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掴み取れ! 勝利をこの手に! その7

 昼。俺は太刀根と猫汰に挟まれながら、体育館裏で弁当を食べていた。弁当箱の蓋を外せば、そこには大好物の玉子サンドがびっしりと詰め込まれている。

 朝早くから作っていたもんな。ありがと、母さん。しっかり「いただきます」と手を合わせてから、俺はひとつ目を手に取った。


「はぁーあ、もうすぐ騎馬戦かぁ……。どーすっかなぁ」


 盛大なため息をつきながら、それでもしっかりと俺の弁当に手を伸ばしてくる太刀根。もちろんその手は叩き落としてやった。


「たかが騎馬戦だろ? なんとかなるって」


 軽く言ってのけた俺に、太刀根が「何言ってんだよ!」と肩を掴む勢いで顔を近づけてくる。やめろ、飯が食えん。


「御竿くん。去年の騎馬戦、覚えてるかい?」

「ん? んー、覚えてない、かな……?」


 適当に言って誤魔化すが、もちろん俺は去年の騎馬戦なんぞ知るわけがない。


「騎馬戦。それは大将を討ち取って、自陣へ連れ帰る戦い。ところで御竿くん。歴史上、戦に敗れた大将がどうなるか知ってるかい?」

「え、えと、打ち首とか、拷問、とか……?」


 なんだろう。俺の知ってる騎馬戦とは微妙に、いやだいぶ違う気がしてきたぞ。


「この騎馬戦、去年までは三年生だけの種目だったんだ。僕たちはそれを観戦していたんだけど、それはそれは酷いものだったよ」

「巧巳、それ以上言うんじゃねぇよ。先輩のあんな姿、思い出すだけで……くっ」


 思い出すのも辛いのか、太刀根はそこまで言って口を押さえた。何をされたのか、はたまた何をされるのか気にならないわけではないが、聞きたくない気持ちものほうが勝った。


「うん、とりあえずはわかった。それで? 大将って誰だ? やっぱ三年生?」

「もちろんキミだよ、護くん!」

「ぎゃああああぁぁああ!?」


 後ろの扉がスパーンと開かれ、輝かしい顔つきの会長が立っていた。補足しておくが、この扉、相当重い。こんな簡単に開くものではないと断言だけはしておこう。


「なんで会長がここに!?」

「決まっているだろう。護くん、キミがいるからだ」

「会長は俺にGPSでもつけてるんすか!?」


 驚いた反動で俺の膝から弁当箱が落ちる。


「あ」


 がしゃん。

 虚しく石階段に散乱していく玉子サンド。


「俺の弁当!」


 無事なのは手に持っていた最初の一個だけだ。会長のせいだと言わんばかりに睨めば、会長は「安心したまえ」と指を鳴らした。

 すぐにSPがやって来て、重箱を俺に渡してくる。お詫びの弁当のつもりだろう。だけど俺はこんなのが食べたいんじゃない。折角、母さんが早起きして作ってくれたのに……。


「会長、本当にあんた、なんなんすか……」

「安心したまえと言っただろう。キミの母上が作った弁当は、オレが頂こう」

「は?」


 会長は、颯爽と石階段に落ちた玉子サンドを全て拾い上げると、それをなんの躊躇いもなく自分の口に入れたのだ。


「ちょ、ちょっと会長……」

「ふむ……、流石は護くんの母上だ。どんな高級料理店よりも、いや、比べるのもおこがましいほどに、愛が詰まっている」


 会長が口を動かすたび、じゃりじゃりと砂を噛む音がする。けれど会長は気にすることなく、


「それで、だ。護くん。今年の我がチームの大将はキミにさせてもらったよ」


と登場した時と似たようなセリフを言ってきた。


「はぁ? 会長あんたが大将でいいだろうが!」

「そんなつまらんことはしない主義でな。それとも太刀根攻、貴様は護くんを守りきれる自信がないのか? オレはあるぞ。護くんを勝利に導く軍師だからな」


 ヒートアップしていく二人。悲しいかな、俺の意思はもはや反映されない仕様らしい。

 猫汰が「食べるかい?」と、自分の弁当箱を差し出してきた。黄色い卵焼きがなんとも美味しそうで、俺は「食う」とひとつだけ頂いた。


「会長」

「どうした、護くん」


 太刀根の相手を投げ出し、会長が前髪を払う仕草をする。


「食べたからって、俺会長のこと、許したわけじゃないですから」

「ふっ。本当にキミは面白いな。このオレに、許さないとまで言うなんて、ね」


 そのヤバそうな笑みを見て走った悪寒は、恐怖からなのか。それとも別の何かなのか。いや、どちらにしろ考えたくはないな。

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