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第21話 龍の矛先


 あと3メートル…………2メートル…………1メートル…………ゼロ。


 パラシュートでゆっくりと降下してきた唯は、息を切らせながら土の上に着地した。


「はぁッ、はぁッ、わ、私、生きてるッ」


 久しぶりの再会となった地面に両手をついて倒れ込む。

 足はガクガクと震え、しばらくは立ち上がれそうにない。


 網膜プロジェクターに映る次元障壁残量は51%。

 上空でカラス型械獣と格闘戦をした時は肝を冷やした。

 ここまで意識を保ったまま降りてこられたのも奇跡。

 スカイダイビングなんて2度とやるもんかと固く誓った。


「それにしても、何あれ。デカすぎるでしょ」


 唯が見上げた先には、巨大な翼を広げた龍型械獣がそびえ立っていた。

 4車線の幹線道路はその体躯に専有され、大きな爪がアスファルトの地面を陥没させている。


 今でも夢を見ているような気分だ。


 龍型械獣から放たれた光の柱。

 蒸発する未確認飛翔体。


 あの一撃がなければ、唯が今踏みつけている地面は存在しなかっただろう。


「ッ! 空が!」


 唯の頭上、星空のベールに綻びが生じる。

 と思った途端、街を覆い隠すような空裂が徐々に薄れていった。

 星空の湖が幻と消え、眩しい陽光が地表に戻ってくる。


 残されたのは、時間が止まったかのように動かない龍型械獣。

 唯も械獣に倣い、ごろんと寝転がって息を整えた。


 …………。


 暫く寝転がっていると、地面から僅かな地響きを感じた。


 振動と共に近づいてきたのは、キュルキュルという多数のキャタピラ音。

 気怠げに体を起こした唯の視界に、見覚えのある兵器が映った。


「あれは……無人戦車隊?」


 幹線道路を進軍してきたのは、AMFの遠隔制御無人戦車・VH(ヴォイドハート)の車列だ。

 その数は東から20両、西から20両、南からは40両。

 合わせて80両の無人戦車が龍型械獣を取り囲むように展開する。


「まさか、あのドラゴンと戦うの!?」


 困惑する唯の耳に、頭部装甲のインカムが着信を伝えた。


『こちら司令室。神代隊員、応答してください』


 相手はいつも通り、装者との連絡を担当するオペレーター・桃谷だ。


「こちら神代! この状況は一体? 私、どうすれば……?」


『丙型燃焼杭の残弾数を報告してください』


 言われるがまま増設弾倉を確認する唯。

 カラス型械獣との戦いで4発も使ってしまったので、残りは6発だ。


 報告すると、通話口の向こうでオペレーターたちのディスカッションが聞こえた。

 たった6発で実現可能な作戦があるというのか。


『はい、伝えます…………神代隊員、次の作戦を説明します』


 耳元に戻ってきた桃谷が説明する。


『龍型械獣の体表を観測した結果、次元障壁が展開されていないことが分かりました。この千載一遇のチャンスを逃す前に、我々はあの械獣を破壊します』


「破壊って、簡単に言われても」


 龍型械獣には次元障壁が無い。

 とはいえ、そもそもの大きさと質量が圧倒的だ。

 丙型燃焼杭を数発撃ち込んだ所で、表面の装甲を剥がすだけで終わってしまう。


『この後すぐ、無人戦車隊による飽和攻撃が始まります。

 同時に、索敵装備を集中投入してコアユニットを走査。

 コアユニットの位置が特定され次第、式守影狼は丙型燃焼杭によるトドメ攻撃を行ってください』


「トドメ?」


『あの巨体を動かすためのコアユニットですから、通常の械獣よりも頑丈な可能性があります。しかし、丙型燃焼杭を6発当てることができれば破壊可能、というのが司令室の見解です』


