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サザンクロスの花をキミに  作者: 黒舌チャウ
西部地域 ― コーロゼン防衛戦 ―

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第六十九話  なりたくなかった「私」

――「義父上様……?」


「……マヘリア……どうして……。……怖い夢でも見たかい?」


「ううん、音が聞こえたから……」


「マヘリアの耳はさすがだなぁ」


「えへへ……。義父上様、おでかけ?」


「……ああ。終わらせなければならないことがあってね……」


「?」


「いや……さ、もう寝なさい」


「はい、義父上様」


「……マヘリア……っ」


「?」


「……エミリアを……義母上様のことを頼む」


「……義父上様?」


「追ってきてはならないと、そう伝……」


「?」


「……すまない。……さぁ、エリザベッタが寂しがっているといけない。戻ってあげてくれ、マヘリアお姉ちゃん」


「はいっ」



 

 「お姉ちゃん」がうれしくて駆け足でベッドに戻った私は、義父上様の様子が変だったことも忘れて、小さなリィリィの髪を撫でながら眠った。



 次の日、朝から姿が見えない義父上様をみんなが心配し始めた。


 すこし前に、古いお友達が亡くなったと聞いてから義父上様はあまり笑わなくなって、おでかけも増えていたけど、それでも必ず義母上様にはすべて伝えてあったから。





「マヘリア、すこしお出かけしてくるわ。リィザのこと、お願いね?」


「……はい」


「心配しないで? すぐに帰ってくるから。ついでに義父上様も連れて帰ってくるわ」



 私は何も言えなかった。


 義父上様の言葉も伝えなきゃって思ったのに。



 義父上様が帰ってくれば、私の"もやもや"ごと、全部なかったことになるような気がして。 

 

 「連れて帰ってくる」の言葉にすがりつくみたいに。




 義母上様が宮殿のお庭で見つかったのは、三日後の事だった。


 眠ったままの義母上様に、大人の人たちは大慌てで。


 ヴァレリオ義叔父様は難しい顔でチェスナット先生と何かを話していて、カイル義叔父様は大きな声で怒っていて、メリッサおば様は義母上様のお世話をしながらすごく悲しそうな顔をしていた。



 私は、ただリィリィのそばにいて、何も考えないようにしていた。

 なぜかは、わからないけど。



 …………本当は……怖かった。



 義父上様のおでかけに気付いたのに。

 そのことを、みんなに言えたはずなのに。

 義父上様の様子が変だったこと、義父上様の言葉を、義母上様に伝えられていれば。



 私が間違えたせいで、みんな……。


 …………怖くて…………怖くて…………。




 私は知っていた。


 でも、怖くて誰にも言えなかった。


 誰かに……リィリィに話して、嫌われるのが怖くて。



 全部忘れて、知らないふりをしていた。



「……ごめんなさい」



 自分の声で目が覚めた私は、私とリィリィの間で眠っているマヤちゃんに添えていた手を、そっと離して涙を拭った。

 





 あの戦いの最中、ダレンさんの御守りに気付いてからの記憶はない。


 気が付いたのは、次の日。

 

 リィリィがずっとそばにいてくれたみたい。


 その後で全部聞いた。


 覚醒のこと。テオ君のこと。アガットさんのこと。

 クロも、たくさんケガして、他のみんなもすごく大変だったこと。



 私のせい。



 リィリィは話をしながら、何度も「違う」って言ってくれた。


 でも。





 ダレンさんのことは、私が眠っている間にリィリィがマヤちゃんに話したらしい。


 ダレンさんは、日頃から「自分がいつ、いなくなるか分からない」ってマヤちゃんに話していたみたいで、マヤちゃんも、いつもの元気なマヤちゃんのままだった。


 ……けど、夜、眠る時、マヤちゃんはこっそり泣いている。


 最近はマヤちゃんを挟むようにして寝てるから、私とリィリィは、マヤちゃんが泣けるように早いうちから寝たふりをするようになっていた。


 


 どうしてなんだろう……。


 父様も、義父上様も、ダレンさんも。


 みんなみんな、大切な人を置いていなくなってしまった。


 リィリィも、母様も、義母上様も、義叔父様たちも、メリッサおば様も、マヤちゃんも…………残された人は、泣いて、悲しい思いをいっぱいして……。



 ……私だって……。




 ……でも、今回は私のせいでみんなが危ない目にあった。


 ……私の……私のせいで、亡くなった人もいる。


 

 戦うのが怖い。



 今度は、私が死ぬかもしれない。


 私が死んで、今度は私が、リィリィを「置いていく人」になるのが怖い。


 私のせいで、リィリィが死んじゃうかもしれないのも怖い。



 リィリィにまで置いていかれたら、私は……。





「……うっ……うぅ…っ……」


「……マー……? どうしたの? ……泣かないで? マー」



 マヤちゃん越しにリィリィが頭を撫でくれた。



 ……起こしちゃった。


 ……恥ずかしい。


 私は、おねえちゃんなのに……。



「……うっ……ひ…ぐ……ごめんね……リィリィ……」



 全部話そう。

 義父上様のこと。義母上様のこと。



「……マー……?」



 リィリィが撫でてくれる手は、いつもやさしい。


 昔からずっと大好きだった。



 

 旅に出る前、私は、勇者になるリィリィに相応しい私になりたかった。


 リィリィが恥ずかしくないように。リィリィを守れるように。

 足手まといにだけは絶対なりたくなくて。



 でも……もう戦えない……。



 リィリィ……私……。



 一番なりたくなかった「私」になっちゃった……。 


 

 

11話「私の戦う理由」とリンクしたお話です ”(´・∞・` )どんだけ離れるんだっ


零話にも関わる話になっているんですが、覚えている方がいたらボクの毛玉を差し上げます \(´・∞・` )まだまだ肌寒いこの季節にぴったり!


ダレンのお話では、長年の苦しみからの「解放」を描いたんですが、それによって生まれた別の感情にも触れておきたくて ”(´・∞・` )


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