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掴み取れ! 勝利をこの手に! その3

 それほど長くもない開会式を終え、早速体育祭は始まった。最初はパン食い競走らしく、選手に選ばれた太刀根が、意気揚々とスタート地点へと向かう。


「護! 見ててくれよ! 俺、絶対一位になるからさ!」


 ぶんぶんと元気よく手を振られるが、なるべく見えないフリをして視線を反らした。それでも「護! まーもーるー!」と何度も呼ぶものだから、流石にウザくなって小さく手を振り返してやる。


「護! 一位取ったら、俺とデー……いや出かけてくれ!」


 何言ってんだ、あいつは。その立てたフラグをそのまま回収してくれ、頼むから。


 スタート地点に生徒が並ぶ。パン食い競争が知らない奴はいないと思うが、一応どんなのか説明しておくと、大体中間地点にパンのぶら下がった棒があって、そのパンを口だけで取ってからゴールを目指す種目だ。

 ちなみにそのパンを食べきってからゴールするのか、それともゴールしてから食べるのかは、学校ごとに違うと言っておこう。

 いいか? 俺はちゃんと説明したぞ。


「ぬおおお! なんであんたがパン係なんだっての! ゴール出来ねぇじゃねぇか!」

「はっはっは。貴様、一位になったら護くんと出掛けるつもりなんだろう? そんなことさせるわけがなかろう!」


 会長がいる。なぜか会長はスティックパン(チョコ味)を手にして、それを太刀根に食われまいと右に左に手を振ってかわしている。

 他の生徒を見るに、どうやらこのパン食い競走、パン食わせ係とパン食い係に分かれ、食うほうのスピードに合わせて食わせ係が口に詰め込んでいくらしい(ちなみに一袋分だ)。二人の息が問われる種目だが、あの二人、どう見ても息が合っていない。


「こんの……、あんたどんだけ俺らの邪魔をすればいいんだよ!」


 待て待て。いつから俺とお前はそんな関係になってたんだ?


「貴様のその表情かお、いつ見ても爽快だ。さて、オレが護くんを手にした時、どう歪んでくれるのやら」


 あかん。あの人もヤバいやつや。どっちも応援したらあかん。だけど違う色を応援するのはチームメイトに失礼だ。そんな俺が取れる行動はひとつだけ。

 そう、静観だ。


「なんでそこまで護にこだわんだよ! どうせいつもの暇潰し程度なんだろ!? あんたの遊びに付き合った奴らがどうなったのか、知らねぇわけじゃねぇだろ!?」

「他の奴らなど興味ない。貴様とて、オレのことを知らぬわけなかろう? だから貴様は駄目なのだ」


 なんだろう。かっこよさげなこと言ってるんだけど、パンを食われまいとひらりひらりとかわす会長。そしてそれを必死に追う太刀根。

 まるで闘牛が旗を追いかけているように見えて、俺はつい笑いが込み上げてしまった。


「さて、貴様と遊ぶのも飽きた。これで終わらせよう」


 会長はそう言って、手に持っていたスティックパン(一本目)を太刀根の口に押し込んだ。


「ふぐっ」

「まだ一本目だぞ、もう限界か?」

「ま、だ、まだぁ!」

「そうこなくては」


 容赦なく二本目、三本目がねじ込まれる。


「んんっ」


 流石に三本同時はきついのか、くぐもった声が太刀根の喉から漏れた。


「三本も咥えるとは……。全く、行儀の悪い口だな?」

「ん、んっ」


 かろうじて空いていた隙間に、さらに一本足され、計四本のスティックパンが太刀根の口に咥えられている。太刀根の口からだらしなく涎が伝うのを、会長が愉しそうに見つめている。

 何これこわひ。


「ほうら、あと三本あるぞ? いけるだろ? 太刀根攻」

「んん、んんん、んー!」


 太刀根が無理だというように首を横に振る。手を使えばいいのにと思ったが、そこは競技中だ。スポーツマンシップ溢れる太刀根は、最後まで手を使うことはなかった。


「んっ、んんっ」


 計七本咥えた状態の太刀根は、足元をふらつかせながらも、気合と根性で会長を睨みつけた。てか口からパンが生えてるみたいで気持ち悪い。ああいう敵キャラ、どっかで見たことあるわ。


「んふっ、ふぐぅ……!」

「早く呑み込め。それとも手伝ってほしいのか? 仕方のない口だな」


 会長は容赦なくパンを口に押し込んでいく。それを太刀根は嫌がるが、ラスボスの会長に敵うわけがない。ぐりぐりと力づくで奥に押し込まれ、その七本のパンは瞬く間に胃に吸い込まれていった。


「はっ、はあっ……。も、もう満足しただろ!? いいかげん解放しろよ!」

「そんな砕けた腰で言われても、全く説得力などないが……。まぁいい。どうせもう一位ではない。早くゴール(フィニッシュ)するといい」

「この、この……っ」


 涙目になりながら走り出した太刀根を見て、俺はこう思っていた。パン食い競争、出なくてよかったなぁ。


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