「(…………そんなに上手くいくかなぁ?)」


 心の中で首をかしげる唯。

 つい先程、上空で同じ様な作戦を命じられ、大敗したばかりだ。

 司令室が立案する作戦には不安を抱かざるを得ない。


『代案が無い以上、やるしかありません。次に械獣が動き出した時、あの光が市街地に向けられる可能性もありますから』


 龍型械獣が放った光の柱は、未確認飛翔体を文字通り跡形もなく消し飛ばした。

 あんなものを地上に撃たれたら、この街はまっさらな荒野となるだろう。

 そうなれば唯と梓の生活も終わりだ。


「……了解。やるだけやってみる」


 唯は不安を噛み殺し、龍型械獣に立ち向かおうと腹をくくった。


 だが妙な違和感もある。

 ほんの数時間前まで、唯たちは宙から迫る未確認飛翔体の脅威に晒されていたのだ。

 あの龍型械獣が現れなければ、既にこの街は滅んでいたはず。

 いわば恩人とも言える龍型械獣を倒してしまっていいのだろうか。


『無人戦車隊、攻撃開始!』


 そんな唯の思考を断ち切るように、砲声が空気を震わせた。

 龍型械獣の東西に展開した無人戦車隊が一斉に砲撃を開始する。


「迷っている時間は無いか……集中しないと!」


 唯はマンションよりも大きい龍型械獣を見上げた。


 無数の砲弾が次々と龍型械獣の体表に着弾し、銀色の装甲がひしゃげ、剥がれ落ちていく。

 左右から挟み込むような砲撃で、空を覆う巨大な翼に穴が開いた。

 

 翼の穴から差し込んだ太陽の光が、飛び散った装甲片に反射してキラキラと輝く。

 まるでロックフェスのフィナーレで噴出する銀紙吹雪のようだ。


「ここまでされても動かないの……?」


 龍型械獣は依然としてピクリとも動かない。


 続いて械獣の正面、すなわち南側に展開した無人戦車隊からも砲撃が放たれる。

 今度は翼ではなく、胴体や逆関節の脚部に着弾。


 すると、初めて械獣が反応した。

 陥没したアスファルトから巨大な爪を引き抜き、砲撃を嫌うように1歩、2歩とゆっくり後ずさっていく龍型械獣。


 しかし抵抗虚しく、3歩目の脚を持ち上げた所へ砲弾が直撃した。

 人間の膝にあたる部分の関節がひしゃげ、支えを失った巨体がバランスを崩す。

 龍型械獣の体躯が前のめりに揺らぎ、スローモーションのように傾いていく。


「……って、こっちに倒れてくる!?」


 前方から迫る大質量を前に、唯は踵を返して走り出した。

 ところが、背中の増設弾倉のせいでスピードが出ない。


「う……重いいいいいッッ!!!」


 今すぐ増設弾倉をパージして身軽になりたかったが、龍型械獣を倒すための丙型燃焼杭を捨ててしまったら本末転倒だ。

 焦る気持ちを抑え込み、全力で走る。


 向かった方角は南。

 無人戦車の合間を通り抜け、とにかく一歩でも遠くへ。

 

