゃないかな……。元のに近いし、強さも強調できるし」


「それだ!!」



 そうなの? 


 うーん……でも、もういいかな。気に入ったみたいだし。




 

「……しかし、どこに隠れてたんだ? まったく気が付かなかったぞ。他にも誰かいるのか?」



 オレは、昨日のことから、今日、目が覚めてからのことをシルグレに話した。



「……それだけしっかり寝れるのも驚きだが……。そうか……お前の兄ちゃん、最後までお前を守り抜いたんだな」


「うん……」


「仕留め切れなかったのは心残りだったろうが、その思いが命尽きてなお、魔物を離さなかったんだろう。……本物の戦士だ」



 腕を組んだシルグレが、目をつむってしきりに頷いている。


 でも――



「兄ちゃんは、ちゃんと魔物を倒したよっ。舌出して倒れて死んでたんだ」


「む? なんだ、レイ、お前知らなかったのか? 魔物は死んだら、身体が崩れて無くなるんだぞ?」


「え…っ?」


「……まったく。その魔物もよほど瀕死だったんだろうが、危ないところだったぞ」



 まだ、生きてた?


 ……もし、あの時、魔物に元気が残ってたら……。



「いや……それもきっと、お前の兄ちゃんの思いが為した業だろう。……いい兄ちゃんだな」


「……うん」



 兄ちゃん……。



「丁重に弔ってやろう。案内してくれ」


「あ……うん……! こっち」



 シルグレの前を歩いて櫓まで案内しようとしたら、突然シルグレが足を止めた。



「……シルグレ?」



 顎をすこしだけ上げて、遠くを見てる。

 耳を動かしたかと思うと、シルグレの雰囲気が急に鋭くなった気がした。



「ふんっ……なるほどな。そういうことか」



 シルグレが、焼け跡の瓦礫の中に戻っていく。



「ど……どうしたの?」


「レイ、オレから離れるな。……ひと悶着、始まるぞ」

 



26話「戦友」にて、レイがすこしだけ触れていた「ちょっとした笑い話」がこれです! \(´・∞・` )わー


「後の、勇者一行の戦士シルグレを魔物と間違えて殺そうとした」という、レイにとってはテッパンネタでもあり、この後のお話も含めて大切な思い出だったりします ”(´・∞・` )やっと書けましたー

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