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恐怖体験、コミックマーケット! その7

 アマゾンの奥地に行ったことがあるか? 俺はない。だけど今の気分はそんな感じだ。

 未知への遭遇、そして邂逅、そこから流れてくる快感。俺は今、この“人外エリア”にて、新たな自分の性癖と向き合っていた。


「御竿くん」

「うーん」

「御竿くん」

「うん」

「はぁ……。御竿くん」

「おわっ」


 耳に息を吹きかけられて、俺は自分でも驚くほどの跳躍力を発揮し飛び上がった。それを見た猫汰が顔を背け、肩を微かに揺らす。どうやら笑っているらしい。


「な、何、猫……巧巳」

「いや、随分熱心に見てるなって。キラキュアだよね、それ」

「そうそう」


 俺が見ているアニメ“お掃除戦隊☆キラキュア”は、掃除用具をモチーフにした女の子たちが、世界の汚れを落とすために日夜紛争している話だ。

 そのキラキュアの二次創作であろう表紙には、ピンク髪の子が、反乱を起こした掃除機に吸われている絵が書いてある。人外ってそういうことかよ。


「君が好きなのは、確か黄色の子だっけ」

「そうそう、モップリンな……ってなんで知ってんの」


 先に言っておくが、俺は猫汰どころか、学校でキラキュアの話なんてしたことない。俺がキラキュアを見ていることも、好きなことも、ましてや推しがモップリンであることも知らないはずだ。


「僕は君のことならなんでも知っているよ。推しがモップリンなのも、その相手の子が白髪のホウキナコなことも」

「やめて、暴露しないで!」

「ほら、これなんか君が好きそうだけど」


 猫汰が手にしたのは、モップリンとホウキナコが抱き合う、なんとも百合百合しい表紙の薄い本だ。なぜか二人してスクイジーの柄を舐めている。汚いからやめなさい。


「まずさ。まずね、俺の趣味嗜好を決めないでくれますかね?」

「嫌いかい?」

「大好物です、ありがとうございます」


 にしても。

 BLゲーのくせに百合とは。一体何を目指してんだ、この運営は。いや、これはメインに関係ないからアリなのか?


「すみません、これください」

「ありがとうございます」


 考えてもしょうがないし、とりあえず俺は代金を支払って本を受け取る。人外って、もうちょっと違うもん想像したんだが、確かに人外だし嘘は言ってない。

 後で楽しむとしよう。あかん、顔がニヤける。


「ねぇ御竿くん」

「ん?」

「結構楽しんだと思うし、そろそろ出ようかと思うんだけど」

「っと、そうだな。会長は? 来てない?」

「大丈夫。ここに来る途中のブースで止まっているよ」


 会長が好きそうなもんあったかな。いや、考えたくない。俺は頭を横に振ってから「ならいい」と歩き出す。


「にしても、猫汰も好きだったのか? キラキュア」

「ん? まぁ、好きというか、あの格好、いいなと思ってね」

「だろ!」


 まるで同志が出来たみたいで嬉しい。しかし、


「御竿くんに似合うと思うよ」

「は?」


 何。似合う? 何が?

 つい足が止まる。行き交う人に邪魔にならないか不安になったが、そこは主人公補正なのか、それとも進行上の都合なのか。誰も俺たちにぶつかることはない。


「モップリンの服。御竿くんなら可愛く着こなせると思うんだ。僕はホウキナコを着るから」

「着こなしたくないし、それを着て何すんの。ハロウィンにはまだ早いからな?」

「僕はいつでもいいよ。慌てなくて大丈夫」

「だから着ねぇって」


 着る着ないの押し問答を続けながら、会場の出口を目指す。しかし俺は忘れていた。会長よりもある意味厄介な、ヤバいあいつもまたこの俺を探していたことに。

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