第十四章 五節
「オレは、ここまでだ。行ってくれ」
「シルグレ……?」
「行こう…? サイラス。……時間がない」
「そうだ。ここはオレに任せろっ」
「……シルグレ」
「そんな顔をするなよ、死ぬつもりなんかないぞ?」
「……わかった…すぐ戻る。急ぐぞっ!」
南部地域シャクドー。
最後の魔獣との戦いは、王国中から集められた騎士・兵団員の膨大な犠牲を経て、最終段階に入っていた。
「………………」
サイラスたち三人を見送って、あたしはその場に残った。
「ベッカ? なにしてる、お前も行ってくれ。この先の…」
「バカ犬が。あたしが残る。お前が行け」
「ふぅ…この先の魔獣が物理を通さないやつだったらどうする。時間がないんだぞ」
……くそが……妙な知恵をつけやがって……。
なんだ、その顔。腹が立つ。
わざとらしく、ため息なんかつきやがって。
「行ってく…」
「行くさ。……こいつを渡しておく」
「これは?」
「お手製の魔法具だ。こいつを発動すれば、あっちからこっちまでの一帯が吹っ飛ぶ」
杖で指し示してやると、バカ犬はニッっと笑った。
「それは、いいなっ」
「ああ。アリシアを泣かせることには変わりないからな。それなら、せめてお前の本懐ぐらいは遂げさせてやる」
本当は、いざという時のために、あたし用に作っておいたものだ。
こいつは絶対に生きてアリシアのもとに帰さなきゃいけない。そう思って。
……なのに。
「ハッハッ! 助かる! 正直、一人でどうしようかと思ってたんだっ」
「……バカ犬が」
「こういう時は、最期ぐらい名前を呼んで『…お前っ』って流れだろう?」
「知るか。変な本の読み過ぎだ。まともな本を読め」
「もう遅いっ」
いつもの大声で笑う。
……バカ犬が。
「……この魔法具は、携帯魔法陣と同じ仕組みだ。作った者の魔法が込められている。こいつには、あたしの魔法の何倍もの魔力を込めてある」
「ベッカの魔法ってことだろ? なんかすごいな。期待できそうだっ」
「そうだ。……きっと、サイラスは間に合わない。……だから……あたしが殺してやる……」
あたしたちが抜けてきた魔物の群れが、反転を始め、徐々に迫って来ていた。
あの数だ。バカ犬でも防げない。
魔物に膾にされたあげく、仲間を危険にさらすなんて、こいつの最期に似合わない。
アリシアも悲しむ。
だから。
「ありがとう、ベッカ」
バカ犬が。
「……アリシアを泣かせやがって」
「ベッカが死んでも、アリシアを泣かせてたぞ」
「そんなもの……!」
あたしと、バカ犬、どっちがこれからのアリシアに必要か、なんて、わかり切ってる。
「アリシアには、ベッカも必要だ」
〇〇が。〇〇バカ犬が。
「とにかく助かったっ。もう行けっ!」
バカ犬が背中の大剣を抜く。
引き返してきた魔物の群れと、あたしたちに続いてなんとか抜けてきた兵団のやつらが、ぶつかり始めていた。
あたしは、あいつに何も言ってやれなかった。
する気はないが感謝の言葉も、いかにもバカ犬が張り切りそうな言葉も、罵る言葉さえも。
このまま、こいつとここで死ぬか……?
もともと、最初から残るつもりだったんだ。それも悪くない。
……違うな。バカ犬を死なせて、あたしだけが帰って、アリシアにどう思われるかが怖いんだ。
でも、バカ犬とあたし、二人とも死んだらアリシアは……。
それに、この先の魔獣が物理を通さなければ、なにもかもが無駄になる。
どんどん「言い訳」が湧いて反吐が出る。一度覚悟が逸れると、こんなものか。
「最悪の気分だ」
今のあたしなら、魔王とだって戦える気がする。
振り返ったあたしは、サイラスたちを追った。
ザイエフとレイが参加できなかった、例の戦いのお話です ”(´・∞・` )
ずっと後で、この戦いに「参加できた」男のお話も出てきます(´;∞;` )かなしいお話です(作者のせい)
この時点で、これ書いちゃうのどうかとは思ったんですけど、
考えてみたら、順番に読んでるとイマイチわからない話ですし、読み進めるにつれて記憶が薄くなるので、案外アリなのかも?(´・∞・` )とか思ってます
あっ、「ベッカの場合」は本編が五十話過ぎてから、投稿してます(´・∞・` )




