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サザンクロスの花をキミに  作者: 黒舌チャウ
西部地域 ー オハナサンと白い花 ー

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第四十六話  ととのった?

 リィザとクロヴィスの氷の魔法を受けた火の鳥の魔獣が、怒り狂ったように"羽"を飛ばす。

 二人を追い回し、注意が逸れた魔獣をテオの光の槍がたやすく捉えると、叫びを上げた魔獣がさらに猛り、炎の波を放った。



「さっきより、オレたちのも効いてるみてぇだけど……暑さが、やべぇ……。そのうち捉まっちまうぞっ……」


「そしたら、また蹴ってあげる」


「……お前なぁ……っと、あぶねっ…!」



 髪までぐっしょりと濡れたクロヴィスが、げんなりとした表情でかろうじて火球を躱す。すでに身体中小さな火傷を負っていた。

 リィザは手傷こそほとんど負ってはいないものの滴る汗を拭う間もなく、魔獣の攻撃を躱すたびに、たなびく髪から汗が飛んでいる。



「二人とも限界が近いな……。カティア……急いで…くれ……」





「うぅ~……っ。どうしよう…このままじゃ……。…………そうだっ!!」



 一人、おろおろと様子を伺っていたマヘリアだったが、なにかをひらめいた様子で後方へと駆け出した。


 

「よい……っしょっと。……これでっ! …………って、ぁぁあれっ? なんでっ?」



 入口の大きな扉を全開にさせたが、あまり効果がなかった。



「……マヘリア。一か所開けても空気は流れないんだ……」


「そうなのっ!?」



 言いにくそうに言葉をかけるランスに、ショックを隠し切れない様子のマヘリアが尻尾を逆立てていると、再び、カティアのまわりで魔力が高まり始めていた。



「ようやくかっ。頼むぜ、カティアっ!」



 "祭壇の間"が高温になっていることも手伝ってか、空気の動きによって魔力の集中が可視化されていた。

 あたりの空気が渦を巻くようにカティアを包むと、詠唱を続けるカティアが魔獣の上空に向けかざした杖の先を、くりかえし円を描くように回す。



「…矩に環に、巨に細に……。

流れ縷々として、上から下へ。

清浄にして豪然たる、その名は汝。あめつちに滲透せしむ、水の化身。

我、カティア・レッダの名において"約束"を交わす。

落ちろ。天の一滴ひとしずく。…【竜の涙】(カタラーファル)



 上空に巨大な魔法陣が現れたかと思うと、滝のような大量の水が、魔獣を叩き落とし飲み込んだ。


 魔獣の断末魔の叫びすらも滝の轟音にかき消される。

 やがて水が落ちきると、ゆらゆらとわずかに揺れる火を纏った魔獣が、力なく翼を動かした後で息絶え、崩れていった。



「終わったーっ! あっちぃーー!」



 クロヴィスが大の字で倒れ込むと、



「……えっ!? リィリィ……!?」



 血相を変えたマヘリアが駆け寄る先では、リィザが倒れていた。

 マヘリアが抱き起すものの、ぐったりと力なく、言葉も返すことはなかった。



「リィリィ……っ!? ねぇっ…クロっ…ど…どうしよう…っ! ……リィリィがっ! ……リィリィ……っ!」



 汗と涙で顔中を濡らしたマヘリアが、動かないリィザを抱きしめると、突然、リィザの両腕がマヘリアの腰に回された。



「…………えっ……?」



 マヘリアの胸に顔をうずめ動かないリィザだったが、回した腕には確かに力がこもっている。



「すーーーぅ……っ……」

「………………」



 すべてを察したマヘリアが横回転しながら立ち上がると、互いに汗だくだったこともあって、するりと抜け落ちたリィザが「ゴッ」という音とともに、床にしたたかに頭を打ちつけた。



「痛ぁぁぁぁっっ!!」


「知らないっ!!!」


「やってる場合かっ! ランスが、やべぇ!」



 怒ってそっぽを向いたマヘリアと、頭をさすりながら涙目のリィザが視線を向けると、そこには大きな水たまりに崩れ落ちて座る「鎧」があった。



「えぇぇぇっ!? ラ…ランスっ!!」


「無理もねぇっ! すぐに鎧を脱が…ぁぁあっちぃっ!!」



 ランスの鎧に手をかけたクロヴィスが、天に拳を突き上げるような様で手を放す。



「とととりあえず、鎧を冷やしましょうっ」



 テオが"癒し"の魔法を、リィザとクロヴィスで氷の魔法を発動させている間、きょろきょろと、せわしなくあたりを見回していたマヘリアが、壁に向かって駆け出した。

 


「これでいいんだよねっ!?」



 飛び上がり、巨大化させた大斧で壁を打ち抜くと、崩れた壁から青空がのぞき、外気が"祭壇の間"の熱気を押し出し始める。



「す…涼しぃぃ……。まさか外とつながってる場所があるなんて。マヘリアさん、よく気付きましたね」


「うん、戦闘中に壁がすこしはがれた時に、光が差し込んでるところがあって……」


「……おっ? 気が付いたみたいだぞ」



 皆の働きの甲斐あってか、ランスがうっすらと目を開けた。



「……あぁ……なんだろう……すごく気分がいい……。身体は地面に沈んでいくようなのに……なんだか軽くて…天に昇っていく感じだ……」


「……おい…やっぱり、やべぇんじゃねぇか?」


「…水でもかけてみようか?」



 杖を構えるカティアをテオが押しとどめるなか、どこか恍惚の表情を浮かべるランスの顔を、涼やかでやさしい風が撫でていった。




 記 A・E

 



このエピソードは構想序盤に思いついたものだったこともあって、ちょっとがんばってみました。

過去最長の詠唱文言です(´・∞・`;)ふぅ


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