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サザンクロスの花をキミに  作者: 黒舌チャウ
テオ・ディグベル

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第七十一話  テオ・ディグベル ―前編―

「……はぁっ……はぁ…っ…………くそっ! 他の皆は…っ!?」


「わからない…っ。……こっちは、俺たちだけみたいだ……」


「一体なんだってんだ……! あいつら精霊教会の奴らだろ!? なんでバレたんだっ!」


「わかるわけないだろ……! ……う…っ……くそ……」


「……大丈夫か……!? 待ってろ、今……あぁ、くそっ! 携帯魔法陣が無い……!」




「皆さん……! 無事だったんですね!」


「リック! お前も無事だったのか! すまん、こいつを診てやってくれないか!?」


「その必要はありません」


「何言ってんだ、早く"癒し"の魔ほ…………リック……そいつら…………何で……」


「何で…って、これが僕の仕事だから、ですよ」



 そう言って俺は、この数か月寝食を共にしたかつての"同志"に、奴らの見慣れた「リック」の愛らしい笑顔を向けてやる。


 "同志たちの処理"を連れてきた特務隊に任せた俺は、最期の瞬間まで俺へと向けられた怒りと呪いの言葉を背に、その場を去った。




「ご苦労だった。リック」



 集合場所に着くと、今回の処理任務を指揮した特務隊の指揮官が無表情に言った。 



「嫌味のつもりか?」



 「リック」は俺の本当の名前ではない。

 今回の潜入任務用に用意した偽りの名前。


 本当の名前は、俺も知らない。


 どうでもいいことだ。



「ふっ。そう言うなディグベル。お前の手並みに対する賛辞のつもりだ」


「必要ない。……で?」


「反乱分子は残らず処理完了だ。全員揃い次第、ここも引き払う」


「なら、もういいか? 次の調査が控えているんでな」


「相変わらず忙しいな、お前は。かまわん、報告はこちらで済ませておく」

 

  

 指揮官の言葉に応えることなく歩き去った後、俺は次の町へと向かった。




 精霊教会の神官は王国全土に散らばっている。


 多くの神官は"癒し"の魔法を各地で使い、王国民のために働く布教の徒だ。


 だが、その中には、そうして住民たちの信頼を集め密かに情報収集を行う者たちがいる。

 大抵、各地の大・小領主、村・町の長などの醜聞を仕入れ、精霊教会の宮廷戦略に役立てられるものがほとんどだが、まれに精霊教会に反発する者たちの活動の情報が入ることもある。


 そういった情報が上がった時に、"詳しい"調査を行い、必要に応じて"処理"の段取りをするのが俺たちの仕事だ。



 今回も、東部のいくつかの小さな町で不穏な動きが見られる、との情報が上がり、調査を行った。


 調べてみると、かつて精霊教会の宮廷戦略によって没落した小領主の忘れ形見が、高位神官の地方巡行を狙い密かに仲間を集めていた。


 俺は、「かつて精霊教会内での派閥争いに巻き込まれた父親を殺され、自身も父親のことで疎まれ地方に飛ばされた神官、リック」として奴らに近づき、企てに賛同する者たちが揃うまでの数か月間、奴らのもとで過ごしたのだが――



「さすがに異種族共との共同生活は堪える。……後で、特別手当を請求するか」



 今回の襲撃計画には獣人や魔族も加わっていた。


 もともと精霊教会に対して反発心を抱く者が多い奴らではあるが、長い期間奴らと過ごすのは苦痛だった。


 奴らは魔物と大差ない。


 不浄そのものだ。






「テオ……? テオ・ディグベル!?」



 次の町に着いた俺に、突然、女が駆け寄ってきた。



「私! エラ! わー、久しぶり! どうして、ここにっ? この町に任官されたのっ?」


「……ああ! エラさん! お久しぶりです!」


「んもぅ、さん付けなんてやめてよぉ。私たち同期でしょ?」



 そう、神学校の同期。


 だが、こいつと俺たちとは、違う。



「本当に久しぶり! 神学校を出てぇ……それから一度、研修後に教会都市(シロツバル)で会って以来だから……五年ぶりかなぁ!」



 よくもまぁ、覚えているものだ。

 最後に会った時も、こんな感じで話しかけられたか。



「テオは相変わらずだねっ。全然変わってない。なんか……恥ずかしいなぁ、私だけ年とっちゃったみたいで」


「あははっ。そんなこと言う年齢じゃないじゃないですかっ」


「ふふっ。それはそうと、まだこっちには来たばっかりなんでしょ? 私が案内してあげる!」


「いいんですか? お願いしますっ」



 面倒な事になった。


 この町で活動するための身分も準備済みだったのだが……素性を知る者がいるというのは、何とも動きづらい。

 


 場合によっては、俺自身で手を下す必要があるか。




 

 俺は、孤児だった。


 親は知らない。

 捨てられたか、病死か、魔物に殺されたか、はたまた派閥争いで始末されたか……いない理由も知らない。


 どこにでも転がっている話だ。


 

