第七十九話 人族の村 ―後編―
「うーん……」
「ねぇ、いいだろ? 兄ちゃん。……ねぇってば!」
それからしばらくした、ある日。
オレは兄ちゃんに食い下がっていた。
「……でも、なぁ」
「オレ、ちゃんとできるよ! やってみたいんだ!」
「いや、まぁ……出来るか出来ないかは別として……うーん」
今日は、兄ちゃんが「見張り」の日。
子供たちの見張り櫓にも「夜番」があって、大きい子供たちが担当していた。
オレは、それについていきたいと交渉中だ。
「途中で寝ちゃうのはいいが、この時期、夜は冷えるからなぁ。風邪でもひいたらいけないし……」
「なんで、寝るのが決まってるんだよ! できるってば!」
「いや、寝るだろぉ。夜番は、いつもレイがとっくに寝てる時間だぞ?」
「だいじょうぶだってば! ねぇぇぇっ!」
「あっはははっ! わかった、わかった。じゃあ、母さんに言って、温かいスープを用意してもらおう」
「やった!」
父ちゃんも、なんだかうれしそうに笑ってる。
母ちゃんは、「温かくしていかなきゃ」ってローブの下にたくさん着せて、「首から冷たい空気が入らないように」って首にもぐるぐる巻かれた。
なんか、かっこわるい。
顔で「こんなの嫌だ」って言ってみたけど、無駄だった。
「……ぷっ。そんな顔するなよ、レイ」
「だってさ……。こんなの、かっこわるいよ。兄ちゃんは身軽そうにしてるのに……」
家を出て見張り櫓に向かう間も、オレは不満だった。
オレだけモコモコしてて、なんだかすごくかっこわるい。
「薄着で寝ると風邪ひくからな。それぐらいが丁度いいのさ」
「だから、なんで寝るって決まってるんだよ! ぜったい寝ない!」
「あっはははっ! わかったよ。でも、きっと母さんに感謝するぞ?」
たしかに全然寒くはないけど、ここまで着込む必要はないと思う。
大げさだよ。
「おつかれ、交代だ」
「待ってましたっ。……と、あれ? 今日はレイが一緒なんだな」
見張り櫓に上がると、今日が「夕番」のライルがいた。
ライルは兄ちゃんと幼馴染で、オレも昔はよく遊んでもらってた。
せっかくライルにも、オレが「夜番」につく姿を見せられるってのに……こんなモコモコの、かっこわるいところを見られるなんて……。
「おっ、防寒は完璧だな」
「ああ。母さんが念入りに、な」
「だな。今日はまた冷えそうだ。寝たら風邪ひいちまう」
「寝ないってば! なんだよ、ライルまでっ」
一瞬驚いたような顔のライルが、兄ちゃんと顔を見合わせた後で笑った。
なんだよ、みんなして。ぜったい寝ないからな。
「じゃあな。がんばれよ、レイ」
オレの背中をポンと叩いてから、ライルは櫓のはしごを降りていった。
「ふふふっ……そんな顔するなよ、レイ」
「……だってさ」
「ほら、見てみろ。……あそこ、ぼんやり明るいだろ?」
「え? ……あ、ホントだ」
冬が近づいたこの時期の夜は早い。
空はもうすっかり暗くて、村でもかがり火が焚かれ始めていた。
兄ちゃんが指差す方向には、真っ黒な闇の中で黄色いような赤いような、ぼんやりとした明かりが見える。
新年の祭りで、朝日が昇るのを待った時に見たような、そんな明かり。
「あれは、コーロゼンの町の灯りだ。あそこは西部地域にある兵団支部の中でも大きいからな。夜は、ここからでも見えるんだ」
「へぇ…っ!」
「でも、夏は見えないぞ。夜、冷え込む時期じゃないと見えないんだ」
「冬はもっとよく見える?」
「ああ。もうすこし、はっきり大きく見えるな」
「見てみたい!」
「冬はもっと寒いぞぉ? 大丈夫かぁ?」
「へーきだよ! 今だって、全然寒くないし!」
櫓の見張り台を抜ける風はすこしだけ強くて、下にいる時よりも冷たく感じた。
鼻の先が冷たくなってるけど、それ以外は暖かい。
「あ……」
短くはなをすすった後で声を漏らしたオレを見ながら、兄ちゃんが微笑った。
「母さんに感謝、だろ?」
「……うん」
「ははっ。じゃあ、冬になったらまた『夜番』手伝ってくれるか? 見張りはひとりじゃ退屈だからな」
「うん! わかった!」
その後も、兄ちゃんからいろんな話を聞いた。
星の話。ここからずっと南にあるっていう西部地域の中心都市、産業都市の話。北の櫓の「夜番」リヤールさんのくしゃみが、すごくうるさいって話。
下で門番してる人が「うるせー! 何回目だ!」って怒鳴って、よくケンカしてるんだって。
兄ちゃんは何でも知ってて、どの話も面白くて。
明日帰ったら、母ちゃんにも夜番の話を聞かせてあげよう。
そうだ、アントンにも自慢するんだ。他のみんなも驚くだろうな。
兄ちゃんに「交代で座ろう」って言われたから、オレが先に休むことになった。
見張り台は桝状になってるから、座っただけでも風があたらなくて、たったそれだけなのになんだか暖かく感じて――
「……ん…………あ…あれ…っ!?」
気が付くと明るくなっていた。
「……また寝ちゃった」
ぜったい起きてるつもりだったのに……。
兄ちゃんもひどいよ。起こしてくれればよかったろ。
太陽だってもう、あんなに高く上がっちゃって。
「…………あれ?」
何で「朝番」の人が来てないんだろ?
起きたばっかりで、頭がはっきりしない。
座ったまま見張り台を見回したけど、兄ちゃんもいなかった。
それに。
静かだった。すごく。
ダクファンの香りがしてきました ”(´・∞・` )次話にて、いよいよあの人がちょっと出てきますよぅ
「シブオジ1人称」書きやすいなぁと思ってたんですけど、意外と「少年1人称」も書いてて楽しいことに気付いたこの頃です ”(´・∞・` )わーお
「青年1人称」はちょっと苦手かも…(´・∞・`;)
なんか欲が出るというか…どうしてもコメディ要素を入れたくなるというか(´・∞・` )なぜかw




