ガラスの靴は誰のもの? その1
悲劇は、学祭二日目に起こった。
その日も俺は生徒会の仕事をこなすため、朝イチで会長から紙の束を受け取り、予定通り会場内を歩いていた。そして自分のクラスに来た時だ。
「御竿くん!」
「猫……、巧巳」
なかなか騒がしそうな中、猫汰が見回りに来た俺を見つけ「ちょうどよかった」と手を引っ張り出した。
「え、何?」
「ちょっと予想外のことが起こってね」
予想外? なんのことかわからず、俺は騒がしい教室内を見渡す。なんだ、俺のクラス、こんなに人数が少なかっただろうか。いや、太刀根みたいに部活の催しに行ってる奴もいるから、全員がいるとは限らないんだけど。
それでもパッと見でわかるくらいには少ない。一体どうしたんだ?
「実は昨日、先生方の屋台焼きを食べた生徒のうち、何人かが体調不良を訴えてね」
「……ん?」
「どうやら一年の先生が焼いていた何かに、口には言えないナニカが入っていたようでね。それを口にした生徒は、高揚し、熱に浮かされ、動悸が激しくなるらしい」
「へ、へぇ……」
昨日の屋台焼きを思い出す。そういや俺は、鏡華ちゃんたちのたこ焼きしか食べていないし、違う屋台の何かを食べた生徒が、股間を押さえてトイレに行っていた気も、する……。
「それのお陰で、僕たちのする劇の人数が足りないことになってね。何人かに声はかけているんだけど、急遽、劇をやれる人なんてなかなかいなくて……」
「そ、そうか」
あっれー。これは確認を怠った俺のせい? いや俺のせいだよな。後ろめたさで猫汰を見れず、俺は「じゃ、じゃあ」と背を向けたところに。
「我が生徒会が手を貸そう」
「会長!?」
髪を手でさらりと払い、腕組みをした会長が現れやがった。いや、あんたも仕事あるんじゃないの!? とツッコみたいのも山々だが、俺は会長の言葉が気になり、
「会長、今なんて……」
と復唱を促した。もちろん会長は、当たり前だと言わんばかりに俺を鼻で笑うと、
「いや何。我が生徒会の不手際で、今回の事態を招いたも当然だと思ってな。準備をしてきた生徒のためにも、ここは我が生徒会が手を貸すべきだと思ったのだ。なぁ、護くん?」
「ひっ、あ、あぁ、そっすね」
俺は引きつった笑いを返す。昨日の俺、なんでちゃんと調べなかったんだよ馬鹿野郎。
猫汰を見れば、多少合点はいってなさそうではあるが、それでも納得はしたらしい。すぐに健康な生徒たちに声を掛けていき説明すると、心底嫌そうに眉を寄せながら、会長に分厚い紙束を突き出してきた。
「これが演目です。アテはあるんですか?」
受け取った紙束を、俺も横から覗き込む。表紙には、かの有名なガラスの靴を落としてしまうお姫様のタイトルが書かれてある。ふむ、オリジナルじゃないなら、付け焼き刃でもなんとかなりそうだ。
更にページを捲れば、役名と演者の名前が書いてある。しかし、何名かの演者は線が引かれており、それが足りない役者ということは一目でわかった。
「足りないのは八人か。任せておくがいい。このオレが、一流の演劇にしてやろう」
「八人……? 会長、まさか俺も入ってます?」
「当たり前だろう! 護くん、キミには映えある娘役をしてもらおうか!」
「だー! やっぱりかよ!」
せめて男役にしてほしかったが、元はといえば自分のせいでもある。俺は重いため息をつきながら、猫汰に渡された台本に目を通し始めた。