 直後、械獣の巨体が地面に叩きつけられた。

 地震のような激しい揺れに、無人戦車の履帯が浮き上がる。


「うわあああああッ!」


 衝撃で投げ飛ばされる唯だったが、分厚い装甲の下敷きだけはギリギリ回避できた。


「はぁッ、はぁッ、あ、危なかった」


 息をつくのも束の間、背後から粉塵の壁が襲いかかった。

 ビルや道路がすり潰されて生まれた灰色の暴風だ。


「やばッ!? マスク展開!」


 吸い込んだら肺が危ないと判断した唯は、式守影狼の防護マスクを発動させた。

 頭部装甲の顎下から素早く生えたマスクが鼻上までを覆う。

 忍者のような見た目だが、意外と役に立つ機能だ。


 ぎゅっと目を閉じて瞳を守る唯。

 無人戦車隊からの砲撃も一時中断したようだ。


 風音以外の音が消える。


 唯は暴風の中で膝をつき、舞い上がった粉塵が収まるのを待った。


 …………。


 やがて、背中に吹き付ける風圧が弱まった。


 瞼を開くと、目の前には龍型械獣の頭。

 大きな牙がぎっしりと並ぶアギトに震え上がる。


「…………ん?」


 倒れた械獣の脇に、新たな人影がいた。


 朝日が昇るような黄金色(こがねいろ)の髪。

 美しい髪に引けを取らぬ存在感を放つ、金色の鞘に収まった機械大剣。



「あら? 唯さんではありませんの。ごきげんよう」



 そこには、爽やかな笑みを浮かべる嶺華が立っていた。


「嶺華さん!? どうしてここに?」


 嶺華の格好は瀟洒(しょうしゃ)なブラウスにロングスカート。優雅で落ち着いた淑女スタイル。

 お嬢様が花畑を散歩しに来たかのようだ。

 砲撃と地震と粉塵に包まれた戦場は、あまりにも似合わない。


「ふふ、ちょっとした野暮用ですのよ。唯さんこそ、不思議なお顔ですわね」

「え? あはは……」


 口元に何も付けていない嶺華がくすっと微笑む。

 ちょっと恥ずかしくなった唯は、嶺華に倣ってマスクを外した。


「ケホッ、ケホッ!」


 しかし、まだ埃っぽい空気を吸って咳き込んでしまう。

 嶺華は平気なんだろうか。


「それにしても、今日は大勢ですこと」


 龍型械獣を取り囲む無人戦車隊を見回した嶺華は、機械大剣の鞘に左手を添えた。

 少女の口から、認証の言葉が紡がれる。



駆雷龍機(クライリュウキ)、装動ですわ!」



 右手で機械大剣を引き抜くと同時、世界が割れた。

 空間の亀裂が一瞬にして天へ駆け上がり、暗黒の空が少女を飲み込む。

 異次元の星空から飛来するは、稲妻が刻まれた装甲。



『ライジング・ドラゴン』



 瞬く間に、龍を纏った戦姫が降臨した。


 唯はその凛々しい姿に見惚れるしかない。


「格好良すぎます……」


 胸に抱いていた怯えと不安が吹き飛んだ。

 いかに巨大な体躯を誇る龍型械獣であろうと、嶺華の力があれば打倒できること間違いなし。


「嶺華さん! やっちゃって下さい!」

「ええ。ここからは、お掃除の時間ですわ!」


 駆雷龍機の吸気音が吠え、銀色の機械大剣から紫電が弾ける。

 背部ユニットに格納された龍翼が展開し、ふくらはぎを覆う逆関節副脚が大地を蹴る。



 弾丸のように加速した少女は迷わずに突っ込んだ――――無人戦車隊の中へ。



「なッ!?」


 金属がひしゃげる音と共に、戦車の砲塔が根本から吹き飛んだ。


 嶺華は振り抜いた機械大剣を両手で掴み直すと、その場でぐるりと一回転。

 隣合う2両の履帯を巻き込んで薙ぎ払う。


 ただの斬撃ではない。

 剣筋を追いかけるように電撃が迸り、めくれ上がった装甲に追撃を差し込む。

 眩い光が車内の砲弾を貫くと、無人戦車は内部から弾け飛ぶように爆発した。


 全方位に飛散する金属片が最後の抵抗とばかりに嶺華を襲う。

 至近距離で放たれる爆風と散弾。

 しかし、濃密な次元障壁によって無慈悲に阻まれる。

 黒鉄の装甲には傷一つ付いていない。


「れ、嶺華さん!? 何やってるんですか?????」


 困惑する唯には目もくれず、2両の戦車を一瞬で粉砕した嶺華は次の標的へと跳躍する。

 小さな龍が向かったのは、またしても無人戦車だ。


「次元障壁も展開できない旧式兵器が! 目障りですわ!!」


