第二十八話 帰還
「……おいっ! 誰か出てくる……!」
「ザイエフ様だ…ッ! ……よくぞ、ご無事で……っ」
「…はははっ! 戦隊長も無事だぞっ!」
「勇者様ーーーッッ!!!」
大口の魔獣を倒し、ザイエフとレイを連れ洞窟を出ると、外で帰りを待っていた討伐隊の歓声が一行を迎えた。
「おめぇらッ! なんでオレは『ははは』なんだよ!!」
レイが大声を上げると、討伐隊からドッっと笑い声が上がった。
洞窟の外には、リィザの指示による荷車隊がすでに到着していたが、だれもここを離れようとはしなかったのだろう、車を牽くケンケンが伏せてゆったりしている。
「お前たち……なぜこんなところにいる……。帰ってトクサを守れと命じたはずだ……っ」
ランスの肩を借りたザイエフが鋭い口調で兵たちを睨むと、討伐隊の兵たちは一様にバツが悪そうに下を向いた。
「……ったく。お互い様ってやつだ。今ぐれぇは勘弁してやれよ。それよりオレは今、最高の気分だ! 早く帰って酒が飲みてぇ! おめぇら、さっさと乗れ! トクサに帰るぞ!!」
レイの号令に、消沈していた兵たちも息を吹き返し、負傷者の搬出準備に取り掛かかり始めた。
「討伐隊の方々の怪我も、なんとか持ち直せそうです」
改めて兵たちの傷の具合を診て回っていたテオが、ザイエフのもとに戻ってきた。
引き続きザイエフの治療にかかろうとすると、
「俺は、もういい……。それより、こいつを診てやってくれ……」
「あぁ? オレはなんともねぇよ」
「なんともないのに、戦闘中なにもせずに突っ立ってたのか……?」
「……チッ……」
テオが確認すると、返り血で外からではわかりにくかったが、胸下部に大きな傷を負っていた。
「ひどい怪我じゃないですかっ!?」
「……へーきだっ。帰ってから自分でやる」
「いけませんっ! そこ、座ってください!」
「テオにも、ああいうところがあるんだな」
「気の小さいところはあるけど、案外、胆が据わってるかもね」
ケンケンを引いたランスが微笑みながら、独り言のようにリィザに言った。
二人の視線の先では、レイを荷車に座らせ、何度も立ち上がろうとするのを、しきりに何か言いながら押しとどめるテオの姿があった。
「……なぁ、さっきの魔獣なんだが……」
「……やっぱりランスも気付いたんだ? さすが"お話"好きだね」
「リィザも気付いてたってことは、あれはやっぱりそうなのか……?」
「……わからない。あたしだって、実物を見たことはないんだし。それに……あの話は好きじゃない……」
ランスが真剣な顔つきでリィザを窺い見るが、リィザはテオたちのほうへ視線を向けたまま答えた。
「……まぁ…それもそうだな……。それに…魔獣の特性からも、はずれる。きっと、思い過ごしだろう」
ランスも視線を戻すと、とうとう根負けしたレイがテオの"癒し"の魔法を受けていた。
「やれやれ……見かけによらず強情なガキだったぜ」
「ふ…そうだな……」
トクサへの帰路についた荷車の上、レイがため息まじりにザイエフにぼやいていた。
テオはレイの治療を終え、クロヴィスのケンケンに乗っている。
「しかしまぁ……他のガキ共もすごかったが、勇者様ってのは、やっぱり別格なんだな」
「あぁ…俺たちも見るのは初めてだが、ああも力の差を見せつけられると嫌になってくるな……」
「…の割りにゃ、ずいぶん、うれしそうじゃねぇか」
「あれほどまでに、すごいのなら……。『隻眼』を守って死んだボスたちも、決して無駄死になどではなかった……。そう思っただけだ……」
「…あぁ……だな……」
レイは荷台の縁に肘をかけ、視線を別に向けている。
「ふ…ずいぶん気になってるようだな……。あの娘、シルグレ様の御息女と聞いたが……」
「あん…? …別にオレは……いや……まぁ、ちょっとな……」
マヘリアに視線を向けたまま、レイは首から下げた御守りに手をやる。
傷つき、疲れ果て、しかし賑やかな荷車隊は、トクサへの凱旋の途についた。
記 A・C
レイは、ずっと後で再登場しますよぅ(´・∞・` )




