第十話 あの人に憧れて
「どうだ? いそがしくなっただろう?」
「誰のせいだ。……だが、今年の候補生に|非詠唱空間発動魔法使い《スポッター》がいるとはな」
ベッカが腕を組みながら機嫌よく言うと、ローブの男は面倒くさそうにしながらも興味が湧いたような様子で答えた。
「スポッターなら他にもいるぞ? モノにならんやつばかりだがな。"例の本"のせいさ。私たちのころは、天性のものですら邪道扱いだったのにな」
「どうしても効力が限定的なものになるからな。実戦での使用に堪えられるレベルで扱える者は、まずいない。だが、あの重騎士の彼はなかなか興味深い」
「ランスロットだ。あいつも"例の本"の影響さ」
「……そうか。【光の盾】を極近距離で三枚重ねていた。スポット魔法による、一枚あたりの効力不足を補い、結果として詠唱を経ての発動よりも効力を上げている。それに加え、一枚ずつ角度を変えて力を逃がしていたな。器用なことをする」
「スポッター同士だと、そこまでわかるものか。面白いものだな。だが、あんたは、一枚で足りてるんだろう?」
「当たり前だ」
そう話している間もローブの男は、候補生たちへ防御魔法を展開させ続けている。
拡散された熱光線によって防戦一方となった、候補生たちと魔獣との戦闘は、膠着状態にあった。
リィザとマヘリアのみが、合間を縫って攻撃を加えてはいるものの、うかつには近づけないでいた。
「いつまで撃ってくるの、こいつっ!」
「どーするの? 私たちはまだいいけど、このままじゃみんなが…………」
一方、防御魔法でかろうじて踏みとどまっているものの、まったく身動きがとれないでいるランスやカティアたちの状況はより深刻だった。
「……くそっ! いつになったら止むんだ!」
「…これだけ連続で高火力の熱光線を放っているから、魔獣の体力も限界がくるはず。反転の機会があるとすれば、その時。…………でも、それまで、こちらが持たない」
「(こんな状況じゃ、俺の防御魔法では発動に集中するのに精一杯で、他の行動に移す余裕がない…………。……サイラス様だったら、こんな。…………くそっ…………俺は……っ)」
幼いころ、人形劇で観た『隻眼の勇者』一行の、サイラス王子に憧れた。
サイラス王子が幼いころ、携帯魔方陣を暗記しスポッターとしての能力に目覚めたと知り、真似した。
なかなかうまくはいかなかったがあきらめずに続け、いざ使えるようになってみてから自分にはサイラスのような才能がないことに気付いた時も、内心愕然としながらも、すこしでも近づけるように誰よりも努力してきたつもりだった。
「(……そうだ…………俺は、誰よりも努力してきたじゃないか……。……才能なんか無くたって…………っ!!)」
ランスが、力のこもった声で叫ぶ。
「聞いてくれ! 魔獣の熱光線が途切れるのを待つ! 機会は一瞬かも知れないが、俺たちならそれで十分だ!! それまで必ず、持たせてみせる!!」
残った候補生たちの目に、希望の光が宿ったが、一人、軽騎士の少女には、ランスの声は届いていなかった。
「……ぅ……ぅわあぁぁぁぁっっっ!!!!」
震える脚で立ち上がり、恐怖に染まった表情で剣を振り上げ、やみくもに駆け出す。
「…………のまれたか。実戦なら死んでいるぞ」
監督台の上で、ベッカが苦々しげに舌打ちをした。
魔獣が、突進してくる少女に気付いたのか、熱光線を放つのを止め、大きく腕を振り上げる。
「やめろっ! なにをやっているっ!!」
ランスが叫び、かろうじて防御魔法を展開しようとしたの同時、
「エマっ!? ……ダメっ!!」
マヘリアが、エマと呼ばれた軽騎士の少女をかばうように、魔獣との間に割って入った。
「……なッ!? ダメだっ! マヘリアまで手が回わらない!」
「…ぐぅっっ………………!!!!」
鈍い音がした後、魔獣の一撃の直撃を受けたマヘリアが激しく転がりながら弾き飛ばされると――
……ギギリリリィッッ…………!!
演習場の端で負傷者を看ていた救護班が振り返るほど、大きな歯ぎしりが聞こえた。
音の主である、リィザが魔獣へと向き直る。
全身をブルブルと震わせながら、剣を構えるリィザの身体は、不思議な光に包まれていた。
「…………試験なんて、どうでもいい…………。あいつ…………あいつ…………ッッ!!!!
バラバラにしてやるッッッッ!!!!!!!!!!!」
記 A・E
むずかしすぎるー。
シリアス展開、好きなのに、書くの苦手すぎるー。
うわは~ん。 ( タラちゃん )




