第四十四話 人影
「いきなりかよっ…!」
「見たこともない魔物……。やっかいだな」
「やるしかないでしょ」
向かってきた人影は五体。剣を持った二体と槍を持った三体だが、前列の三体は左から、剣・槍・槍と、統制がとれているとは言い難い編成だった。
「おぉぉぉっっ!!」
ランスが気合の声とともに、盾を構えたまま三体の中央へと突っ込む。
ランスの後を続いていたマヘリアが、宙返りをしながら逆さの体勢で円を描くように大斧を回すと、両脇の二体は、すれ違いざまランスに顔を向けたままの姿で首を刎ねられ、横ざまに崩れ落ちた。
なかば盾に運ばれるようにして跳ね飛ばされた中央の一体は、仰向けに倒れたところを、ランスの剣で頭を割られる。
直後、後列の二体が突貫したランスを狙い得物を向けるが、すでに大きく回り込んでいたリィザとクロヴィスが、その背後にまわっていた。
「………………」
「遅ぇぞっ。もらったっ!」
左の人影の両脚を一刀のもとに切断したリィザは、返す刀で、その体をななめに切り裂く。
クロヴィスは、右の人影がランスに向け振り上げていた剣を持つ腕を切り落とし、
双剣のもう一方で喉元を貫いたが、クロヴィスの喉元にも、すかさず振り向いた人影の手が伸びていた。
「……なるほどな。頭とか胴体みてぇな身体の中央はともかく、四肢に関しちゃ壊れようが、お構いなしってやつみてぇだな」
崩れながら消滅する人影に、嫌悪感を隠そうともしない表情のクロヴィスが舌打ちをする。
「でも、こんなの見たことないよ? 候補生学校でも習わなかったし……」
「精霊教会でも、こんな魔物の報告は聞いたことがありません……」
「新種ってことか?」
「いえ、まさか。長い歴史の中でも、新種が現れたことは一度もありませんよ」
「つったって、現にこうして」
「…【業火流焔】」
「オレたちょぉぉぉぉっっ!!!」
双剣で、持ち主を失った人影の槍を小突きながら、クロヴィスがテオに不満をぶつけていると、突然、カティアが炎の濁流のような魔法を放った。
尻尾を抱え飛び上がったクロヴィスが、炎の行方に目をやると、先ほどの人影が十数体ほど炎にまかれて焼き崩れていく。
「……っぶねぇ……。……頼むぜ、カティア。尻尾焼けるかと思ったぞ……」
「…ごめん。でも自業自得」
「詠唱聞いてなかった上に、ふらふら射線に入るからでしょ」
「そうだよ? クロ」
「魔物にも気付いてなかったのか?」
「てっきり、知っててわざとなのかと……」
「……ひでぇ……」
「…それより……また来た」
焼け焦げがないか、クロヴィスが尻尾をまじまじと眺めていると、カティアが杖で指した先に大きな人影が見えた。
「上位種がいるのは、他の魔物と同じ…ですか」
「あれって、ケンケンに乗ってるのかな……?」
大きな人影は獣の姿をした影に乗っているが、シルエットのみのその姿からは詳しいことはわからない。
ただ、先ほどの五体同様、なぜか得物は実体の物であった。
大きな人影は、ゆっくりと上体を動かすと、手にしていた巨大な槍を一行に向け投げつけた。
「ぐ……っ! …ぅぉおおおっっ……! どぁぁっっ!!」
すかさずランスが防御魔法を展開するが、七層にいたるそれらを次々と破ってなお勢いの衰えない巨大な槍は、ランスの持つ盾とともに展開した最後の一層で受け流すことで壁に突き刺さり、ようやくその動きを止めた。
「すごいっ! さすが先生!」
「…あぶない盾なだけはあるね」
「……いや…今、オレが……。……まぁ、確かにそうか」
「ランスも、すごかったよ」
「言ってる場合かっ。…くるぞっ」
リィザがランスの肩を叩き慰めていると、大きな人影が双剣を引き抜き、雄叫びを上げるような仕草の後、一行に猛然と突進する。
「さっきの槍といい、あんなでけぇの、どっから調達してくんだよっ!」
「『言ってる場合』じゃないでしょ。魔獣のこともあるし、時間はかけられない」
「違ぇねぇ。……マー! 頼むっ」
「うんっ。……えぇぇぇぃっ!」
一振りごとにリィザの髪が激しくたなびくほどの強振を躱しながら、クロヴィスが声を上げる。
リィザとクロヴィスを狙って振り抜かれていた大きな人影の双剣は、大斧を巨大化させたマヘリアの一閃を受ける間もなく、両断された身体とともに大きな音を立て地面に落ちた。
「クロー? なにしてるの? 行くよー?」
「あ、いや、赤い石落ちてねぇかなって……。めずらしい魔物だったし……んー……ねぇか……」
名残惜しそうなクロヴィスが慌てて後を追い、さらに先に進むと、
「……なんだか……暑いですね……」
「ホント……ふぅ……」
「う…重装備には堪えるな…」
徐々に熱気を帯びる回廊の先に、大きな扉があった。
「暑い」
「リィリィ、だいじょうぶ?」
「抱きついてりゃ暑いに決まってんだろっ」
マヘリアの腰に腕を回したリィザが、ぴったりとマヘリアの体に顔を寄せうつむいている。マヘリアが自然とリィザの頭を撫でていた。
「【大気の加護】を張りましょう。すこしはマシになるはずです」
テオが魔法を発動すると、それぞれの身体を大気の膜が包む。
「すごいっ。涼しーい」
「あははっ。熱を防いでいるだけですよ」
「…ちょっと危なかった」
真っ赤な顔で、ふらふらとしていたカティアの顔も、いくぶんその白さを取り戻しつつあるようだった。
「よしっ、さっさと魔獣を始末して、こんなとことはおさらばしようぜっ」
クロヴィスとランスが大きな扉を押し開けた。
記 A・E
バトルシーンやっぱり苦手です(´;∞;` )ここから続きます
この神殿と"人影"、気付かれた方はどれだけいるでしょうか(´・∞・`;)忘れちゃうよね…




