恐怖体験、コミックマーケット! その1
無人島事件からどれくらいか過ぎ。
暦は八月へと変わった。
宿題はほとんど終わらせ、残るは自由課題だけ。自由課題というのは、自分の興味あることを調べたり勉強したり、まぁそんな感じの課題だ。
グループで終わらせてもいいとのことで、太刀根に相談したら、二つ返事で全部やると言ってくれた。持つべきものはやっぱ友達だよな、うん(鬼の所業とは言うまい)。
「さてと……、キラキュアでも見っかな」
ネットでよくある月額制(ここ大事)のアニメサイトで、俺は最近ハマったアニメを見ようと、折り畳み机を出してからそこにスマフォを固定した。続きを見ようとタップしていると、
〜〜♪ 〜♪
「……」
スマフォから音が鳴り出した。なんだ、このタイミングは。デジャヴを感じるぞ。絶対に出ないからな!
〜♪ 〜〜~♪
「しつこいなぁ。諦めりゃいいのに」
「それなら早く出てくれませんか〜?」
「ぎゃあああ!?」
背後から聞こえた声に、俺は思わず飛び上がった。その衝撃で折り畳み机に足をぶつけた、とても痛い。
「何! なんで部屋にいんだよ!?」
そう振り向けば、当たり前ですよと言いたげな視線を向けた観手が、にんまりとその口元を歪めていた。
「お母さまは入っていいって言ってくれましたよ?」
「ちょっと母さん! なんでこんなヤバい奴入れちゃったの!?」
「お母さまなら、先ほどお父さまとお出掛けに行きましたよ?」
「なんで息子を置いてっちゃうの!」
「お父さまから伝言を預かってます。“男なら責任はきちんと取れよ”だそうです」
「むしろ俺が責任取ってもらう立場だよ!」
「まぁ、そんなわけで、ちょっと御竿さんに付き合ってもらいたい場所があるんですよ」
何を言っても無駄らしい。父さんと母さんの中では、一体観手はなんだと思われてるのだろうか。俺にとっては疫病神、いや貧乏神に近い存在なのに。女神だけど。
とりあえず、急かす観手を部屋から一旦追い出して、適当な服に着替える。それから観手に連れられるまま、俺は街でも一段と賑やかな場所、この街の中心地へと向かったのだった。
「ここは……」
たくさんの人、人、人。ただでさえ暑いというのに、こんなに人がいたら更に暑くなりそうだ。
フリーマーケットでもしているのか、ブースに人が列を成している。いや、ブースにあるのは……本?
「はい! 夏といえば、コミックマーケット! 通称夏コミです!」
「いや、そんなドヤ顔されても……」
夏コミは俺も聞いたことがある。といっても、前世の話だ。この世界の夏コミがどんなのかは知らないが、この人混みとブース、更に写真撮影エリアを見るに、あまり変わりはなさそうだ。
ただあれかな。俺の周囲にあまり人がいないのは主人公補正か? 人混みは好きじゃないから、有り難いと言えば有り難いんだけど。
「で? 一人で来るのが怖くて俺に付き添いか?」
「まさか。こんなに素晴らしい天国にも等しい場所、御竿さんと回るなんてこっちからお断りです」
「あっそ。帰るわ」
「ごめんなさい嘘です待ってください〜!」
観手が腕に纏わりつくようにして引っ付いてきた。腕に感じた柔らかさは考えないようにした。顔が熱いのは暑さのせいだ、きっと。
「で? 本当の理由は?」
「ちょっとお手伝いをしてほしいんです!」
「手伝い?」
「はい!」
向日葵みたいなその笑顔にほだされて、俺は「いいけど」と返してしまった。その返事が、この日一日、最低最悪の夏休みへの切符になるだなんて、全く考えてすらいなかったのだ。