 そんなどこにでも転がっている子供(ガキ)共を集めた、精霊教会直轄の孤児院。そこが俺の家だった。



 テオ・ディグベル。


 その名も、そこで割り振られたものだ。

 

 本当の名前は知らない。

 そんなものが存在したのか、すら。



 孤児院では幼い頃から、あらゆることを叩き込まれる。


 魔法はもちろん、この国と精霊教会の歴史、王国全土の地理、暗殺術。


 厳しい訓練に大きな怪我をする者が出る日もざらで、訓練に出れないほどの怪我を負ったものは、孤児院を出て療養所へと送られた。


 みんな、孤児院を出られた奴らを羨ましがったが、孤児院を出た後、戻ってくる奴がいないことに気が付くようになると、自分で治せるように必死で魔法の精度を上げたものだった。



 そんな訓練の中でも俺たちにとって一番やっかいだったのは、対人関係の構築術だった。


 笑顔を作る。


 孤児院の中で俺が一番上達した頃には、俺と同時期に入ったやつらは半数以下に減っていた。



 

「ねぇ、覚えてる? 私たちが、初めて会った時。……私、神学校に入るために初めて教会都市(シロツバル)に行って……田舎町から出てきたばっかりで何にもわからなくて。その時、テオが声かけてくれたの」


「もちろん、覚えてますよ。エラさんってば、神学校の手前の道でぐるぐる回ってて。大慌てだったんで、すぐ迷ってるってわかりましたっ」


「だって、あの辺ってすごくわかりにくいんだもん。通い始めてからも、何度か迷っちゃったし」



 孤児院の子供たちは、十二歳を迎えると神学校に通わされた。


 すでに学ぶことなどなかったが、後々、任務にあたるうえで神官としての体裁を整える必要があったからだ。


 この女の手助けをしたのも、「神官見習いのテオ・ディグベル」としての自然な振る舞いを演じたにすぎない。



「テオ、何でも出来ちゃってすごかったよねぇ。私なんて全然ダメダメで……」


「エラさんは、"癒し"の魔法の精度がすごく良かったじゃないですか。ダメなんかじゃないですよ」


「あれだって、テオがいろいろ教えてくれたからだよ。テオがいなかったら私、卒業できなかったかも」


「あははっ。そんな、大げさな」


「ううん。テオには、本当に感謝してるの」



 この女は在学中、なにかと俺に関わってきた。


 やっかいだとは思ったが、当時の俺は、これも「俺たち」が苦手とする対人能力の訓練の一環なのだと理解し面倒を見続けた。



 それが今になって、こんな形で足を引っ張ってくるとは。





 その後、俺はこの町を起点に、本来の任務をこなした。


 あの日以来、あの女が何かと理由をつけては、毎日のように俺の借家にやってきていたのは面倒ではあったが、当初危惧したほどのことはなく、ひとまずは順調に調査が出来ていた。



 今回の調査は、神官の金の流れに関するものだ。

 この町の隣にある中都市。そこに赴任している神官が、妙な動きをしているらしい。


 ただ単に私腹を肥やしているだけなら、処理して財産を接収すればいいだけの話だが、精霊教会内での派閥争いのため、軍資金を集めている可能性もある。


 その場合は、今回の調査対象の神官から、どこまで繋がるか……慎重に調べる必要があった。



 上の連中の猜疑心の強さには相変わらず、うんざりさせられる。


 だが、仕事はこなす。


 それ以外はどうでもいい。





 調査を続けていたある日、あの女が神妙な顔つきで俺の借家へとやってきた。


 俺のことが好きだという。


 昔からずっと好きだったのだと。



 やっかい極まりない。



 一瞬、始末しようかとも思ったが、ふと、思い立った。


 俺は昔から幼く見える見た目をしていて、任務においても、その特徴は大いに役立ったが……今回は偽装の身分が使えない。


 この町でもすっかり、この女の同期の神官として知られてしまっている。


 年齢を考えれば、所帯を持っていたほうがよけいな詮索を受ける心配も減るだろう。




「嬉しいです……。僕も、同じ気持ちです。エラさん」



 俺は「笑顔」をつくると、この女の気持ちに応えてやることにした。






  

テオのすこし昔のお話です \(´・∞・` )


こういう無害な少年キャラが実は…みたいなのが好きで(´・∞・` )ふふ


テオの正体はわかるように書いてこなかったので、

「ふ…やはりか…(´・∞ ・` )そうだと思っていたぜ」

という方はすごい Σ(´・∞・`;)くっ…


一応、説明がつくように、匂わせ程度のものは散らばせてあるので、これを機に読み返しなんてものをしてみてもいいんですよっ?(´・∞・`*)どきどき…


ようやくやってきたテオの見せ場なので、しばらく続きます ”(´・∞・` )引き続きお付き合い頂ければ…

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