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第19話 未確認飛翔体迎撃戦II


 再び現在、時刻は正午。


「まさか本当に承認されるなんて……」


 第二次迎撃隊の隊長機の中で、唯は憂鬱な表情で呟いた。


 突如として地球の近くに出現した未確認飛翔体。

 AMF関東第三支部は、対衛星ミサイルによる撃墜作戦を立案した。


 だが、作戦とは常に上手くいかなかった場合のことを考えておかなければならない。

 対衛星ミサイルの代わりとなるサブプランが必要だった。

 作戦立案に頭を悩ます佐原の前に、岡田は待ってましたとばかりに作戦案を提出。


 その結果、増設弾倉を装備した式守影狼を突撃させる無謀作戦はあっさりと決定してしまった。

 唯の異論を伝える間もなく、いきなりこんな輸送機の中に詰め込まれている。


「ふざけた作戦だよ、全く」


 そもそも、岡田の作戦は地上にいる械獣を想定していたはずだ。

 宇宙から飛んでくる謎の物体に通用するかは未知数だった。


『第一次迎撃隊、射程圏内まで到達!』


『全機、T3弾頭弾発射…………命中!』


 アームズの頭部装甲に備え付けられたインカム越しに、司令室の状況が伝わってくる。

 機内に固定された体勢では窓の外を覗けないが、今頃上空では大きな花火が弾けているのだろう。


『……、……』


 数秒間、司令室からの音声が途切れる。


「どうなったの…………?」


 爆発の衝撃から観測機器が復旧するのを待っているのか。


 唯は自分の出番が来ないことを祈りつつ続報を待った。


『未確認飛翔体、進行軌道変わっていません!』


 耳に飛び込んできたのは、残念なお知らせ。


『次元障壁は推定90%以上を維持。地表到達まで約15分!!』


『第二次迎撃隊を出撃させろ!』


 佐原の号令が聞こえた直後、足元から伝わる振動。

 唯を乗せた輸送機が加速を始めたのだ。

 がたがたという揺れと共に、感じる重力の向きが斜めに変わっていく。


「どわッ!!」


 浮遊感、刹那、急上昇。

 唯は自分の体が真後ろに投げ飛ばされたかと思った。

 凄まじい加速により、全身が締め付けられるようなGが襲いかかる。


「ぐぐぐ…………人を乗せてるって扱いじゃないよね????」


 装者はアームズの訓練の一環として耐G訓練を受けることもある。

 しかし、唯でもこれほど暴力的な加速は経験したことがなかった。

 式守影狼の身体補助が無ければ、内臓はとっくに破裂していただろう。


『こちら司令室! 神代隊員、応答願います!』


 オペレーターの桃谷からラブコールがかかってきた。

 舌を噛まないように気を付けて返事をする。


「こちら神代……手短にお願いッ!」


『未確認飛翔体と接触まで約60秒! その前に作戦を説明しますっ!』


 桃谷の声は震えている。

 唯が失敗すれば、基地や街の人間全員の命が消し飛ぶのだから当然か。


『まず、随伴機がT3弾頭弾による陽動攻撃を行います。

 未確認飛翔体は着弾位置に次元障壁を集中展開させるはずです。

 その隙に、隊長機を着弾位置の反対側に移動。

 至近距離まで近づいたら、式守影狼を直撃コースで投下します。

 神代隊員は丙型燃焼杭を連発し、未確認飛翔体の進行軌道を逸らしてください!』


「了解! って言うしかないんだけどッ!!」


 通信を聞きながら、唯は心の中で頭を抱えた。


 作戦に無茶がありすぎる。


 未確認飛翔体がT3弾頭弾の着弾位置に次元障壁を集中させたとして、反対側の次元障壁が手薄になるという確証は無い。

 式守影狼の耐久も心配だ。

 高速飛行する未確認飛翔体にしがみ付くだけでも負荷がヤバそうなのに、至近距離で爆発する丙型燃焼杭の反動を全て受け止めなくてはならない。

 さらに、帰還するまでに次元障壁を使い切ったらアウト。

 着地用のパラシュートも積んではいるものの、オーバーヒートした式守影狼を抱えて数十キロメートルを自由落下なんてしたら、唯の体はバラバラ千切れてしまう。


『ご武運を!』


 桃谷はそれだけ言うと、再び通信を一方通行に戻した。


 ごうごうというエンジン音が一層大きくなるにつれ、緊張感が高まっていく。


「こうなりゃ自棄でもやるしかない…………!」


 覚悟を決めた唯は、アームズの拳をぎゅっと握り締める。


 やがて、唯の足元のハッチが開いた。

 眩しい太陽の光が機内に溢れる。


 眼下に広がるのは、半透明の雲海。

 その下には関東の街並みが広がっているはずだが、遠すぎて建物1つ1つを視認することはできない。


 絶景に見惚れる暇もなく、唯を固定していた金属アームがゆっくりと降下を始めた。

 式守影狼の半身が外気に触れると、冷たい風が肌を刺す。


「あれが……」


 天空から入射する巨大な影。


 唯を乗せたCL輸送機は、未確認飛翔体の斜め上方に位置取っていた。

 進行方向はほぼ同じ。

 速度は輸送機の方が早い。

 飛翔体を挟んだ反対側には、オレンジ色のミサイルを積んだ随伴機・ヴォイドファイターが確認できる。


『第二次迎撃隊、攻撃用意!』


 4機の無人戦闘機は角度を変え、飛翔体の側面をロックオン。

 T3弾頭弾の発射体勢が整う。



 その瞬間、随伴機の主翼が吹き飛んだ。



「なッ!?」


 続いて、別の随伴機のエンジンが抉り取られるように消失。

