第五章 二節
「お…おい、くっつくな」
「はははっ。"その子"すっかりベッカに懐いたみたいだなっ」
「サイラス……そもそも、お前のせいだぞ。覚えてろ」
「ハッハッ! 新しいお友達は大事にしないとな、ベッカ」
「○○犬、今すぐ燃やすぞ」
あたしの足元には、でっかいプニニがいた。
脚にぐいぐい寄ってくるから、 体勢を崩しそうになる。
「いいなぁ、ベッキー」
アリシアが、でっかいプニニを撫でながら楽しそうに笑う。
代わってくれ。
サイラスとバカ犬は、ずっとニヤついてやがる。
殺したい。
メリッサは、興味なさそうだ。
それはそれで腹が立つ。
立ち寄った町で魔物討伐の依頼を受けたあたしたちは、発生源らしき洞窟で"こいつ"と出会った。
見たこともない魔法を使い魔物と戦っていたこいつに、サイラスが興味を持って助けたせいで、それ以来、なぜかあたしがこんな目にあっている。
「なぁ、お前、いい加減離れろ」
ぐいぐいするな。
「お前じゃないわ。オハナサンよ」
………………あ?
「しゃべった!?」
「うぉぉぉっ! 初めて見たぞっ!」
「すごいっ! オハナサンっていうのっ?」
「わ……プニニって、しゃべるんだ」
「お前っ、しゃべれるなら何で今まで…っ」
「オハナサンよ。魔力を使い過ぎちゃったの。あなたの魔力を分けてもらったわ」
「あたしの魔力を吸ってやがったのか? ……お前な……」
「ちょっと分けてもらっただけよ? オハナサンよ」
「あん?」
「私は、オハナサンよ」
「それは、わかった。それで…? お前は一体なんなんだ?」
「オハナサンよ?」
なんだ、そのシワ。イラついてんのか?
そりゃ、こっちだ。
プニプニ上下するな。
そもそも会話のテンポが異常過ぎる。
「お前が使っていた魔法は何だ? あれは初めて見た。それに…」
「オハナサンよ。あれは私しか使えないわ。そういう魔法なの」
「本当にプニニなのか? 大体、勝手に魔力を吸うやつがあるか。そもそも…」
「さぁ、どうかしら? あなたの魔力が心地よかったのよ。知り合いの子に似てるわ」
「あんなとこで何をしていた。なんでお前はしゃべれる」
「いい場所がないか探していたの。オハナサンよ。さぁ、どうしてかしら?」
「ああっ…! もうっ!」
なんか限界だ。思わず杖を振りかぶると、でかい丸で視界が埋まった。
「……んなっ!?」
想像以上の質量に押し倒される。でっかいプニニは、そのままあたしの腹の上でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「……うっ……重…っ……おいっ! ……ぁぐ…っ……お…前っ……いい加減にしろぉぉ!!」
「オハ……」
何か言いかけの、でっかいプニニを両手でつかんで思いっきり投げると、地面で大きく跳ねた後で着地し、眉間にシワを寄せながら小さく飛び跳ねた。
「オハナサンよっ」
…………帰りたい。
「今のはベッカが悪いぞっ」
「そーだ、そーだっ」
……こんの、○○ガキ共が……ッッ!!
「ちょちょちょっ……ベッカっ。死んじゃうって」
「止めるな、メリッサ。あいつらは一度殺さないとダメだ」
「一度殺したら終わりなのっ」
怒りとともに魔力を噴き出しながら杖を向けたあたしを、メリッサが止めに入った。
いつの間に後ろに入ったんだ、こいつは。
「ベッキー……」
アリシアが、でっかいプニニを抱えている。
…………はぁ。
なんなんだ今日は。
「……もういい。わかった」
サイラスとバカ犬のケツを杖でぶっ叩いた後、でっかいプニニとあたしたちは別れることになった。
「オハナサン、もう行っちゃうの?」
「ここはダメだったもの。次を探しに行くわ」
アリシアは、さみしそうだが、正直助かる。
これ以上は、あたしの神経がもたない。
「そうだわ。あなたたちに、これを」
「キレイっ。なんてお花?」
「……『南十字星』」
「『南十字星』よ」
でっかいプニニと同時に答えた。
……こいつ……なんなんだ……?
「えっ? ベッキー知ってるの?」
「ベッカが花? 似合わない」
「おい、バカ犬、こいつをケツに突き立てて尻尾を二本にしてみる気はないか?」
「大事な杖だろ? そんなことに使っちゃダメだ」
「なんなら、おしゃべりが止まるように、口まで通してやってもいい」
「動けなくなるのは困る」
「もうっ、ベッキー」
「ああ。昔、師匠に見せてもらったことがあるってだけだ」
ずいぶん昔に絶えた花だと聞いた。
師匠が持っていた花も、魔法で保存していたものだ。
「ある人から、もらったものだ」と。
「オハナサン、またねっ」
でっかいプニニは、アリシアの声に応えるように大きくぴょんぴょん飛び上がると、そのまま振り返り飛び跳ねながら去っていった。
「ベッキー、お花、髪に差してあげる」
「いいって。ガラじゃない」
抵抗むなしく、あたしの髪には白い花が飾られた。
「ベッキー、かわいいよっ」
「……まったく」
アリシアの手前、もう取るわけにはいかない。
しばらくは、このまま花をつけていなければならなそうだ。
「町に戻るぞ。今日は散々だ。早く宿に泊まりたい」
「悪いが、ベッカ。そういうわけには、いかないようだ……」
サイラスが、真剣な顔つきでつぶやいた。
「……どうした?」
「尻が痛くて動けない」
「………………」
杖でケツを小突いてやったら、飛び上がって前に進んだ。
動けるじゃないか。
すこし面倒だが仕方ない。
杖で小突きながら町に戻ることになった。
もうちょっとオハナサン書きたくて…(´・∞・` )




