第五十一話 長い懺悔の終わりに
「それで、御用は何かな?」
「いい加減、眠って頂く」
「おや、年は取ったが毎日しっかり眠れているよ?」
「冗談は、存在だけにして頂きたいものだ」
「確かに。これは、してやられたね」
ラモーヴはカラカラと笑うと、先頭の男の背後に控える男たちに目をやった。
皆、同じローブを纏い、フードを目深にかぶってはいるが、「体つき」がそれぞれに違う。だが、その「違い」は不規則なものではなく、全体的に、秩序立った規則性あるものといった印象を受けた。
「それにしても、この人数。こんな老いぼれ一人を寝かしつけるには、少々騒がし過ぎはしないかね?」
「上を含め、周りの者にも言われたよ。だが、私は、あの連中ほど愚かではない」
「なるほど。これはどうやら、どうにもならないようだね。ならば最後に……なぜ、"今"なんだい?」
「………………」
「答えてはもらえないのかな?」
「……我々は、お前の存在自体は伝え聞いていた。だが、正直、報告を受けるまでは……いや、報告を受けてもなお"おとぎ話"だと思っていたほどだ。それまでは、居場所すら掴んではいなかった。だが、報告によりお前の居場所が知れ、お前の"活動"を上が危険と判断した。……そういうことだ」
「フフ……相変わらず、胆の小さい連中だ」
「同感だ。だが、これも仕事だ。……すぐに終わらせる……少々、騒がしいのは勘弁願おう」
先頭の男が、ローブをひるがえし低く身構える。
背後の男たちが瞬時にそれにならい身構えた時には、先頭の男の手にすこし大ぶりな剣が握られていた。
「終わりは近いとは思っていたが、まさかこんな形で、とはね。……だが…ここで大人しく首を差し出すくらいなら、惨めにも今日まで生き恥をさらし続けたりはしないさ……! 坊やたち、悪いが道連れに何人か頂いていくよっ!!」
ラモーヴが瞬間、片手で杖を風車のように回した後、そのまま黒い雲のうずまく空へと向ける。
「【天の咆哮】!!」
ラモーヴの声の後、厚い雲で薄暗かった一面は目もくらむほどの閃光で覆われ、直後、岩をも飛び上がるほどの轟音が襲った。
「………………」
ラモーヴの前には、先頭の男を含め、無数の雷の直撃を受けた百人ほどのローブの男たちが倒れていた。
「……まったく、時の流れとは残酷なものだ。ずいぶんな物を作るじゃないか……」
じっと、視線をローブに向けたラモーヴが、静かなため息をつく。
ローブの男たちは、ぱらぱらと、すこしずつ立ち上がり始めていた。
「……っ。詠唱無しに、あれほど高度な魔法を放つとは。"こいつ"を用意してきて正解だったな」
フードの中に手を差し入れ、首のあたりをさすりながら立ち上がった先頭の男が、ローブをつまみ上げながら言う。
「詠唱はしているよ。君たちが聞き取れないだけだ」
「……ふっ……ははははっ」
先頭の男が、思わずといった様子で声を上げ笑うと、よほど珍しいのか、部下とおぼしき背後の男たちが、とまどった様子で先頭の男を見たり、互いに顔を見合わせたりしていた。
「……さすがだ。まさか、これほどとは。あんなやつにこっちを譲らなくて本当に良かったよ。
……だが、終わりだ。どれほど強力でも、我々には、あんたの魔法は通用しない」
「……そのようだね」
「……提案がある……。……大人しく討たれてくれないか? なんなら自害でも構わん」
「中隊長!? それは…っ」
側にいた部下とおぼしきローブの男が上げた声に、中隊長と呼ばれた男は、突き出すようにして差し出した手で制して言葉を続けた。
「部下や己の命を守るため、とはいえ、こんなものを使って戦うのは本意ではない。その負い目を消すため、とは言わないが、あんたの力…その最期に、せめて敬意を払わせてくれないか」
「………………」
「……ただし投降は、おすすめしない。連れ帰っても無残な死に方をさせるだけだからな」
「ずいぶん優しい暗殺者さんだね。暗殺というには、すこしばかり賑やかすぎるが」
「……どのみち抵抗は無意味だ…ここは……。………なん…だ…?」
ローブの男たちの視線の先には、大気が震えるほどの魔力を放散するラモーヴと、その周りを囲むように浮かぶ、無数の黒い球体があった。
球体はまるで熊蜂の羽音のような音を立てている。
「あいにく私は、余生を懺悔に捧げた身でね。情けを受けた終わりなど、許されない。悪いが…最期まで付き合ってもらうよ……っ!」
ラモーヴは晴れやかな笑みを浮かべると、黒い球体を縦横に動かしながら、ローブの男たちへと駆け出して行った。
特、記 R・A
ラモーヴは、当初、こういうつもりじゃなかったんですけど、
なんだか途中で思いついてしまって…(´:∞;` )こんなことに…




