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サザンクロスの花をキミに  作者: 黒舌チャウ
西部地域 ー 豪撃のメリナ ー

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第五十話   アナベルとマロイ

「入っていらっしゃい」



 メリナが部屋の外へ顔向け声をかけると、獣人の少女と、侍女に手を引かれた小さな獣人の男の子が入ってきた。


 少女のほうは大人しい雰囲気で、部屋に入ってからも恥ずかしそうに顔を赤らめ、

うつむき加減でチラチラと一行に視線を向けている。

 男の子の方はというと、まだまだ甘えたい盛りといった感じで、両手で侍女の手を握っていたが、リィザたち見知った顔を見かけ、大きく手を振っている。

 


「縁談って、もしかして、あの子とクロヴィスの、か?」


「そうだよ。あの子は、メーちゃんの娘のアナベルちゃん。あっちの小さい子が息子のマロイくん。メーちゃんはアナベルちゃんが生まれた時から、クロをお婿さんにって言ってるの」



 ランスのひそひそ話に、満面の笑みでマロイに手を振り返しながら、マヘリアが答えた。



「お待ちください、メリナ様! それは…っ」


「いい加減、腹くくりなよ、クロ」


「リィザ、あなたにも、よ?」


「あたし……? って、でも…………まさかっ!」


「そう! リィザには、マロイの妻になってもらうわっ!」



 仕草、声色など、まるで歌劇のようなメリナの様子に、場の一同の視線が集まるとともに、その瞬間の時が止まった。



「……待…って。待って、メーちゃんっ! だって、そもそもマロイはまだ…」

「何も、いますぐとは言ってないわ。あくまで許婚いいなずけよ?」


「それでも…っ!」


「ウィスタリアも、サルファーも、すでに跡継ぎが、おありなんだもの。あなたたちを、我がジェイブルでもらい受けても何ら問題はないはずよ?」


「メーちゃん!」



 「それに……」と、苦し気に両手を胸にあてリィザたちを見ると、メリナが言葉を続ける。



「……それに、放っておいたら、あなたたちはバラバラになってしまうわ……。これから先、何度顔を見られるかもわからない……。立場上、あなたたちは必ずどこかへ行くことになるのだもの。

……だったら……それなら、わたくしの元に来てくれればいいじゃない……」


「……メーちゃん……」

「……メリナ様」




「……わたくしは……嫌でございます……」


「……え?」



 メリナが目に涙を浮かべながら、ワカナエに来れば他家に行くよりどんなにいいかを力説していると、突然、アナベルが振り絞るような声を上げた。



「アナベル、突然どうしたというの……?」


「わ…っ、わたくしは……アナベルは、マヘリアお姉様の元へ参りとうございます…っ!」

 


「ちょっと……!!」

「んな…っ!?」

「え? 私? えぇぇっ!?」



 リィザとクロヴィスのみならず、突如巻き込まれたマヘリアも驚きの声を上げる中、先ほどから同様、恥ずかしそうにチラチラとマヘリアへ視線を送りながら、アナベルが続ける。



「クロヴィス様のことは好きです。でも……幼いころに初めてお会いした時から、ずっと心に決めておりました……。……アナベルは……マヘリアお姉様の妻になりたい…っ!」


「ア…アナベルちゃん、そんな急に……私は…」


「……マヘリアお姉様は、アナベルが、お嫌ですか……?」


「い、嫌なわけないよっ。私もアナベルちゃん大好きだよ?」


「……うれしぃっ……」


「……え? あれ……?」



 今にも泣き出しそうなアナベルの顔に、マヘリアがブンブンと大慌てで手を振ると、アナベルは目に涙を浮かべたまま上気した顔で、噛みしめるように甘いささやきを漏らした。




「ど…どうなっているんだ……これは」


「獣人族や魔族の方は、あまり性別を気にしないと聞いたことはありますけど……そういうことなんでしょうか……?」


「…わたしを見ないで。あんまり、そういうのわからない。…でも、"好き"かどうかが重要で、あとはあんまり関係ない、みたいな話は母様から聞いたことはある……」



 突然の展開に戸惑い、ランスたちがヒソヒソ話していると、



「……まぁっ。そうだったのね、アナベル……。……わかったわ。あなたが、そこまで想っているのなら……。それに…マヘリアならば、わたくしも何も言うことはありません。あなたの意思を尊重するわ、アナベルっ」


「お母様っ」



 なぜか感無量の面持ちのメリナが、アナベルと手を取り合い微笑み合う。



「ちょっと待ってっ! メーちゃん! アナベル!」

「そうです! それは困ります!」



「メリナ、アナベルも。そのへんにしないか」



 もはや収拾のつかない事態となった客間に、低く、優しい声が響いた。



「あなた……」

「お父様」



 声の主、ジェイブル伯爵は、悠然とした足取りで母娘に歩みよると、優しくその肩を抱き言葉を続ける。


 

「あまり、エリザベッタ様方を困らせるものではないよ?」


「あなた……でも……」


「わかっている。私とて、お迎えできれば、どれほど良いか。……しかし、私たちの気持ちがどうあれ、本当に大切にしなければならないのは、何か、君ならばわかっているはずだ……」


「わかっておりますわ……。でも…それでも…わたくしは……」


「わかっている……わかっているとも……メリナ……」


「……あなた…っ……」



 ジェイブル伯爵の腕の中で、さめざめと泣くメリナの様子に、リィザは大きく安堵のため息を漏らす。



「義叔父様……」


「遅れて申し訳ない」



 互いに苦笑を交わし合うリィザとジェイブル伯爵に、クロヴィスとマヘリアも顔を見合わせ、ほっと息をついたのだった。



「な…なにがなにやら……」

「とりあえず…一件落着…なんじゃないでしょうか……」

「…勘弁して」






 ランスたちが嵐のような一日を過ごしていたころ、北部地域の港町ビナサンドには、本物の嵐がやってきていた。



「やれやれ。急に、これとは。年寄りの身には堪えるよ」



 魔族の老人ラモーヴが、天日干ししていた植物をまとめ、家の中と外とを往復していた。



「失礼。ラモーブ氏のお宅は、こちらか?」



 ラモーブが声の方へと振り向くと、上等な生地を使ったローブを纏った男が立っていた。雨風をしのぐためか、フードを目深にかぶり表情は見えない。



「いかにも。そして、私がこの家の主、ラモーヴだよ。こんな日に、わざわざお客とは……よくぞ、いらしたね」


「すこし、お時間を頂戴したい」


「構わないとも。……だが、このあばら家だ。さすがにそんな人数は入らないだろうねぇ」



 ラモーヴの視線の先、ローブの男の背後には、同じローブを纏った百人ほどの男たちが控えていた。




 記 A・C  D・L   特、記 R・A 


「アナベルが、お嫌ですか」は、ちょっとお気に台詞です(´・∞・`*)


最後の部分書いてて、「あ…なんかダクファンっぽい」って思っちゃいました…。

ダンクファン書いてるつもりだったんですけど(´;∞;` )いままでのはなんだったんだぁっ

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