第四十二話 魔物の村
「喋った」
「うん。しゃべったね」
「喋ったな」
「プニニって言葉話せたのか?」
「きょ…っ、興味深いですね…っ」
「…勘弁して」
プニプニと体を上下に震わせる丸い生物を前に、一行が思い思い話していると、オハナサンと名乗った大きなプニニが言葉を続けた。
「あなたたち、魔獣を倒しに来てくれたのね?」
「……どうして、そう思うの?」
「だって、あなた、勇者なんでしょう? 勇者は魔獣を倒す人。そうでしょう?」
オハナサンは、つぶらな瞳をリィザに向けたまま、ぴょんぴょんと小さく飛び上がってみせた。
マヘリアが目をキラキラさせ、尻尾を左右に振っている。
「……たしかに、あたしたちはその調査に来たんだけど……いるの? 魔獣」
「いるわ。最近この先の神殿に現れたの。おかげで悪い魔物まで増えて、私たち困ってるの」
話し終わるか終わらないかで、すぐさま返事を返すオハナサンのテンポに若干気圧されながらも、リィザは会話を続けた。
「悪い魔物?」
「そう。乱暴なの。私の村を襲いにくるのよ?」
一行があたりを見回してみるが、特に荒らされていたり、戦闘の痕跡のようなものはみられなかった。
「……そういう時は、どうしているの?」
「やっつけるわ」
「……だれが?」
「私よ?」
「まさか、周辺で魔物と出くわさなかったのは、あのプニニがここで全部倒していたからか……?」
「さっきの話では、そのように考えるのが自然ですね……」
「自然じゃねぇよっ。東部を見たろ。魔獣が出た時の魔物の増え方は異常だ。それをこんなとこで、たった一体でって、あり得ねぇだろ」
「…でも、プニニの生態については、わからないことだらけ。もしかしたら強いのかも」
「……あれでか? 信じられねぇ……」
ヒソヒソ話すクロヴィスたちに横目で視線を送った後、村に点在する家を見回しながらリィザはオハナサンに訊ねた。
「他の人たちは? いっしょに戦わないの?」
「戦えないわ。みんな大人しい、いい子たちなのよ?」
「………………」
「そんな怖い目をしないで頂戴。みんな怖がるわ」
家々に向けたリィザの警戒の視線に対し、オハナサンがたしなめるように言った。
オハナサンに視線を戻すと、つぶらな瞳でリィザを見上げる姿はそのままであったが、人でいう眉間のあたりに妙な角度で"しわ"が寄り、一応不満そうな表情に見えなくもない。
「そうは言ってもね。警戒はするでしょ、姿も見えないんだし」
「あなたなら、このくらいの数、なんてことないでしょう?」
「……数だけなら、ね」
「そうなのね。お友達を心配しているのね? ツンデレかしら」
「ツン……なに?」
「いいわ。紹介するわ。みんな、出てきて。大丈夫よ」
オハナサンが大きくぴょんぴょんと飛び跳ねながら言うと、しばらくして、家々の扉がためらいがちに開かれ始めた。
"村人"たちを見た一行が、とっさに身構える。
だが、武器を構えなかったのは、距離があったこともあるが、"村人"たちから戦意を感じなかったからでもあった。
「みんなが怖がるわっ」
オハナサンが、先ほどの"不満そうな顔"で飛び跳ねる。
「……魔物じゃねぇか」
「う、うん。……でも、いつものとなんだか違うね」
魔物の村人たちは、おずおずと、まるで侵略者の前に引き出された無辜の民のように、一行に視線を向けた。扉に隠れて顔だけ出している者もいる。
「この子たちは何もしないわ。みんな大人しい子。この村は、そういう所だもの」
「……わかった。もう戻ってくれていいわ。いつまでも、あんな風に見られたんじゃかなわない」
リィザが大きなため息をついて言うと、オハナサンに促され、村人たちはそそくさと自分の家へと戻っていった。
「この村は、なに? あなたは何者?」
「この村は戦いたくない子の集まる所。私は、オハナサンよ」
「…………まぁ、いいわ。魔獣は神殿にいるのね?」
「そうよ」
「……はぁ。……いってくるわ」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
ぴょんぴょん飛び跳ね見送るオハナサンを背に、踵を返したリィザがスタスタと歩き出した。
一行が慌ててリィザの後を追う。
「おい、いいのか? あれ」
「……なんか疲れた」
「ま…まぁ、特に害は無さそうでしたし、僕も神殿に向かうのが先決だと思います」
「それにしても、妙な所だったな……」
「オハナサンは、かわいかったね」
「う~ん……まぁ。……まぁ……うん」
ご機嫌な様子のマヘリアにランスが戸惑いながらも、一行は来た道を引き返し、神殿へと向かうことにした。
記 A・E
オハナサン…「リン〇ネ」のママみたいにしようと思ってたのに、なぜかあんな感じに…(´・∞・`;)




