第二話:イカれたメンバーを紹介するぜ
「───やーっぱ誰もいねえー」
「ぶっちゃけもう慣れたわこの状況」
「順応ってやつ?」
「おれはまだちょっとゾワゾワする……」
「つか移動手段どうすんの?また歩き?」
「しかねぇだろ」
「やっぱそうなるかぁ」
「車がありゃあなぁ」
「頭に自と転のつく車ならあるぜ」
「自転車じゃ三人乗れんだろ」
「押すだけでもちょっとは違うって言うやん。
年寄りが手押し車支えにするみたいにさ」
「だってさトメ。
支えてもらえよバイセコーに」
「えっ、おれだけいいの?」
「一番必要っしょ?
まー、オレとテルもくたびれたら代わってくれだけど」
「恩に着る」
「肉襦袢の上に?」
「お前には貸してやんねえ」
最終目的地は、初日と同じく中央駅。
移動手段は、徒歩ときどき自転車。
嫌な既視感に早くも気持ち削がれつつ、オレの自宅マンションを後にする。
「───途中どっか寄ったりせんの?」
「どっかって?」
「どうせ食いモンの心配だろ」
「あたり。
正解者にはおれの鼻くそプレゼント」
「受取拒否でお願いします」
「食いモンつっても、店はどこもやっとらんわけだし……」
「コンビニでも寄るか?」
「それしかねーかぁ」
「じゃさじゃさ、今度はホットスナックとかおにぎりとか、既製品以外もトライしてみね?
安全性は初日のでだいぶ確立されたわけだし」
「確立されたのかアレは?」
「いいけどトップバッターお前な」
「そうだぞ言い出しっぺ」
「任せろ。骨は拾ってくれ」
「死んでるじゃねえか」
ぶつくさ文句を垂れながらも、足は止めない。
代わり映えのない景色を、ひたすら歩き続ける。
おかげで、初日より遥かに行動範囲が広がった。
稼いだ距離で言えば、ここまでの一時間が、初日の丸一日分に相当する。
だが、それだけでは二日目の意味がない。
広げた行動範囲の中で目新しさを見付けない限り、強くてニューゲームの強みを活かせたことにならない。
「───おーまえ、まーたグミかよ」
「ほっとけ」
「からあげ……、アメリカンドック……」
「お前はマジでいくの?」
「いく。トライするって決めたもん。
後はアンドエラーしてターンエンドだ」
「結局ダメじゃん」
「ほんならオレも、おにぎりくらいは行ってみよかな……」
「おっ、道連れか?」
「不吉な言い方はやめたまえ。
二日連続で既製品オンリーはどうかと思っただけだ」
「飽きた?」
「飽きたってか、色々試すんなら早いうち済ませた方が楽だろ。
どんなけ長丁場になるか分からんだし」
「だから三日目ある前提にすんなってば」
その割に、オレ達自身の緊張感はまるでない。
だから文句は垂れても、態度は悪くならない。
多少なり、気を遣っている部分はある。
照美も早乙女も、オレも。
二人に迷惑をかけないよう、取り返しのつかないヘマをやらかさないよう、自重も自制もある程度はしている。
ただ、そういう気を遣わなかったとしても。
文句を垂れて、不機嫌な態度を露骨に出したとしても。
後には引かない。
どれほどの衝突も軋轢も、起きてすぐ終わる。
経験上、喧嘩っぽいことをして、翌日に持ち越した覚えがないのだ。
たぶん、オレ達だから。
オレにとっての照美と早乙女だからこそ成り立つ関係性。
他にも何人か友達はいるけれど、こんな特殊な友達は二人の他にいない。
「───どう?」
「ぜんぜん食えるよ。ほんのり温ったかいし」
「あー、12時が起点なんだったな。
そっちは?」
「こっちもぜんぜんフツー。いつものおにぎり」
「味は問題なし、か。
食べ終わってからが楽しみだな」
「オレとトメだけ急にバケモンなったりしてな」
「異世界の食べ物を口にするとなんたらかんたら」
「千と千尋?」
「そう言うお前はいいわけ?頑なにグミ一筋だけど」
「初日はポテチも食った」
「挟めばいいってもんでもないだろ。
毎日毎日ほんと、よく飽きないな」
「お前らだって別に、毎日一緒にいるけど飽きるとかねーだろ」
「アラ……」
「ヤダ……」
「オイやめろその顔」
「突然のデレ」
「小数点以下でました」
「今すぐ飽きてやろうか?」
照美照輝。
通称テル。
黒髪に眼鏡で一見するとクールインテリキャラだが、蓋を開けると中身はメンヘラサイコキャラ。
オレ達の中で最も総合的なスペックが高く、オレ達の中で最も口の治安が悪い。
陰湿で粗野で繊細で博識で情緒不安定で排他主義で筋金入りのアニメオタクと、相反する性質を併せ持つ。
