表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/190

GWは引きこもっていたかった! その6

 どうしてこうなった……。


「遠慮しないで食べなよ!」


 ずらりと並んだ料理を前にして、センパイは仁王立ちして自慢げに鼻を鳴らしてきた。

 鳥の丸焼き、ローストビーフ、どこぞの高級食品を使ったとかいうパスタ。なぜ俺が、こんな豪華な料理を眺めているのか。それはかれこれ、二時間前まで遡る。


 センパイを背負ったまま歩き続け、家の前(センパイの家の前でもある)に着いたのは、日も暮れ始めた時刻だった。


「センパイ、着きましたよ」

「じゃ、早く中、入って」

「嫌です」


 間髪入れずに答えれば、センパイは俺の首にがっしりと腕を回し、耳元に唇を寄せてきた。これが女子だったのなら、背中に当たる柔らかい感触だったり、ふわっと香るいい匂いだったり。そして甘い声で、何か囁かれてドキリとするのだろう。

 ところがどっこい。俺の腰辺りに感じる生温い感触が何かなんて考えたくないし、匂いは無臭だし、息がかかる度に鳥肌が止まらない。そんな状態で、


「ねぇ、早く入って……?」


と言われたところで、更に悪寒が走るだけなのである。

 俺はそこで我慢の限界を感じ、何も断ることなく、センパイを背負投げの要領でぶっ飛ばした。不意を突かれたセンパイはそのまま背中から地面に落ちていく。


「いった! 本当に痛いんだけど!」

「じゃ、センパイ。俺はこれで」


 とっとと家に入ろうとする俺を更に引き止めようと、


「ボクをこんな目に合わせといて、ただで帰れると思わないでよね! SP、SP!」


とセンパイがありったけの声量でマンションに向かって叫んだ。ちなみにSPというのは、要人警護にあたる警察官のことで、間違ってもこんな一個人を警護するような立場の人ではない。


「センパイ、SPなんて大袈裟な……っ!?」


 しかし、その声を合図にマンションから出てきた屈強な男たちが、あっという間に俺たちを取り囲んでいった。全員白いスーツを着ていて、髪は剃られている。


「あの御竿護とかいう奴を連れ込んで!」

「イエス、マイブラザー」

「はぁ!? ちょ、ちょっと待てって、おいどこ触ってんだ! やめろ、やめろおおお!」


 あれよあれよという間に、俺は神輿のように担がれ、そのままマンションへ強制連行されたのだ。


 そうして並んだのが、この料理たち。ちなみに俺の両手には手錠がかけられている。


「食べないの? 嫌いなものでもあった?」


 この様子だと、悪気は全くないらしい。むしろおもてなしをしているつもりなのだろうか。


「とりあえずこの手錠を外してからそれを言え」

「やぁだよ。だってキミ、外したらボクを襲うだろ?」

「襲うかバカ! むしろ俺のほうが色々と危ねぇだろうが!」


 ちなみにこのマンション、最上階丸ごと双子の家らしい。いいか、ワンフロアだ。想像できるか? エレベーターが開いたらそこは玄関で、既に家の中にいたのだ。

 ちなみに特殊な鍵をエレベーターのボタン部分に差し込むと、このフロアへ辿り着けるらしい。どこのダンジョンかと言いたい。


「折角、このボクを送り届けたお礼をしてあげてるのに。何が気に食わないんだ」

「全部だよ!」


 ガチャガチャと手錠の音が鳴る。なんとか外そうとしてみるが、簡単に外れたら、それこそこいつにとって意味がないものになってしまう。外れる望みは薄い……。


「あぁ、早くご飯を食べたいんだね。心配しないでよ、ボクが直々に口に入れてあげるから」

「ちげぇよ! アニメが見れんだろ!」

「アニメ? それが不満だったのか。これでよしっと……」


 センパイが手元のリモコンで操作すると、天井から三台の薄型テレビが降りてきた。それぞれに、今の時間から放送されるアニメが映っている。


「何がいいのか説明しろ」

「もう、煩いなぁ。よいしょっと」

「おわっ、どこ乗ってんだ!?」


 奴(もうセンパイと言うまい)は、俺に跨るように座ってきた。手錠をかけられた両手の上に、生温かい嫌なものが当たり、俺は声にならない叫びを上げる。


「ん……、ちょっと、そんなに激しく動かないでよ」

「だったらお前がどけ! それで解決すんだろ!」

「ぁ、壱の手より少し小さい、ね……」

「ギャァァァあああ!」


 もう手が小さいとかまじでどうでもいい。飯でも肉でも野菜でも食う。でもお前(正しくは男全員)を食いたくはねぇんだよ! 食われるのも断固拒否だけど! そんな半狂乱な俺に届いた、


「終、何やら楽しそうなことをしているじゃないか」

「か、会長……」

「壱!」


の声は、果たして救いとなるのか。それとも秘密の花園への片道切符となるのか。魂が口から抜けそうになるのを、俺はただ必死で抑えるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