掴み取れ! 勝利をこの手に! その6
下獄は保健室まで送ると言ってくれたが、俺はそれを辞退し、早く一年の席に戻るように促してから、二年の席に向かっていた。そこでちょうど会ったのは、ケツ圧測定の集合場所へ向かう猫汰だ。
「猫汰か……」
「あぁ、御竿くん。美脚競走、お疲れ様。久しぶりに走ったから疲れたんじゃない?」
「走った、のかな……」
むしろ走ったのは下獄だし? なんなら俺はお姫様抱っこされてただけだし?
「あああぁぁ」
思い出すと恥ずかしさが込み上げてくる。女子をお姫様抱っこしたこともないのに、まさか自分がされる日がくるとは。いや、お姫様抱っこだけで済んでよかったと、前向きに考えよう……。
遠くから、玉入れ断固拒否とかいう種目の実況が聞こえる。それなりに白熱しているようだが、ここからでは見ることは出来ない(特に見たくもないけど)。
「次、出るんだろ? まぁ、あんまり気負いすぎず、頑張ろうぜ」
力の入りきらない声で笑ってみせれば、猫汰は「ふーん」と鼻を鳴らした。
「それは応援のつもりなのかな? だとしたら、僕は言葉より行動で示してくれたほうが嬉しいんだけど」
そう言った猫汰が一歩、俺に近づいた。逃げようにも、さっき痛めた腰のせいで上手く動かせない。そのまま距離を詰められ、猫汰の手が俺の腰を抱き寄せた。
「いっ……つめた!?」
腰に何か当てられ、反射で身体が震える。
「って、これ湿布?」
「そうだけど。鏡華先生からもらってきたから、とりあえず腰を出してもらえるかい?」
「……」
疑う視線を向ける俺を、猫汰は頬を微かに緩めて笑い、
「このままだと、明日がきついよ。僕も次あるし、早く出してくれないかな?」
「……わかったよ。何もすんなよ?」
「もちろん」
体操服を少しだけ捲りあげ、猫汰に背中を向ける。一瞬ヒヤリとした後、じんわりと気持ち良さが広がった。
「猫汰、ありがとな」
「いいよ、それじゃ」
せめてゴミだけは自分で捨てるかと、猫汰からゴミを受け取る際、
「下獄嬢、か……。邪魔だな」
と聞こえたのは気のせいかもしれない。いや、すまんな、下獄。生き延びてくれ。
遠くなっていく背中を見送って、さて応援席へ行くかと振り返り、
「御竿さん、楽しんでますか?」
「ぎゃ!」
そこにいた観手に驚き、変な声が口から出た。
「いやぁ、いい感じにフラグ立ってますね〜」
「うるせぇ。何しに来たんだ」
「そんな御竿さんに朗報です!」
「人の話聞いてるか?」
相変わらず聞いてるのか聞いてないのか。とりあえずは、観手が何か謂うのを待つことに。
「今、我が色は最下位です」
「まぁ……。そうだろうな」
今終えてきた美脚競走もそうだったが、パン食い競走然り、俺たちは点数を稼げていない。点数を計上しているわけではないが、まぁ予想はしていた。
「それで? どこが朗報なんだ」
「このまま最下位になると“オレが鍛えてやろう”エンドに突入します」
「うん? 何、そのエンド……」
聞きたくない。聞きたくないが、聞かなければいけない気がする。
「要はですね。まだまだ体を動かし足りないだろってことで、会長からの」
「あー、もういい、もうわかった。で? どうすれば最下位を抜け出せる?」
観手を遮って言えば、奴は少し不満げに眉を寄せた。
「私としてはこのエンドも捨てがたいのですが……。え〜と、騎馬戦で勝てば問題ないですよ!」
「騎馬戦、よし騎馬戦だな」
前世でやったこともある。馬だったけど。このゲームの騎馬戦が、俺の知ってる騎馬戦と同じか知らんけど。
「ふふふ、頑張ってくださいね。まだまだ絡みを見ていたいんですから」
「お前のためじゃねぇよ。この駄女神」
そう、俺の操のためなのだから。




