幕間 誰かの夢、あるいは
滲む視界。
揺れるベッド。
遠くから聞こえる、無数の爆発音。
手も足も、金縛りにあったかのように指一本動かせない。
舌は痺れ、しゃべるどころか息をしているのかも分からない。
ぼんやりとした意識の中で、僅かに残った思考を必死に繋ぎ止める。
これは夢だ。
無機質な乳白色の壁と天井。
生活感の欠片もない、4畳半の狭い部屋。
ぽつんと置かれた白いベッド。
仰向けに寝かされ、人形のように動かない自分の身体。
この夢を見るのは何度目だろうか。
視界の端でスライド式の自動ドアが開いた。
一人の男が部屋の中へと入ってくる。
ベッドの柵に手をかけた男の顔は、ピントが合わないカメラのようにぼやけている。
「最初に謝っておく。こんなことになって、本当にすまない」
顔の分からない誰かは、声を震わせながら懺悔を始めた。
「俺はお前を一人にしてしまった。……途方もない孤独の世界に突き落としたんだ」
ふと照明が消えた。
真っ暗になったと思ったら、またすぐに明るくなる。
電力供給が不安定になっているのか、部屋を照らす電灯が不規則に明滅していた。
「いつか俺を恨む時が来るだろう。憎しみや悲しみに溺れる時が来るだろう」
男が、臥せる自分の手を握る。
掌から伝わる温もり。
いや、自分の体が冷たいだけか。
触れた手ざわりが、無数の傷の感触が、男の過酷な仕事を物語っている。
「だが忘れないで欲しい。俺は、俺たちは、お前を……」
けたたましいアラーム音が鳴った。
上着のポケットから携帯端末を取り出した男は、画面を一瞥すると煩わしそうにアラームを止める。
「時間が無い。お前に、二つの使命を与える」
いつも見る夢の中で、いつも聞く台詞。
「一つは、バラルの奴らを止めることだ。連中の悪趣味な兵器を一つ残らず破壊し、俺たちの故郷を守ってくれ」
男の顔は分からないのに、この台詞だけは明瞭に聞き取れる。
「もう一つは、大切なものを見つけることだ」
心臓が跳ねる。音が遠ざかる。
「そして――――」
瞼が閉じる。
視界が暗転し、もう何も聞こえない。
夢の終わりが近づき、暗闇の中に沈んでいく意識。
入れ替わるように浮上してくる本来の自我。
わたくしは、いつもここで目が覚める。