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掴み取れ! 勝利をこの手に! その10

 全六色あるチームは、抽選形式のトーナメント戦で争っていく。上手いこと抽選を引けば一回勝つだけで決勝にいけるのだが、


「オレたちにそんなものは必要ない!」


と折角引いたシード権を放棄した会長のせいで、俺たちは二回駒を進めないと決勝へはいけなかった。はず、だった。


「はぁい、皆ぁ♪ 待ちに待った決勝戦! 泣いても笑っても、これが最後の戦いよぉ!」


 そう。特に何もしていないのに、俺は決勝の地に立っていた(肩車されていた、が正しいかもしれない)。会長の見事なまでの策略と、それを確実にこなす太刀根。俺は猫汰に肩車されたまま、それを眺めていればよかった。

 ちなみに一回戦、そして二回戦でも、相手チームの大将を自軍へ連れ込んだ後、どうなったのかはわからない。大将の悲痛な声に混ざって、馬や兵士たちの「たいしょおお!」と泣きながら地面を叩く音が聞こえた気がしたが、俺は最早何も考えなかった。


「さて、同胞よ。今から我らは死地に赴こうとしているが、何か言いたいことがある者はいるか?」


 太刀根の肩に仁王立ちをする会長が演説している。どうやってバランスを取っているんだとか、太刀根の肩は大丈夫なのかとか、つかなんでそんなことをしているんだとか。俺は考えることを半ば放棄していた。


「同胞よ、失うものがあるのは怖かろう。それはなぜか。失くせば元には戻らぬからだ。手を離れ、届かぬ場所へいき、自分の知るものとは違うものになってしまうからだ。だが。我らはそれを許しはしない! 離しはしない! 失うことを恐れる前に、我らが前へと進み、道を切り拓くのだ! 護るべき現在いまは、今、この瞬間だと各自胸に刻め!」

「サー! ブラザー!」

「……」


 なんでこいつらはこんなに燃えてるんだろう。


「さぁ、護くん。いや、我らの将よ。いざ出陣といこうか」

「……っす」


 なるようになれだ。俺は仕方なく会長に頷いた。



「それじゃ、始めるわよぉ! 位置についてぇ、よぉい、スタァト♪」


 そうして始まった決勝戦。どうせ見てるだけで終わると思っていたのだが、決勝ともなると熱気が違う。相手チーム(赤色)は、スポーツ特待生ばかりが集まったチームで、流石というべきか、体つきや目つきが違う。

 その大将に見覚えがある気がして、さて誰だと頭を捻らせていると。


「ぶ、ぶぶぶ部長!」


 慌てた様子の太刀根が叫んだ。すぐに会長から「人語を介すな」とお叱りが飛んできたけれど。

 そうだ。確か四月に武道場で見た先輩だ。あの時は審判用の面をつけていて見えなかったが、モブにしてはそれなりに整った顔立ちをしている。


「や。屹立会長。うちの太刀根を随分と好きに走らせてるようで」

「貴様は剣道部部長、益州(えきす)(とら)ではないか。久しぶりだな。二年ぶりか」


 同じ学校で二年ぶりってなんだよ! どんだけ仲悪いんだよ!


「そっちの大将、太刀根の大事な子らしいね。悪いけど、うちで保護させてもらう。屹立会長の側は危険だ」


 ほんとそれっすよ! 俺は自分の意思を伝えるために何度も頷き、


「こっちで檻に入れて一生飼わせてもらう」

「どっちも危ねぇよ!」


とすぐに前言撤回した。下の猫汰が「あの部長も邪魔だな」と物騒なことを言っていたが、今だけは猫汰に全面同意したい。


「はっ、まずはオレを倒してから言うといい。まぁ、貴様が啼くのは目に見えているがな。精々良い声で啼いてくれたまえ」

「馬鹿にするな! 皆の衆、今こそ屹立会長を亡き者に出来るチャンスだ! 出陣!」


 部長の掛け声と共に、赤チームの騎馬たちが会長へ向かっていく。こちらも負けじと先輩や後輩の騎馬たちが応戦する。しかし体格、運動能力の差によって、次第にこちらの騎馬が少なくなっていく。


「ヤバくね? 俺、連れてかれるのかな……」

「大丈夫、安心して。僕が、いや僕たちは、大将を取られるつもりはないから」

「お、おう」


 そうは言ったが、みるみるうちにこっちのチームは減っていく。そうしてついに、俺たちと会長たちだけになってしまった。


「どおだ! 屹立会長! あとは大将を討ち取って終わりだ!」


 一斉に赤チームの騎馬たちが太刀根たちに襲いかかる。


「護! 駄目だ、早く逃げるんだ! っあああ!」


 ついに人語に戻った太刀根。相当余裕がないらしい。


「ふははははは! 護くんは貴様では守りきれんということが証明されたようだな!」

「うわあああ! 護! 護ー!」


 そうして二人が捕まった時だった。


「御竿くん、僕を信じて」

「へ?」


 何を。とは聞けなかった。

 猫汰が砲丸投げのようにして、俺を部長へと思いきり投げつけたのだ!


「あああああああ!?」


 弾丸のように飛んでいく俺を止めることなど、ただの誰一人としていなかった。いや、むしろいてほしいんだけど!

 ものすごいスピードで騎馬の間を突っ切った俺は、そのまま部長へと迫り――


「ぶぎゃああああ!」

「すんません、部長おおお!」


 部長の顔面に抱きつく形でぶつかり、そのまま部長を地面へ押し倒した! 股間の下に部長の頭が見え、俺は再び叫びながら慌ててどいた。


「勝負ありよ♪ 大将同士の決闘の結果、御竿ちゃんの勝利!」

「へ? 決闘!? えええ!?」


 牧地に腕を掴まれて高く掲げた先。

 嬉しそうに笑う太刀根、にやりと腕組みをする会長、いつもと変わらぬ涼しげな猫汰の姿を見て、誰か説明してくれと、俺は大きく息を吐いた。


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