第一話 異変
バスに揺られること約30分。寂れたバス停で降りて、さらに歩くこと15分。
ようやく我が家…ではなく家がある山の入り口に着く…
「はあ、はあ…」
高校に通い始めてもう二年がたつが、未だに息が切れる。
お世辞にも気持ちが良いとは言えない薄暗い山道はいくら舗装がしてあっても歩きにくい。
そうして歩くこと約30分。
唐突に視界がひらけた。
純和風の家屋、田植えしたばかりの棚田、だだっ広い畑に名も知れぬ木々。
これが僕の家だ。
この家には、僕と父2人だけが住んでいる。
母親はもの心ついた時にはいなかった。
交通事故に遭ったと聞いたのはいつのことだっただろうか。
父も母も親戚との縁は薄いため、親戚なんて1人も見たこともない。
だが、僕には父がいればそれで十分だった。
もちろん、学校までは遠い上に友達と遊ぶことさえままならなかったのは残念だったが。
玄関の扉に手をかけてふと違和感を感じた。
あまりに人気がない。
「父さん、ただいまー」
家の中に入って呼びかけてみるもなんの返事もない。
もう薄暗いのに電気のひとつもついていない。
「…父さん?」
不安に駆られて荷物を投げ出して家中を探し回った。いない。
どんどん闇が広がっていく。暗い。
僕は靴を引っ掛けると外に飛び出した。
(父さんがいないなんてことは今までなかった…絶対何かが起きたに違いない!)
そのとき。
ふわり、と何かが僕の鼻をくすぐった。どこか、懐かしく妙に惹かれる匂いだった。
行ってはならない、そう理性が叫んでいるのに、気づけば早足に、いつの間にか走り出していた。
「…あっ!?」
濡れた枯葉に滑って斜面を転げ落ちた…