 恨みの篭った悪態をつきながら、戦車の横っ腹を右足で蹴り上げる嶺華。

 水平方向に吹き飛んだ車体が別の車列に突っ込み、巻き込まれた3両の戦車がボウリングのピンのように薙ぎ倒された。


 攻撃目標を龍型械獣に設定された無人戦車は、突如現れたイレギュラーに対応できず、為す術もなく斬り刻まれていく。


『神代! 何が起こっている!?』


 唖然とする唯の鼓膜を怒声が叩いた。

 直接通信を掛けてきたのは、司令官の佐原だ。


「わ、分かりません! 嶺華さんが……無人戦車隊を襲ってる!?」

『今すぐ止めさせろ!』


 佐原の無線を受け、唯は慌てて暴乱の渦中へと走った。


 戦車の砲塔を輪切りにしている少女に向かって叫ぶ。


「嶺華さん! 待ってください!!」


 だが嶺華は唯の言葉を無視し、次の獲物に飛びかかった。


「はははッ! 駆雷龍機は今日も絶好調ですのぉッ!!!」


 今度は戦車の真上に着地すると、メンテナンス用のハッチを左手だけでこじ開ける。

 露出した制御コンピュータを発見するや否や、容赦なく機械大剣を突き刺した。


「ここが弱点ですの? ふんッ!」


 脳を失った無人戦車は爆発することすら許されず、沈黙。

 これで戦闘不能になった無人戦車は10両を超えた。


「ふむ……なかなか効率のよい壊し方が定まりませんわねぇッ」


 嶺華が戦車の屋根から飛び降りた所で、唯はもう一度声をかける。


「嶺華さん! 私の話を聞いてください!」

「なんですの? わたくし、今忙しいのですけれど」


 不機嫌そうに立ち止まる嶺華。

 その目は次に襲う戦車を見定めている。

 唯は彼女を刺激しないよう、なるべく落ち着いた声で制止を試みた。


「この戦車は私たちAMFの兵器です。敵じゃありません。だから、壊さないでいただけませんか……?」


「知りませんわ。ヴァルガイアの敵はわたくしの敵ですの」


「『ヴァルガイア』?」


 聞き慣れない単語に首を傾げる唯。


「老兵の露払いもわたくしの役目。唯さんこそ、邪魔しないでくださいまし」


 彼女が無人戦車を破壊する理由。

 彼女が背中を向ける存在。


「まさか『ヴァルガイア』って……その龍型械獣のことですか!?」


 唯が地面に横たわる巨体を指差すと、嶺華はムッとした表情で答えた。


「野蛮な機械共と一緒にされては困りますの! ヴァルガイアは敵ではありませんわ!!」


「!? それってどういう……?」


 龍型械獣について詳しく聞こうとした唯を遮り、砲声が鳴り響いた。


 1発、2発、3発と立て続けに上がる爆炎。

 東西に展開した無人戦車隊から再び砲撃が始まったのだ。


 唯の周りに展開した戦車も、動ける車両から続々と砲塔を回転させていく。


『神代! お前はそこでカミナリ装者を足止めしてろ! その間に無人戦車隊で械獣の装甲を削り取る!』


 どうやらAMFはイレギュラーな嶺華のことを一旦無視し、先に械獣を無力化する作戦のようだ。


「チッ……全く、助けて差し上げた恩を仇で返すなんて許せませんわ! 無礼者にはお灸を据えてあげませんとねぇッ!」


 下品に舌打ちした嶺華は腰を低く落とし、跳躍体勢をとる。

 このままでは無人戦車隊が全滅してしまう。


 唯は嶺華の進路を阻むように立ち塞がった。


「どんな事情があるかは分かりませんけど、無人戦車隊は私たちの貴重な戦力なんです! 壊されるのを黙って見てる訳にはいきません!」


「唯さん、貴方に危害を加えるつもりは無かったのですけれど。

 …………仕方ないですわね」


 嶺華が呟いた時。

 唯の視界から、龍の装甲がフッと消えた。


「え?」


 唯の背後から透き通った声が囁く。


「ちょっと大人しくしていてくださいまし」



 次の瞬間、全身の筋肉を痛みが走り抜けた。



「がぁッッッ!??」


 明滅する視界。迫る地面。


 電撃を纏う機械大剣を背中に押し付けられた。


 脳がそう理解する頃には、唯はうつ伏せに倒れていた。


 緊張しきったまま硬直した体は、指一本動かすことができない。

 半開きになった口から漏れるのは、掠れた声のみ。


「ぅあ……れ、れいかさん…………」

 

