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サザンクロスの花をキミに  作者: 黒舌チャウ
テオ・ディグベル

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第七十五話  大型新人

「……ついでに、岩でも落としておこうかしら」



 崖の上に立ち、はるか下でバラバラになった荷車を眺めていたネリダが、左から右にと杖を振るう。


 崖の一部が大きく崩れ、荷車の残骸の上が岩山のようになったのを確認すると、絹糸のような髪をたなびかせ踵を返した。



 しばらく歩いた先には、荷車を引いていた二頭のケンケンと、倒れた御者の姿がある。



「あなたたちは、この人を連れてお帰りなさい?」



 二頭の頬から首にかけてを撫でると、一頭は心地よさそうに目を細めてネリダの手に頭を預け、もう一頭は仰向けに寝転がった。

 地面を擦りながらブンブンと尻尾を振っている。



「ふふっ。遊んであげたいのだけれど、もう行かなくてはいけないの」



 しばらく撫でてやった後で、「利発そうな」ほうのケンケンの背に御者を乗せると、

 


「お願いね」



 御者を背に乗せたケンケンの頭を撫で、甘えてくるもう一頭のケンケンをさらにしばらく撫でてやった後、家路につく二頭を見送る。



「……片方、借りればよかったわ。次の町まで、どれぐらいかしら……」



 二頭の姿が小さく見えるようになったころにはネリダの姿はすでになく、代わりに丸い体をプニプニと上下させた大きなプニニが、眉間のあたりに妙な角度で「しわ」を寄せていた。





 

「聞いたか? クロツのあたりで、荷車が消えたってよ」


「また盗賊か? ついこの間、大規模な掃討作戦があったばかりだろ?」


「それが妙な話でよ。御者の話じゃ、急に眠くなったと思ったら目が覚めた時には、自分家のケンケン小屋にいたんだと」


「はははっ、なんだぁ? 酔っぱらってただけじゃないのか?」


「いや、だから、引いてたはずの荷車が無くなってたんだってよ」


「ケンケン無しに、どうやって荷車を動かすんだよ」


「知らねぇよ。だから『消えた』って話なんじゃねぇか」



 コーロゼンの街中(まちなか)

 商人風の男たちが噂話に興じる横を、リィザたち一行が通り過ぎていった。



「大方、積み荷を無くした言い訳か何かじゃねぇか?」


「……急に何の話?」


「さっきのだよっ。『荷車が消えた』っていう」



 並んで歩きながらしばらくクロヴィスの顔を見上げていたリィザが、どうでもいいとばかりに無言で正面を向いた。



「あ……そういう態度かよ。マーを守り切った時は、ピーピー泣いてオレに抱き着いてきたくぜにぃぁァァァ!! ……アァァァァ」


「泣いてない」



 指先でつまむかたちではなく豪快にひと掴み尻尾の毛をむしり取られたクロヴィスが、時の流れを無視したゆっくりとした軌道でクルクルと、そしてなぜかキラキラと、回りながら倒れていった。




「そういえば、テオの後任の人っていうのは、いつ来るんだろうな」



 倒れ伏したクロヴィスを置き去りに街中(まちなか)を進む中、ランスが前を歩くリィザに声をかけた。



「わからない。テオは『じきに』とは言ってたけど、特に日付までは言ってなかったし。後々、精霊教会がうるさいから勝手に動くわけにもいかないし、ね」


「しばらくは、ただ待つしかないか」



 コーロゼンの防衛戦で魔獣「バーストゥオル」を討ち取った後、リィザたち一行は周辺の巡回任務に就いていた。


 本来であれば魔獣を倒すことで魔物の数は徐々に減るはずであったが、バーストゥオルの能力によって集まったそもそもの数が多く、又、戦隊長であるダレンを失ったコーロゼンの戦力不足を補う必要もあったのだ。