要するにデレが小数点以下のツンデレ。
TPOに合わせてモブだったり主人公になったりする。
"属性過多マン"、
"エンドレスタイフーン"、
"歩く顔面詐欺"、
"ヤ○ザ"、
"目を合わせてはいけない人"
などなど、界隈によって様々なアダ名で呼ばれる。
「───ぽっぽたゃに会いたいよぉ」
「こっちは発作が出たな」
「なんで会いたいの?」
「えっ、怖いこと聞く……」
「いやそうじゃなくて。
会いたいは会いたいでも、どの類いの会いたいなんかなーて」
「どゆこと?」
「たとえば、"顔見て安心したい"なのか、逆に"顔見ないと不安だから"なのか、シンプルに性欲なのか」
「あー、会いたいの根源はどれかって話?」
「そうそう」
「んー。今ので言うなら全部かもだけど……。
これが理由!原因!みたいなのは正直、自分でも分からんかなぁ。
ただ会いたいから会いたいじゃダメ?」
「J-POPの歌詞やん……」
「やめとけニーナ。童貞には解せない領域にいるんだ彼は」
「なに達観した物言いしてんだ?オレ達はしょせん目糞鼻糞だ?」
「いいや俺は耳糞だ。こじらせ童貞とは一線を画しているんだ」
「こじらせ具合で言ったらお前のが大概だろ」
「あはは。君達も早くおれのいるステージまで上がってこれたらいいね」
「キィィィィ!余裕のある大人!」
早乙女雅。
通称トメ。
オレ達の中で唯一の彼女持ちにして、オレ達の中では一番の常識人。
まるで漫画にでも出てきそうな名前をしているが、本人は雅さのカケラもないデブである。
彼女ほしさに大学デビューするも失敗し、
ヤケを起こして食い気に走り、
順調に肥え太った結果ぽっちゃり好きを自称する学園のマドンナに見初められる、
という奇跡の逸話を持つ。
彼女からは"ぴっぴたそ"、トメの方は"ぽっぽたや"と呼び合っているらしい。
オレとテルは憧れと憎しみの念を込めて、"ミラクルデブ"と時たま呼んでいる。
「───いま何時?」
「ちょうど3時回ったとこ」
「まぁまぁ歩いたな」
「歩いただけな」
「なんかごめん」
「は?なに謝んの」
「やー、なんか、結局むだ足かなって。
やっぱ最初から駅行って、時間まで待った方が良かったかなって」
「イマサラ~」
「ニーナが謝ることじゃないよ。
おれもテルもそうしようって決めたんだし」
「つか夜まで駅で待つ方が無理。暇すぎて。
だったら無駄足でも、その辺うろつく方がマシ」
「トメは?しんどくない?」
「手押し車サマサマです」
「無理してない?」
「してないしてない。
むしろ、おれのがずっとごめんだよ。迷惑かけたり心配かけたり……」
「二人ともウッセーよ。キリねえから謝るの禁止」
「わかった」
「了解でーす」
そして、オレ。
通称ニーナこと、新名良太。
汚い金髪のせいでよく誤解されるが、実際はヤニもタトゥーもギャンブルも嗜まない。
酒はビール三口でベロベロに酔う。
勉強は普通。運動も普通。
交遊関係も生い立ちも、極めて普通の普通尽くし。
強いて特徴を挙げるなら、実家が割と裕福なのと、人よりちょっと性格が明るくて声が大きいことくらい。
それ以外は及第点とれれば御の字。
自他共に認める平均ド真ん中の凡人である。
「───あー、さすがにただ歩くだけはダレてきたかも」
「そろそろ代わる?」
「ニーナは?」
「オレまだ元気。お先どうぞ」
「んじゃ、そうさせてもらうわ」
「ってオイ!乗るなバカ押すんだよ!」
「颯爽と走り去るなコラァ!」
普通そうに見えて、実は変わり者の照美と早乙女。
変わり者に見られがちで、実は普通なオレ。
二人がオレをどう認識しているかはさて置いて、オレは二人を好いている。
尊敬して、感謝もしている。
"異空間こと、この世界に自分一人だけでなくて良かった"。
"自分以外の登場人物が、この二人で良かった"。
それに加えて、
"照美と早乙女以外の友達はもはや、中途半端に出てこないでほしい"。
そんな風に思ってしまうほどに。
「───だからさぁ、余計な運動いらんのだって」
「つい」
「つい、で分かりにくいボケすんなボケ!」
「いい気分転換なったろ?ルーチン化しかけてたし」
「一理あるのが尚のことムカつくわ」
もし。
異空間を無事に脱出して、今が笑える過去になって、本当に論文なんかに着手する機会が訪れたら。
オレは、異空間がどれほど特異で奇妙な場所だったかよりも、二人がいかに特別で大切な存在かを主題にするだろう。