 嶺華は動かなくなった唯を一瞥すると、再び周囲の戦車に襲いかかった。


「雑魚はひれ伏しなさい! わたくしがスクラップにして差し上げますわ!!」


 銀色の機械大剣を携え、無人戦車隊へと突貫する雷の龍。


 斬って、斬って、斬って。

 爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。


 破壊を振り撒く様は、荒れ狂う嵐の如く。


 ふと気づけば、龍型械獣に砲を向けた戦車は1両残らず全滅していた。


「そん……な…………」


 黄金色の美髪は遥か遠く。

 手を伸ばすことすら叶わない。


「ヴァルガイア! コアユニットのリカバリーは終わりましたの?」


 嶺華が大声で呼びかけると、龍型械獣はのそのそと体を動かし始めた。

 半壊したビルを押しのけるように前脚を下ろし、四足歩行形態へと移行。


 ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


 雄大なアギトが天を仰いで咆哮すると、足元の道路がぐにゃりと歪む。

 否、歪んでいるのは空間そのものだ。

 太陽光が捻じ曲げられ、黒い影が波紋のように空へと広がっていく。


 影の中に流れ星のような光が見え始める頃には、龍型械獣が現れた時と同じ超巨大空裂が街を覆っていた。


「次元障壁展開! さっさと帰りますわよ!」


 嶺華の声に呼応するように、龍型械獣の剛角が淡く輝き出す。

 すると、50メートルの巨体がふわりと浮き上がった。

 仄暗い星空へと沈み込むように、械獣の巨体が上昇していく。


「やれやれ、無茶しましたわね……」


 機械大剣を握りしめたまま見送る少女。


 やがて銀色の翼が完全に見えなくなると、嶺華は後を追うように星空の中へと飛び込んだ。


 主を迎え終わり、逆再生のように収縮していく空裂。

 黒い影に代わって顔を出す太陽。



 再び陽光が照らした路上は、戦車の屍で溢れかえっていた。



 ◇◇◇◇◇◇



『…………状況終了。生き残った無人機は全機帰投せよ』


『式守影狼を直ちに回収! 医療班は装者の搬送準備!』


 耳元に入る無線の声が、どこか遠くに聞こえた。


 体の痺れはとっくに解けている。

 だが立ち上がる気力がない。


 ひび割れた道路の上で仰向けに寝転がった唯は、晴れ渡る空をぼーっと見上げていた。


「私…………嶺華さんのこと、何も知らないなぁ」


 無知の知。

 唯は改めて、ミステリアスな少女の言葉を思い返す。


 アームズのこと。

 出自のこと。

 龍型械獣のこと。

 そして、唯だけに話してくれた戦う理由。


 地球を、色鮮やかな景色を守りたい。

 あの言葉は偽りだったのだろうか。


 考えても、考えても、分からなくて。

 唯は。



「……………………まだ、諦めたくない」



 心の奥底にある情動が、憧れが。

 疑うことを拒絶した。



 唯を装者として認めてくれた時の、優しげな表情。

 家族がいないと語った時の、寂しげな表情。

 食事に誘った時の、ちょっぴり嬉しそうな表情。


 あの顔が全てが偽りだったとは思えない。


 だったらどうして、械獣を従えていたのか。

 彼女は何者なのか。

 どこから来て、どこへ向かうのか。


 ただ、彼女の心が知りたい。


 人類の味方かどうかなんて関係ない。


 彼女が遠いのなら、こちらは追いかけるまで。

 徹底的に追いかけて、必ず秘密を暴いてやる。

 そして、絶対にとびきり美味しい飯を食わせてやる。


「嶺華さん、待っててください」


 決意を固めた唯は、雲ひとつない青空に向けて拳を掲げた。


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