表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/190

掴み取れ! 勝利をこの手に! その6

 下獄は保健室まで送ると言ってくれたが、俺はそれを辞退し、早く一年の席に戻るように促してから、二年の席に向かっていた。そこでちょうど会ったのは、ケツ圧測定の集合場所へ向かう猫汰だ。


「猫汰か……」

「あぁ、御竿くん。美脚競走、お疲れ様。久しぶりに走ったから疲れたんじゃない?」

「走った、のかな……」


 むしろ走ったのは下獄だし? なんなら俺はお姫様抱っこされてただけだし?


「あああぁぁ」


 思い出すと恥ずかしさが込み上げてくる。女子をお姫様抱っこしたこともないのに、まさか自分がされる日がくるとは。いや、お姫様抱っこだけで済んでよかったと、前向きに考えよう……。

 遠くから、玉入れ断固拒否とかいう種目の実況が聞こえる。それなりに白熱しているようだが、ここからでは見ることは出来ない(特に見たくもないけど)。


「次、出るんだろ? まぁ、あんまり気負いすぎず、頑張ろうぜ」


 力の入りきらない声で笑ってみせれば、猫汰は「ふーん」と鼻を鳴らした。


「それは応援のつもりなのかな? だとしたら、僕は言葉より行動で示してくれたほうが嬉しいんだけど」


 そう言った猫汰が一歩、俺に近づいた。逃げようにも、さっき痛めた腰のせいで上手く動かせない。そのまま距離を詰められ、猫汰の手が俺の腰を抱き寄せた。


「いっ……つめた!?」


 腰に何か当てられ、反射で身体が震える。


「って、これ湿布?」

「そうだけど。鏡華先生からもらってきたから、とりあえず腰を出してもらえるかい?」

「……」


 疑う視線を向ける俺を、猫汰は頬を微かに緩めて笑い、


「このままだと、明日がきついよ。僕も次あるし、早く出してくれないかな?」

「……わかったよ。何もすんなよ?」

「もちろん」


 体操服を少しだけ捲りあげ、猫汰に背中を向ける。一瞬ヒヤリとした後、じんわりと気持ち良さが広がった。


「猫汰、ありがとな」

「いいよ、それじゃ」


 せめてゴミだけは自分で捨てるかと、猫汰からゴミを受け取る際、


「下獄嬢、か……。邪魔だな」


と聞こえたのは気のせいかもしれない。いや、すまんな、下獄。生き延びてくれ。

 遠くなっていく背中を見送って、さて応援席へ行くかと振り返り、


「御竿さん、楽しんでますか?」

「ぎゃ!」


 そこにいた観手に驚き、変な声が口から出た。


「いやぁ、いい感じにフラグ立ってますね〜」

「うるせぇ。何しに来たんだ」

「そんな御竿さんに朗報です!」

「人の話聞いてるか?」


 相変わらず聞いてるのか聞いてないのか。とりあえずは、観手が何か謂うのを待つことに。


「今、我が色は最下位です」

「まぁ……。そうだろうな」


 今終えてきた美脚競走もそうだったが、パン食い競走(しか)り、俺たちは点数を稼げていない。点数を計上しているわけではないが、まぁ予想はしていた。


「それで? どこが朗報なんだ」

「このまま最下位になると“オレが鍛えてやろう”エンドに突入します」

「うん? 何、そのエンド……」


 聞きたくない。聞きたくないが、聞かなければいけない気がする。


「要はですね。まだまだ体を動かし足りないだろってことで、会長からの」

「あー、もういい、もうわかった。で? どうすれば最下位を抜け出せる?」


 観手を遮って言えば、奴は少し不満げに眉を寄せた。


「私としてはこのエンドも捨てがたいのですが……。え〜と、騎馬戦で勝てば問題ないですよ!」

「騎馬戦、よし騎馬戦だな」


 前世でやったこともある。馬だったけど。このゲームの騎馬戦が、俺の知ってる騎馬戦と同じか知らんけど。


「ふふふ、頑張ってくださいね。まだまだ絡みを見ていたいんですから」

「お前のためじゃねぇよ。この駄女神」


 そう、俺の操のためなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