第七十六話 そっくりね
「ここは良いところですね、エリザベッタ様」
「……………」
美しい髪を風になびかせ目を細めながら言うネリダに、リィザが答えることなくただじっと視線を向けると、視線だけリィザに合わせたネリダがうすく微笑う。
リィザたち一行が寝泊まりしている兵団施設。
その屋上に見張り台として立っている塔に、リィザとネリダの姿があった。
塔から見下ろした街では、店をたたむ商人や家路につく住民たち等、一日を終えた人々の忙しなくもゆったりとした日常の風景が見て取れる。
「お話……とは、なんでしょう」
「ここに至っても、まだとぼける気なの?」
「ふふふっ……好きなんです。こういうの」
わずかに体を横に傾けて微笑むネリダに、ため息をついたリィザが続ける。
「何それ。……まぁ、いいわ。それで? あなた、何なの?」
「私は、ネリダ・アクウェロですわ。エリザベッタさ……ふふっ、冗談の通じない子」
胸の前で手を重ね、にっこりとして言うネリダの言葉が終わるより前に、無言の剣幕を見せたリィザの身体が「覚醒者」の光りに包まれた。
「初めて会った時から人とは思えなかった。かと思ったら"あんな姿"で現れて……。そして今度はテオの代わり? ……前は無害だと思ったから見逃したけど、今はマーのことだってある。妙なことをするつもりで来たなら容赦はしない」
「ふふふ……そういうところも、エミリアにそっくりね」
「母様……? 何を……」
「あの子も『私』のことにすぐ気付いたわ。……『ベオトーブ』がそういうものだから、というのもあるけれど……あの子の場合は、サイラスへの執着がそうさせていたのかもしれないわね」
「……いつまで余計な事を、しゃべ…」
「安心して。私は、あなたたちの力になるわ。嘘もつかない。本当よ?」
「……なら、答えて。あなたは何なの?」
「さあ……何かしら? ……もぅ……ふふふっ……そんなに怒らないで?」
剣の柄に手を伸ばしこそしていないものの、殺気に数本浮き上がったリィザの髪が夕日に照らされ煌めいて見えた。
「怒らせてるのは、そっちでしょ」
「静かな怒り。そういうところは、サイラスに似たのかしら」
「……知ったようなことを、いつまでも……ッ!」
大きく歯を軋ませたリィザが剣の柄に手をかけると、いつの間にか距離を詰めたネリダが、柄頭を押さえると同時に反対の手をリィザの頬に添えた。
見上げるかたちのリィザの顔に、ネリダの絹糸のような髪がふわりとかかる。
「知っているわ。エミリアのことも、サイラスのことも」
目を細めリィザを見つめるネリダから発せられる声は、甘く優しいながらも、身体を縛るかのような重い響きを伴っていた。
「……何なの……あんた……」
「さあ? 何かしら。私が"何"か……は、誰から見るか、によるもの」
ネリダが、ゆっくりと舞うように回りながら、リィザから体を離す。
美しい髪を風になびかせた後、下唇をなぞるようにして手を添え、微笑った。
「私は、イゾルテ。私は、オハナサン。そして……今はただの神官、ネリダ・アクウェロですわ。エリザベッタ様」
リィザとネリダのいる塔の階下。
兵団施設の一室では、マヘリアが一人、ベッドに腰を掛けて座っていた。
「リィリィ、どこ行っちゃったんだろ……」
コーロゼンの籠城戦の後、先の戦隊長ダレンの娘マヤは、コーロゼンの支部長夫妻の養女として引き取られていた。
生まれた時からマヤを知り、自身たちに子が無かったこともあって支部長夫妻の溺愛ぶりは相当なもので、マヤ自身も日に日に明るさを取り戻していたのだが――
マヘリアは、というと、相変わらず足しげく通って来ているマヤが帰ってしまった後は、リィザがいないと落ち着かないようになっていた。
「リィリィ……。……あれ?」
合わせた両手を押し抱くようにして体を丸めるマヘリアの耳が、部屋に近づく足音を捉えた。
「……誰……だろう?」
部屋の前まで来た足音の主が、軽く扉を叩く。
「あ……はい。どうぞ」
「すまねぇ。ちょっと邪魔するぜ?」
「あなたは、たしか……」
記 A・C D・L
ここで、ネリダの正体がはっきりしましたー \(´・∞・` )わー
「オハナサンはともかく、イゾルテぇ…?(´゜∞゜` )誰やねん!おおぅ!?」
と、思った方 (´・∞ ・` )零話へ飛ぶのです
このイゾルテ、オハナサン、ネリダ。
仕草の描写や特定のセリフなど、共通している部分があったんですけど気付かれたでしょうか ”(´・∞・` )
ちなみに、なんですけど、ネリダ・アクウェロの「アクウェロ」。
本作に登場するお花、「南十字星」のモデル「クロウェア」を並び替えたもので、大江戸線ばり地下伏線の代表格となっております ”(´・∞・`*)むふーん