 突如バランスを失った機体はくるくると錐揉み回転しながら落下していく。


『何だ! 何が起こった!?』

『分かりません! ……いやこれは、まさか』


 気が動転したような紫村の声が響く。



『未確認飛翔体じゃない! 新たな械獣です!』



 慌てて周囲を見回す唯。


 白い雲の世界に、影を落とす不純物が一つ。

 太陽に背を向け、一対の真っ黒な翼が旋回しているのを見つけた。


「あいつかッ!」


 体長はおよそ3メートル。

 翼を広げた横幅は5メートル程か。

 頭部に鋭い嘴。

 2本の足には4本の鳥爪。


 まるで、カラスを巨大化させたような械獣だった。


『どこから現れたんだ? なぜ今まで検知できなかった?』


 AMFの観測装置は、熱や振動といった単純な観測データの組み合わせから、コアユニットや次元障壁の展開パターンを検知することができる。

 だが今回の械獣は、無人戦闘機が襲われるまで発見できなかった。


『未確認飛翔体の反応が大きすぎて、械獣の反応が隠れてしまったのかと』

『チッ、向こうも随伴機を連れている可能性を考慮すべきだったか』


 械獣は翼を力強くはためかせ、弾丸のように加速。

 一瞬で無人戦闘機に追いつくと、すれ違いざまに嘴を突き立てた。

 主翼を砕かれた無人戦闘機は空中でバラバラに分解。


 唖然とする唯の真下で、4機の随伴機はあっけなく全滅した。


 カラス型械獣の首がぐるりと回る。

 最後の標的はもちろん、唯の乗るCL輸送機だ。


「まずい!」


 唯は自身に繋がれた金属アームを掴むと、思い切り体を引き上げて機内に戻る。


 直後、輸送機の真下を黒い嘴が通り抜けた。

 あと1秒判断が遅れていれば、唯の体は串刺しにされていただろう。


 輸送機の窓に顔を近づけ、外の雲海を覗く。

 械獣の姿は見当たらない。


「どこ行った?」


 唯が呟いた瞬間、巨大な鳥爪が輸送機の天井を突き破った。


「うわッ!」


 激しく揺れる機内。

 慣性力によって壁に叩きつけられる唯。


 続いて2本目の脚が突っ込まれ、変形した床をがっしり掴む。

 輸送機に取り付いたカラス型械獣は、機体を捻るように振り回した。


「くぅぅぅ……!!」


 感じる重力の方向が滅茶苦茶に変わる。

 増設弾倉のせいでうまくバランスが取れない唯は、機内の壁に必死にしがみつくしかない。


 窓の外を見ると、未確認飛翔体がどんどん離れていく。

 カラス型械獣は輸送機を遠ざけようとしているようだ。


 このまま飛翔体を見逃してしまったら、南関東は焦土に変わってしまう。


「とにかく、先にこいつを何とかしないと!!!」


 唯はなんとか体勢を立て直すと、黒光りする械獣の脚に手を伸ばした。

 次元障壁同士が反発し、接触面からバチバチと火花が散る。

 械獣の脚を掴んだ所で、左手側の安全装置を解除。


「くらえッ!!」


 唯は鳥爪の付け根部分に赤い杭を押し付け、トリガーボタンを押し込んだ。


『ヒートストライク』


 高速回転しながら射出された丙型燃焼杭が械獣の装甲に突き刺さり、即座に爆発。

 械獣の脚は根本からばっきりと折れ、4本の爪がハッチの穴から落下していった。


「全力で行かないと間に合わないッ!」


 本来ならば丙型燃焼杭は未確認飛翔体に当てるため、1本でも多く温存したい。

 だが、飛翔体の元へ辿り着けなければ意味がない。

 今は一刻も早くカラス型械獣を倒さなければならなかった。


 唯は続けて攻撃を放つべく、右手側の安全装置も解除する。



 右腕を振り上げた瞬間、天井から鋭い嘴が襲来した。



「ぐぁあああッッ!!!!」


 お腹に強烈な衝撃。

 視界が180度回転し、輸送機の床を突き破る。


 自分の体がカラス型械獣に咥えられていると理解するまでに4秒かかった。


「このッ! 離せッ!!」


 唯は両腕を振り回し、必死に嘴を殴りつける。

 しかし、凄まじい力で締め付けてくる嘴は全く外れなかった。

 カラス型械獣は滅茶苦茶な軌道で飛び回り、唯の体力を奪う。

 頭部のカメラが唯を嘲るように見つめていた。


「こんな所で死にたくないッ……!」


 唯は2転3転する視界に目を回しながらも、右腕を力いっぱい頭部に叩きつけた。


『ヒートストライク』


 丙型燃焼杭は械獣の顔面に突き刺さると、カラス型の嘴を木っ端微塵に爆散させた。

 唯を戒めていた拘束具が解かれる。


「よし!」


 自由を取り戻した体が重力に捕まる前に、両足を械獣の胴体に絡めてしがみ付く。


「まだまだッ!」


 背中の増設弾倉に両腕を回すと、新しい丙型燃焼杭が自動的に接続される。


 頭部を失い、でたらめに翼をばたつかせるカラス型械獣。

 その不気味で非生物的な鉄塊に引導を渡す。


「はああああッッッ!!!!!!!!」


 暴れる胴体を2本の杭で挟み込んだ唯は、左右のトリガーボタンを同時に押した。


『『ヒートストライク』』


 赤い切り札が次元障壁を引き裂き、黒い装甲をねじ切るように突き進む。

 胴体のコアユニットを貫いた直後、凄まじい大爆発。


 械獣の装甲がバラバラに崩壊し、黒い翼は雲海の彼方へと千切れ飛んだ。



 未確認飛翔体の地表到達まで、残り5分。



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