第二十三話 遠雷
エリアスの声に応え、先ほどの衛兵が執務室へと入ってきた。
リィザたち一行に視線をやると、はっとした様子で目を伏せ、エリアスへと向き直る。
「かまわん。聞かせろ」
「はっ…。今しがた、トクサより火急の援軍の要請が」
「いったい何があった」
「急使の話によれば、魔物の巣とおぼしき場所を発見し、支部長自らその討伐に向かったとのことですが……その……見たこともない魔物の襲撃を受け、被害が甚大であるとのこと……」
「見たこともない魔物だと……?」
「閣下……」
リィザがエリアスに声をかける。
エリアスの顔にはあぶら汗がにじんでいた。
「ええ…おそらく。……なるほど……それですべて合点がいく」
エリアスは立ち上がり剣を取ると、扉へと歩き出した。
「閣下!? どちらへ!?」
衛兵が慌てて追いすがると、
「知れたこと。私自らトクサへ向かう。直ちに兵をととのえよ」
「お待ちください、閣下! すでに東部各地支部に増援を派遣し、要塞都市の守りも十分ではありません。その上、閣下にここを離れられてはっ!」
「今出られる者だけでかまわん!」
「閣下! どうか…! お待ちください、閣下!」
なおも進もうとするエリアスを、衛兵がすがりつくように止める。
「閣下、ここは私たちが」
「それはなりません、エリザベッタ様。あなた様方には、ここの守りをお願いしたい」
「いいえ。たとえ少人数でも兵を動かすとなれば時がかかりましょう。まずは私たちが向かいます。閣下はその間に……」
「…………わかりました。頼みます」
リィザの言葉に、なにかを飲み込むように頭を下げると、
「直ちに準備にかからせろ。私は残るが、その分ここの守りは最低限でかまわん」
「はっ…!」
命じられた衛兵が執務室を出ていった。大声を張り上げ、なにかを指示する声が聞こえる。
「……すまない。羽を休めろなどと言っておきながら」
「いいえ、おじ様。……それより先ほどの話は」
「ああ、おそらく魔獣だろう。魔物の異常発生はそれが原因だったようだ」
「ええ。それならやはり私たちの役目ですわ」
「トクサの指揮はザイエフという者に任せてある。優秀な男だ。死なせるには惜しい。すでに遅いかもしれないが…どうか頼む」
「はい。では、すぐに立ちます」
「魔獣か。またあんなのと戦うことになるなんてな……」
役場を出て城門へと急ぐ中、ランスが張り詰めた表情でつぶやいた。
「…師匠の複製体で経験があるだけ、まだマシ」
「そりゃ、そうだけど……」
「そうだぜ。オレとテオなんか完全に"お初"なんだからな」
「や…やっぱり、すごいんですよね……魔獣って……」
「だいじょうぶだよ、テオ君。リィリィだっているんだから」
「それに、あたしたちがやらなければ、たくさん人が死ぬ。……間に合えばいいけど」
一行が城門に着くと、衛兵が駆け寄ってきた。その後ろにはケンケンが見える。
「エリザベッタ様! 閣下より命を受けております! どうぞお使い下さい!」
「助かるわ。ありがとう」
三頭のケンケンに二人ずつ乗ると、一行はトクサへと急いだ。
記 A・C
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