「……マヘリアは、まだ……駄目そうか……?」


「うん……」



 足を早め、リィザの隣に移ったランスが声を落として訊ねると、答えたリィザの顔に影が差す。


 マヘリアはコーロゼン防衛戦以来、一度も戦っておらず、毎日、ダレンの娘であるマヤと行動を共にしていた。



「……でも、いいの。マーは……ただ、いてくれるだけでいい」


「……そうか…………そうだな」



 気遣わしげにリィザを、そしてちらっと未だ倒れたままのクロヴィスを見た後で、ランスが小さく息を漏らしていた頃――




「…なかなかいい本、見つけちゃった」



 リィザたち一行が滞在している兵団施設の前では、巡回任務の非番だったカティアが分厚い書物を抱え歩いていた。



 連日の巡回のために交代で休むことにしたものだが、マヘリアのことが心配なため誰かひとりは付けておきたい、というリィザの思惑もあった。


 とはいえ、マヘリアも表面上はいつも通りでマヤと明るく過ごしていることもあって、カティアはせっかくの非番に趣味の読書に没頭しようと朝から書店を巡っていたのだった。 



「…『新説・魔法史学』……まさか、こんなところにあるなんて」



 押し抱き、紅潮させた顔を本に近づけ、タイトルとは裏腹に本に染みついた「歴史の香り」を堪能しながらかどを曲がると、突然、わずかな衝撃と共にカティアの顔がやわらかいものに包まれる。

  


「…むふっ。……ごめんなさい。……あ……」



 すぐに誰かとぶつかったのだと理解したカティアが、目の前の"大きく、やわらかいもの"から視線を上げると、



「いえ、こちらこそ。……あら? 確か……」



 以前、見知った顔がカティアを見下ろし、微笑った。




 


「ひでぇよ……こんなんじゃ、恥ずかしくて外歩けねぇぇっ」


「歩いてたでしょ」



 リィザとランス、そして意識を取り戻し追いついてきたクロヴィスが兵団施設へと帰ってきた。


 クロヴィスは、リィザの所業によって丸ハゲた部分を隠しながら尻尾を抱えている。




「あっ! リィリィ! みんな!」



 兵団施設内に入ると、長テーブルの席についていたマヘリアが大きく手を振った。

 マヘリアのとなりにはカティアがおり、二人の向かいには髪の長い女性が座っている。



「マー、ただいま」


「聞いてくれよ、マー。リィのやつがさぁぁ……っと、客か?」



 リィザたちが長テーブルに近づくと、髪の長い女性が立ち上がり振り向く。



「お久しぶりです。エリザベッタ様」


「……あなたは、たしか……」


「ネリダさんだよ、リィリィ。テオ君の代わりに来てくれたのっ」


「……あなたが、テオの?」


「はい、以後、わたくしがディグベルさんの後任として同行させて頂くことになりました。よろしくお願いいたします」



 耳をパタつかせ笑顔のマヘリアとは対照的に、真顔でまっすぐ見つめるリィザの視線に、ネリダは下唇をなぞるように手を添え微笑んだ。




「ネリダ……って、どっかで聞いたことあるような……」


「あれだ、クロヴィス。コンアイの温泉でリィザたちが会ったっていう」


「ああ……それか」



 リィザの表情を見つめながらクロヴィスがランスと話していると、



「…マヘリアのより、大きいでしょ」



 いつの間にか隣に来ていたカティアが、小さな声でクロヴィスに言った。



「だ…っ! だから、オレは……ッ!!」


「急にどうしたの? クロ」


「いや、違ぇっ……じゃなくて、こっちの話っ。なんでもねぇから!」

 


 ランスとカティアの悪い笑みにさらされ、丸ハゲた尻尾を隠すことも忘れて慌てふためくクロヴィスへと向きながら、



「……後で話したい。あたしたちだけで」


「ええ、もちろんです。エリザベッタ様」



 リィザは、ネリダだけに聞こえる声で話しかけていた。




 特、記 R・A   記 A・C



ネリダはオハナサンでしたー \(´・∞・` )


ネリダとオハナサン登場時には、ネリダ=オハナサンとは結びつかないようにはなっているんですけど、間にある人物を入れることで、ネリダ=「X」=オハナサンになるようにしてあるんです ”(´・∞・`*)


Xが誰か、に気付いている方がいたら…(´・∞・` )す…凄すぎる

うれしすぎるっ(´;∞;`*)


「そこまで言われたら、気になって毎日プリンしかのどを通らないじゃないかっ」

という方のために…(´・∞・` )

最初から読みかえして頂いちゃったりすると、わりとすぐ見つかる…かも(´・∞・`*)わふ

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